第28話 エレーナの過去

「で、どうします?」


 俺はこのままじゃ埒が明かないので、二人にそう尋ねた。俺の言葉に二人ははっとしたようだった。


「あ、ああ……すまん。どうやら君の言うことは信じるしかないな。ってことはあれだけの古代魔獣の魔石を手に入れたのも理解するしかない。量は別として、古代魔獣を倒すくらいの強さはあるのだろうから」


 ガイルさんは砕け散った水晶をじっと見ながらそう呟いた。エレーナさんはその水晶を片付けようと集めている。


「あの、さっきから古代魔獣って何ですか? 俺は棄てられた森に戻って魔物を倒して来ただけですが」


「そうか。プラトンに棄てられたって言ってたわね。ちょっと待ってね」


 エレーナさんは水晶の破片を横に除けて、代わりに一枚の紙をテーブルの上に広げた。どうやら地図のようだった。すると、エレーナさんがその地図の一部分を色々と指差しながら話し出した。


「ここらへんにベネザの街があるわ。でこっち側がプラトン。間に森があるでしょ? ここにも魔物が出るわ。私はこの辺の森だと思ってたんだけど……多分ケント君はこっちの森に棄てられたんでしょう。この辺はロストランドと呼ばれてて、普通の魔物だけじゃなく古代魔獣も出るらしいのよ」


 最後に指をさした森は地図の中心に広がっている。エレーナさん言うには俺が棄てられた森はこのロストランドと言われる地域のようだ。


「らしいって?」


 俺はエレーナさんのはっきりとしない言い方が少し気になった。伝聞でしかないような口ぶりだったからだ。


「私は行ったこと無いからね。遺跡に住む魔物だってパーティーを全滅させられるんだから、ロストランドになんか行くことなんかする気も起きないわ」


「あの、脚を無くした時の話ですね」


 昨日、エレーナさんから聞いた時の話だろう。仲間も死んでいくなかって言ってたな。


「無くしたのは脚だけじゃないわ。弟も恋人も目の前で魔物に喰われてね。骨を噛み砕く音、腑を啜る音。今でも耳に焼き付いてるわ。私は魔導士で二人が庇ってくれたから脚だけで済んだけど。まあ、助けて貰うのが遅かったら私もここにはいないでしょう」


 俺が思っていたよりも壮絶な光景だったようだ。ただ知り合いじゃない。肉親と恋人という知り合い以上の関係の仲間が目の前で貪り喰われる。ここが平和な日本じゃなく、異世界だと実感させられる。俺は絶句することしか出来ない。


「ま、私の話はもういいわ。もう何年も前の話だしね。そんな話よりケント君についての話をしないとね」


「俺についての話? どういうことですか?」


 エレーナさんは一瞬だけアリアを見てから視線を俺に戻した。


「いや、昨日はあんなことになっちゃったから私はすぐに帰ったけど、帰ってから考えたのよ。ケント君は何をしたいのかなって。この世界にすぐに棄てられたって言ってたでしょ? 何も知らないだろうし、何か手助け出来ないかなって。ギルドマスターもいるしちょうどいいかなって。ケント君の話聞かせてくれない?」

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