ROUND 3 勇者は如何にして勇者であるか

 1人の青年が闇の中から出てくる。


「開演の前に、お客様にご注意がございます」


 その姿は華麗な貴族のようである。


「本サーカス団は魔法を使っている本格サーカスとなります」


 しかし赤と白のコントラストがはっきりとしているソレは……貴き者達が着るような衣服ではない。


「流れ弾には充分に気を付けておりますが、それでも客席へと魔法が飛んでいく可能性がございます」


 だからこそ、その斬新で目に毒の衣服が彼の特徴として名付けられる。


「予め、ご了承下さいませ」


 その名は、もう1人の戴冠者CROWNED HERO


 このサーカスをただ1人で作り上げた世界の異端である。





 小さく点る焔が闇を照らした。

 次第にソレは大きくなり……やがて頭上を全て呑み込む。


 傲、と雄叫びを上げた橙が散っていくと、そこには勇者がいる。

 思い出したかのように背中に手をやると、そこから大きな刃物が出てきた。

 片手で腕ほどの長さを誇るその刃を掴み、放り。


「さあ1本目!」


 落ちてくる柄を再度放る。

 その間に空いたもう1つの手で遠くを指す。

 するとそこから新たな刃物が出てくる。

 指を曲げた途端に凄まじい勢いで飛んでくるその柄を蹴り飛ばすと、1本目と同じように放り始めた。


「まだまだ、2本目!」


 脚を伸ばしたままの勇者は壇を踏みつける。

 その勢いで仕込まれていた刃物が四方から襲い来る。


「一気に!6まで!」


 飛び上がる。


 放る。


 天幕まで辿り着くかのような高さまで放られた2本の刃物を追うように跳んだ勇者は、四方から来た4本を順に手に取り放り、脚を混ぜつつ壇上へと戻る。


「クライマックス!」


 天から墜ちていく2本に向け4本を放り、そしてーーーーー






 すごーい。

 堕天使はアホ面で眺めていた。


 いやいやと頭を振る。

 ちょと待てぃ。アレは無駄遣いではないのか?


 最初の炎は火之神から授けられた魔法だし、放り投げてたのは鍛冶乃神から授けられた装備……。あれもしかして技量は本物?

 だとしてもこれは戦いにおいては無類の強さを誇ることとなる証明に他ならない。大体だだっ広い空間を埋め尽くす炎とか半年では身に付かないし何しろ刃物の扱いが上手すぎる。

 やっぱりコイツは勇者なのだな、と堕天使は理解しなおした。

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