第3話 【何者】

今日は自己紹介、健康診断がメインらしい…。

早くみんなの名前覚えたいなー、どんな子達なんだろう、ワクワクしてきたーw

終わったら、あの蝙蝠こと伊川くんに聞かなきゃ…。


<今日も早く着いちゃった…伊川くん居るかなー?……居ない…、ちょっと残念>



定時制高校は、全日制とは違い、夕方から授業が始まる。そして、教室も同じであるため、全日の生徒が下校してからでないと、入室できないのである。

学校によっては、時間がそれぞれ違うが、この学校は、木曜日以外は始業17:10 終業21:25。木曜日は5分前倒し始業、15分遅れ終業である。



『こんにちは、生憎のお天気なのに渡くんは今日も早いね~~。でも無理しちゃダメよ、最初はゆっくり慣れていくようにした方がいいよー。』

「中川先生、こんにちはー。なんだかソワソワしちゃって、早く来ちゃいました。バイトもあるんで、こういう日は続かないと思います…」

『そっか…頑張ってて偉いね、オマケに素直だし、教室が空くまで待っててね』

『あっ、そうだ!今日は委員長と委員会決めるから、よろしくねー』


<先生、返事も聞かずに行っちゃった…>




「こんにちはー」『コンニチハ』ボソッ

「こんにちはー」『コンニチハ』ボソッ

「こんにちはー」『コンニチハ』ボソッ

「こんにちはー」『コンニチハ』ボソッ



<なんだろう、めっちゃ、俺浮いてねぇか…。めげるな俺!>




シーーーーーン、ヒューーーー、ガタガタ、シーーーーーン



<だいぶ揃ってきたなー、でもめっちゃ静か…廊下側の木枠の窓の音しか聞こえない…>


カツッカツッカツッカツッ


<またヒール?>



ガラガラ

<来たー!伊川くん!! The...蝙蝠!! 何も言ってないのに、めっちゃ睨まれてる…てかヒールじゃない…何の音なんだろ…>


「こんにちは、伊川くん…で合ってるよね?」


チラッ


<握手したくて手を出してるんだ、チラッて見るなら、何か喋ってくれーー! めっちゃこえーよー>



[はぁーーーー。あぁ、合っている。まさか、間違っているかもしれない名前を自信満々に言いながら手を伸ばす奴が、世の中にいるとは思えんくて、観察していただけだ…他意はない。渡 敦也くん。]


「えっ!? 俺自己紹介したっけ?」


[君の記憶は合っている。昨日は君と一言も話した記憶はない。ただ、観察しただけだ。]


『ドヨドヨ、ザワザワ』


「えっ? どうして分かったのかよければ教えてくれないか?」


[あ? 面倒だ]


<えっ!? 当たり強くねっ…、負けるなオレー!>

「頼むよー、なぁお願いっ! ついでに俺のこと、見えること全部言ってみてよ」


[はー!? お前、図々しくないか? なんだその目は…(言うまで諦める気はないのか…これは、めんどくさいやつに絡まれた)。

分かった…仕方ない、答えてやる。

そうだな、まず、名前は渡 敦也。歳は、うーーんと…17といったところか、ここから3駅離れた、鳩峰駅周辺に住んでいると推測される。医者志望、親と同居している。バイトは、焼肉屋と言ったところかな…そして、運動が得意、主に走ることに関しては、秀でている。といったところかな。以上、何か反論は?]


<スゲェ…超えて、こえー、なんだ?なんなんだ…こいつは。これが探偵ってやつなのか……>

「あっ、あぁ、合ってるよ…。でもどうしてそこまで、分かるんだ?」


[それの説明がいるのか…はぁーーーー。名前は、君のリュックにぶら下がっている定期券から、医者志望は、君の机を見れば一目瞭然だ、医療系の参考書が大半だ。言われずとも分かる。]


「鳩峰駅ってのも、それから?」


[いや。君は自転車の鍵をポケットに入れているが、学校には市駅から歩いて来ている。つまり家から最寄りまでは自転車で来て、そこから電車を利用している。だが今日は生憎の天気だ、なのに雨具は、折り畳み傘一つ。の割には、濡れていない。つまり雨合羽を着て駅までは行ったことになる。まさか折り畳み傘で、傘さし運転はしてないだろうしな…。雨合羽を持ってないところを見るに、自転車の籠に入れたか、自転車にかけてきた、と言ったところかな。

まぁどちらにせよ、屋根がある駐輪場に置いているから、それができるんだろうがね。そして屋根付き駐輪場のある駅は、市駅から2駅離れた山越、3駅離れた鳩峰、5駅離れた四津、のどれか。そして鳩峰に絞った理由は、君の靴だ。山越と四津の駅の外は、全面はコンクリートで舗装されておらず、雨が降れば泥濘ができる。そこを通れば、靴が必ず汚れる。だが、君の靴は、ほぼほぼ無傷と言っていい。よって、鳩峰に絞った。]


[親との同居は、君の服の匂いだ。別に偏見があるわけではないが、服から漂う柔軟剤の匂いは、女性が好む傾向にある匂いだ。そして、アイロンが丁寧にかけられたのであろうボタンのところまで皺が少ない服を着ており、親の存在がよく分かる。まぁ、その年齢で彼女と同居している可能性がなきにしもあらずだが、その可能性は、ないに等しいだろう…。彼女が居れば、女子に対し、気さくに話し掛けはしないだろうし、友達になりたくて話しかけたとしても一線は画すものだろ? まぁ、女子なら誰とでも寝るような男には見えないから言っているだけだがな。]


『笑える笑えるw』

<スゲェけど、軽くディスられてる…>


[バイトを焼肉屋だと推定したのは、その手の包丁ダコと、入学式で、君から微かに香った、匂いから判断した。包丁ダコができるということは、それだけ包丁を握っているからだろうが、普通の包丁ダコなら、右手の人差し指の付け根に出来て、まれに人差し指の第2関節から第3関節にかけてマメができる人もいる。だが君の場合は、俗に言う、指押し型という魚屋、肉屋がよく用いる持ち方にできやすい、中指にもタコが出来ているが、真新しい傷はない。つまり。肉を扱うか魚を扱うか…のどちらかでバイトを始めて歴がある。そして、あの日君からは、胡椒、大蒜、生姜、そして豆板醤やコチュジャンなどのスパイシーな香辛料の匂いがした。つまり、焼肉屋の可能性の方が高い。まぁ焼鳥という線もあるが、豚や牛の臭いの方が近かったというだけのことだ。]


[運動が得意というのは、なんてことはない、君の太股の筋肉が、ただ自転車に乗っている高校生より、発達しており、走りに向いている筋肉だから、というだけのことだ。以上長々と説明したが、不明な点は、あるかね?]


「な、ないです……めっちゃ合ってるし、ビタアテ、だからビックリした!! すごいよ、めっちゃスゴイ! えぇっと、アレ? アレみたい、有名な小説の主人公…」


「そう! ホームズみたい!!」




[っ!? 私がかね? ふんっ、あり得ないね。彼は、世界で最も著名な名探偵。 私は、彼のようにはなれんよ……]



「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど…………」




ガラガラガラガラ


『席着いてー、授業始まるよー』
















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