第18話「あ、マオくん。右のほっぺにクリームが付いています」

「ん~~~! 美味しいです~♪」

 一口ハムっとしただけでルミナの顔が、ふやふやのトロトロになった。


 前世で戦った時は、俺を親のカタキとばかりに鋭い視線をガン飛ばししてきたのもあって、こんなにも柔らかい笑顔を向けられてしまうと、なんとも言えない居心地の悪さを感じてしまう魔王な俺だ。


(もちろんアイドルみたいに可愛いクラスメイトに笑顔を向けられて、男子高校生な俺は嬉しい気持ちもあるのだが)


 ま、今はそれは置いといてだ。


 もはや空腹の度合いは、男子高校生が許容できる限界というものを優に超えている。

 ルミナに続いて俺も早速、自分のクレープを食べ始めた。


 はむっ、もぐもぐ……。


 3種ベリーのレアチーズケーキクレープは、甘みのなかに優しい酸味が絶妙に感じられて、すきっ腹にはかなり堪える美味しさだった。


「うっすらと酸味があって、美味しいな。お腹が減ってたのもあって、体中にクレープが行き渡っているみたいだよ」


「ふふっ、とても素敵な表現ですね。さしずめクレープマオくんというわけですね?」


「あはは、それじゃまんまだよ」

「まんまでしたか」

 食べかけのクレープを片手に、クスクスと笑うルミナ。


 思わずその女神のような笑顔に見とれそうになってしまい、俺は慌てて自分の心を厳しく律した。


「でもほんと美味しいよ」

「イチゴのレアチーズケーキもクレープ生地にすごくあっていて、美味しいですし、今日は半額なのでコスパもよくて、最高ですね♪」


「だな。半額セール様々だよ。誘ってくれてありがとな、ルミナ」

「こちらこそご一緒してもらって、ありがとうございました」


「ルミナに誘ってもらえるなら、いくらでも付き合うっての」

「も、もう……またそういうこと言っちゃって……」


 なんてペラッペラの上辺だけの「友達」の会話をにこやかにかわしながら、クレープを食べあう俺とルミナ。


 ……ううむ。

 しかし思ったよりも、ただの放課後デートだな。

 クレープは半額で美味しいし、ルミナは幸せそうな顔をしっぱなしだ。


 内心、拍子抜けしてしまうが、もちろん気を緩めはしない。

 美味しいものを食べてホッとした瞬間を狙い撃って、鋭い質問が飛んでくる可能性は大いにあった。


 幸せそうな顔の裏で、俺の油断を突くために虎視眈々たんたんと計略を練っているのは、頭脳明晰な俺には全てまるっとお見通しだからな――!


(ここまで0.1秒)


「あ、マオくん。右のほっぺにクリームが付いています」


 と、ルミナが自分の頬を指でちょんちょんとした。


「お腹が空きすぎていて、汚く食べちゃったか。悪い、みっともなくて」


 この俺としたことが、食い意地に負けて最低限の食事マナーすらおろそかにしてしまうとは。


「今日はお昼抜きなんですから、ガッツいても仕方ありませんよ」

 しかしルミナはそれを注意するということもなく、相変わらずの笑顔を向けてきた。


 笑顔のルミナに見守られながら、俺は右の頬を指で軽くぬぐう。


「どう、取れたかな?」

「まだですね。んー、ちょっと待ってくださいね」


 言いながらルミナは立ち上がると、机に上体を乗り出すように前かがみになると、まるで仲睦まじい恋人がするかのように、俺の顔に向かってに右手を伸ばしてきた。


 ルミナのアイドルかよって美少女キュートフェイスが、無防備なほどに急速接近してきて――、

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