第7話 Net:idol


 背伸びをして天歌の待つ地下室に行こうとすると、Octoberが紅茶の置かれた机と、空いたイスを指差してこっちを見てやがった。

絶対何か天歌に話せない話があるんだろうなぁ。

 

「天歌はもう行ったぞ」

 

「それじゃ、飲んで。」

 

ネットで飲んでも別に現実の自分に何かある訳じゃない。

ここで飲み食いすれば何も食べずにいられるかと言われれば違う。

だからコイツがここで紅茶を飲むのが好きって意味がわからん。

 

「へいへい、んで、どうしたよ」

 

「お菓子も、ある。」

 

昔、意味ないって言いながら皆で通った店があったよな、まだ残ってんのかな……。

 

「ありがと……んで、話は?」

 

「Phantom、トップネットアイドルの、ライブ、興味ある?。」

 

Octoberの手にはチケットが2枚握られて……あ、2枚!?

 

「天歌は」

 

「まだ、早い。天歌じゃ、参考にならない。コレは、ウチらレベルの、人間がさらに上に、上がる為に、最適。」

 

チケットに書かれた名前から、出演はかつての仲間2人だって事が分かる。

 

「AYAYAとEtoile……か、俺と得意な分野があまりにも違いすぎて参考にならないと思うけど」

 

「だから、見に行く。ウチはEtoile、PhantomはAYAYAを参考にする。」

 

Octoberの話、間違ってはいない。

彼女は確かにトップレベルのネットアイドルだが、Etoileのような体全体を使ったパフォーマンスが苦手っぽいしな。

 

「ちなみになんだけど……何で俺はAYAYA?」

 

「アレの作ってる、演じてる女の子は、どんな女の子よりも、女の子だから。少しでも女の子を、学んで。」

 

「アバターも戦略も違いすぎるだろ! アイツは幼女アバターを使って男をターゲットにしたネットアイドルだ、俺の戦略とは違う」

 

「でも、人気、ある。」

 

「そもそも中身はもう30過ぎだぞ? いつまであのキツイキャラしてんだか……ッ!」

 

しまった。

AYAYAの年齢は公開されてない、知ってるのは元仲間だけ。

なのに、俺はさっき何て言った。

30過ぎって、普通に話してた。

 

「Phantom。」

 

「な、なんだよ」

 

こんな事でバレるのか?

こんな所で終わるのか?


「年齢どうこうじゃ、ない。ファンが付くか、そうじゃないか、それだけ。」

 

……さてはコイツ、AYAYAのプロフィールを見てないな?

助かった、助かった!

よし、よし危ねぇ! 次からしっかり考えて発言しよう、そうしよう。

 

「でも、AYAYAは」

 

「さぁライブ見に行くぞ! 天歌は練習中みたいだし、さっさと行こうぜ!」

 

「……手、引っ張らないで。」

 

とりあえずこの話は終わらせたい。

ライブに行けばコイツもきっとこの話は終わらせる、そうであってくれ。

 

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