うちに来た男の子には、どうやら秘密があるようです。

肥前ロンズ

前編

 我が家に、同い年の男の子がやって来た。

 どうやら、身よりのない親戚の子らしくて、たらい回しにされていたらしい。

「サチに迷惑をかけるが、いいか」と両親に尋ねられたけど、迷惑の意味がわからなかったので、「困っている子どもを助けなかったら、大人としての二人を軽蔑する」と返した。

 けど、ちょっと早まったかもしんない。

 噂によれば、その子は情緒不安定らしく、たびたび問題を起こしたようだ。何も無いのに叫んだり、突然逃げたり飛び出したりしたらしい。

 うーん、そんな繊細な子だと、あたしみたいなガサツな人間は彼を傷つけてしまうかも。良く考えれば、親の庇護がない子ども時代なんて、情緒不安定にもなる。答えた時は、そこんとこの覚悟がなかったな。

 出来る限り、当たり障りない距離から声をかけて、無理に距離を詰めない方がいいかもなあ。けどあたし、すぐ近づいちゃうからなあ。気をつけられるかなあ。

 なんて思いながら、元は書斎だった彼の部屋の前を通ると。


「……から、困るって!! この家から出ていってくれ!」


 彼の声だ。

 切羽詰まった声。緊急事態!?


「どうしたタケル――!?」


 バァン! と、ドアを開ける。

 そこにいたのは、同居人のタケルと、



 柿の頭にニョキっと手足が生えた生き物だった。


「あ」


 顔を青ざめたタケルと、眉が濃ゆくて彫りの深い顔をした柿が、こちらを見ていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る