28.中間試験初日

 多摩北高校、一学期の中間試験初日。聖、渚、レオは三者三様な心持ちで登校する。渚は武蔵野亭での勉強がはかどっていつもより自信があった。目指せ学年50位、いや30位。あわよくば楓に勝ちたい。レオは上位を死守すべきラスト2日でスパートをかけた。昨夜は寝ていない。聖は怪猫事件に頭と心を全て持っていかれて勉強に手がつかず「どうせなら嵐が学校に直撃して延期になればいいのに」と思ってしまうほどだった。

 聖が武蔵野亭を出た時、空はどんよりと曇っていた。湿った空気が身体に纏わり付き、風がビュービューと吹きつける。「うそうそ、嵐なんて来なくていいです!」と先ほどの物騒な願いを取り消した。

 風は刻一刻と強くなってきて、駅に着くと、強い風の影響で電車が遅延していた。ギリギリに出たから遅刻は免れそうにない。ただでさえ自信がないのに、遅刻したら試験時間が短くなってしまう。もはや試験は絶望的だ。

 電車は15分遅れで出発した。これはどうしようもないアクシデントなので別日に再試験にしてもらえないだろうか。まわりをみると同じ制服の学生もちらほら見える。遅刻者が多ければ学校としても考えてくれるはずだ、という淡い希望が出てきた。

 駅を降りて学校に向かって歩くと、風が一段と強くなってくる。強いなんてものじゃない。歩くことすら難しい。こんな強風、初めてだ。

「……くん」

 風の中から自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、真後ろに見覚えのある女子生徒の顔があった。大きなくりっとした目、髪を押さえつけようと苦労している様子も可愛らしい。

「高井戸先輩、おはようございます」

 声を張り上げないと届かない気がして、腹に力を込める。

「やっと気づいてくれた」

 相手もがんばって声を張り上げている。

「今連絡がきて、今日学校休みだって」

 聖がスマホを取り出すと、クラスのグループLINEに投稿があった。

「本当だ。休みだ」

 楓が「駅まで戻ろう」と促し、二人で引き返す。

「すでに学校にいる人は、体育館に移動して風が弱まるまでやり過ごしているみたい。渚もそこにいるって」

 学校から少し離れると、風が弱まったように感じた。気のせいだろうか。

「ちょっと風弱まったかな?」

 楓も同じように感じているようだ。

「やっぱりそうですよね?」

「うん、よかった」

 互いの表情に安堵の色が浮かぶ。

「あ、でも学校はこのまま休みにして欲しいなあ。時間ずらして試験やります、なんてことは勘弁して欲しい」

「いやあ、まさかそんなはことはないと……」

 思いますけど、と言おうとして、学校に目を向けると正門付近の木が折れて飛ばされたところだった。閉じられていた両開きの門扉も揺れている。ガタガタ、という音が聞こえてくるようだった。軽口を叩いていた楓も目を見開いて、同じ方向を見つめている。


 ***


 本来は目に見えないはずの風の流れが、まるで剣の激しい打ち合いのように、その軌跡が見えた気がしていた。楓は目の前の異世界のような光景に魅入られている。

「渚さんたち大丈夫でしょうか?」

 聖の言葉に我に帰り、思い出したようにスマホを確認する。グループLINEに校内の人たちの投稿があり、とりあえずは無事なようだ。改めて考えると不思議だ。聖と楓がいる場所は風の勢いが弱まり、すぐ近くにある学校だけが集中砲火を浴びているみたいだ。

「聖くん、ちょっと思ったことあるの。とりあえずどこか入らない?」

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