【カクヨムコン9短編】紙芝居
雪うさこ
紙芝居
リビングでテレビをかけながら、パソコンで書類を作っていた。キッチンからは、妻の葵が夕飯の支度をしている音が聞こえてくる。
明日までに仕上げなくてはいけない企画書だ。どうせボツになるに決まっている。同期の武井の企画のほうがいつも面白い、と取り立てられるのだから。そう思ってしまった瞬間。なんだかやる気が失せた。
僕はパソコンを打つ手を止めて、ふとテレビに視線を向けた。テレビでは、昭和歌謡の特集番組が流れていた。懐かしい曲だった。僕が小学生の頃に流行っていた、アイドル三人組の歌だ。
すると、ふと。子どものころのとある出来事が脳裏をかすめた。
——紙芝居。そうだ。あの時の紙芝居屋は、どうしているのだろうか。
「ごはん出来たよ。食べよう」
黒い髪を肩のところで切りそろえて、赤いエプロンをしている葵が笑った。僕はテレビを消してからダイニングテーブルに腰を下ろした。
***
「なあ、なあ。紙芝居。見たか?」
朝。学校に行くと、友達の大輔が寄ってきた。
「紙芝居?」
「そうだよ。昨日の放課後。稲荷公園のところに紙芝居屋が来ていたんだよ」
大輔の話だと、自転車の荷台に木箱がくくりつけてあって、そこで紙芝居を読んでくれるらしい。僕たちよりもっと上の人たちが子どものころに流行ったようで、見たことがなかった。
「面白かったぜ。怪人影男爵を少年探偵団がやっつけるんだって」
「へえ。なにそれ。面白そうだね」
「昨日は太郎と見に行ったんだ。今日はお前も一緒に来るか?」
「いくいく。でも。お金かかる?」
「紙芝居見るだけならタダなんだって。けど、おじちゃんがお菓子売ってるから、お小遣いは持って行ったほういいぞ。一回、家に帰ってから集合な」
どうせ帰ってもやることもない。ちょうど、書写の半紙がなくなったから、買ってくるようにって100円もらったんだ。それを使っちゃえば、家に帰らなくても済む。早く見てみたい。紙芝居。面白そうだな。僕はそう思った。
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