第8話 Net:idol
ライブ会場に移動すると、ライブはもう始まっていて、ステージには二人がとびっきりの笑顔で、最高のパフォーマンスをしている。
お前らのステージをこっちから見るのは初めてだな。
……いや、Etoileはオーディションで見たっけ?
「今日は急なライブ開催だったけど、来てくれてありがとーっ!」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんがこんなにも会いに来てくれて、あやとーっても嬉しいな♡」
ダンスやパフォーマンスのEtoile。
特定の層を狙い撃ちにしたAYAYA。
どちらもアイドルとしてのスタイルは変わってないが、レベルは上がってる。
「すごい、でしょ。」
「……ああ」
多分、認めたくないけど、今アイツらと競ったら負ける。
Octoberがどうとかチームとしてとかそんな問題じゃない。
俺個人の実力の問題だ……クソ。
「あの2人。いや、5人は、2年前に全てを失った。仕事も、地位も、名声も。」
次の曲が流れ始め、2人は歌い出す。
少し低音なEtoileと可愛いAYAYAの声が混ざって、会場を染め上げていく。
Etoileはともかく、AYAYAが未だに成長を続けているのは俺の先生ながら恐ろしいとも思う。
「そして、優秀な、リーダーも、失った。」
「それはあいつらが裏切って、切り捨てたからだろ」
「違う。」
Octoberの目……何でお前そんな目出来るんだよ。
「誰か、1人が、裏切った。それに、全員巻き込まれた。」
「何でそれが分かる」
「彼女達は2つに別れた。AYAYAとEtoileとLily、そして春歌と大和姫。きっと、どちらかに犯人がいるって、意見でも割れたんだろうね。」
彼女の目はライブから何かを学ぼうとする目じゃない。
あいつらに興味が無い。
そんな目だ。
それどころか、もっと別の物を見ているような……。
「5人は2つに別れたけど、ゼロから、ううん。マイナスから活動をしてた。だから、2年前とは違う。彼女達は、さらに進化した、強敵。」
「何故、1人が裏切ったって分かるんだ」
「これ。」
送信されてきたデータには、2つのグループのメンバー紹介とグループ目標が書かれている。
「……ふざけんなよ」
そこには、ふざけた事が書いてあった。
意味の分からない、全く理解できない一文がそこにある。
『かつてのリーダーに戻ってきてもらう為の場所の確保』
ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!
お前達が俺を追い出しておいて、俺の為の場所を確保してるだと!?
「もし集団で、リーダーを裏切るなら、まず2つに別れない。それに、ライブの傾向は違うけど、それだけは2つとも同じ目標。だから、きっと犯人は単独。」
「何で追い出した奴の場所とか書いてんだよ! イメージ戦略か!? 残ったPeepingのファンまで取り込もうって事なんだろ!?」
俺を追い出しておいて、ふざけるな!
俺から居場所を、未来を、ファンも全て奪ったってのにまだ利用するってのか!?
「その線は、無い訳じゃない。でもね、Peepingって名前は絶対にプラスには、働かない。名前を聞いただけでも嫌な、顔されるんだから。戦略としては、使えない。」
「なら、何で!」
曲が終わった。
続けて、新曲発表があるらしい。
「それじゃあ新曲、いっくよー!」
「お兄ちゃん達の前で歌うのは"ハジメテ"だから、しっかり聴いてほしいな♡」
Octoberは新曲にもずっと変わらない目でステージを見て、小さく、本当に気の所為だと勘違いしそうなぐらいに、だけど確実に舌打ちをした。
「犯人以外の4人は、今でも本気でリーダーを探してるって事。」
ありえない。
俺は……もうPeepingとして活動なんて出来ない、なのに……あいつら。
「でも、まだ犯人は見つかってない。」
つまり、犯人以外は俺を待ってくれてるって事だ。
誰が、いったい誰が俺を裏切ったんだ。
……落ち着け、冷静になれ。
今はもうPeepingじゃない、俺はPhantomなんだ。
「それで……それを俺に伝えて、このライブを見せてお前は俺にどうして欲しいんだよ」
「ウチらが、倒さなきゃいけない、グループのライブ、見た事無さそうだったから。見てほしかった。」
天歌やOctoberとプロオーディションに挑むって事は、俺を信じて、裏切らなかった4人の夢を潰すって事になる。
だからと言って、今更Peepingに戻っても犯人が分からない以上また裏切られる可能性がある。
「Phantom、貴女は、確かにかなりレベルの高いネットアイドル。でも、彼女達は常に成長して、進化してる。だから、負けてられない。絶対に、絶対に勝たなきゃいけない。」
それに、Peepingに戻ったとしても……ファンからのイメージは最悪だろうし、いい事はあんまり無さそうだ。
「今の俺達じゃ、勝てないな」
「2年間、ブーイングを受けても、物を投げられても、ライブ会場を貸してもらえなくても、努力で元の場所に戻った天才達。はっきり言って化け物。」
確かに俺は裏切られた。
そしてネットから逃げて、何もかも信じられなくなって孤独に生きてきた。
だけど、あいつらは違った、逃げなかった。
「2年前の彼女達と、貴女は同水準。ま、全員得意分野が違ったけど、でも。今の彼女達と、貴女じゃレベルに差がある。それは分かって。」
「だから俺にもっと努力しろってか、言われなくても分かってるっての」
見渡せばかつての仲間達の広告がいくつもある。
マイク、衣装、ステージライト……ネットアイドル関連の物の多くに彼女達が描かれていて、俺には無かった物を持ってる。
差を嫌でもわからされる。
「Phantom。」
「何だ、戻って練習か? 当然付き合うよ」
ファンの声が大きくなり、曲が終わったと分かる。
それと同時に、Octoberの目は興味の無い物を見る目から普段の目に戻る。
「初めて会った日の事、覚えてる?。」
「覚えてるよ。……そいやあの時も俺とお前だけで話をしてて、天歌が俺の友達だと勘違いして誘ったんだったよな」
「なら、言った事、覚えてる?。」
「ああ、正気じゃないって思ったからな、はっきりと覚えてるよ」
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