第17話 魔王ハラぺコリーナと半額の恩恵を最大限得ようとする勇者様

「甘い匂いがものすごく空腹を刺激してくるんだよなぁ。とりあえず先に頼んでもいいか? もうお腹が減って減って、やばくてさ」


 なんでもいいから、とりあえず腹に何かを入れたかった。

 ぶっちゃけた話、どのクレープもちゃんと美味しいだろうし、さらにこの空腹が最高のスパイスとなってくれることは間違いない。


 女の子とクレープを食べに行って、どれにするか悩んでいる子を捨て置いて、自分だけ先に注文して食べるのが論外ってレベルでダメなのは、恋愛経験ゼロの俺でもすぐに分かるんだが、


 グ~~!

 グ~~~~~!!!!


「すごいお腹の音ですね、ふふっ」

「ちょっと恥ずかしくはあるんだが、どうしようもなくてな」


「生理現象ですから仕方ありませんよ。それにお腹が減っているときに、この美味しそうな甘い匂いですから」


「マジで、匂いがヤバいんだよなぁ」


 昼ご飯を食べ損ねた男子高校生の胃袋は、もはや限界を迎えつつあった。

 もはや俺は魔王ブラックフィールドではなく、魔王ハラぺコリーナである。


 しかもこれは魔王かどうかは関係ない、男子高校生らしい反応でもあるので、素直に食欲に従っても、何の問題もない。


 魔王と関係ない件でルミナから呆れられたら、むしろ万々歳だった。

 ならとっとと頼んでしまうが吉だ。


「そういうことなら、私もすぐに決めちゃいますね」

「ルミナはゆっくり選んでくれて構わないよ」


「せっかくなのでマオくんと一緒に食べたいですから。というわけで、もう決めました」

「さっきまで悩んでいたのが噓のように早く決めちゃったけど、本当に俺に気を使わなくていいんだぞ?」


「マオくんのため、ではなく私のためですね。重要なのは何を食べるかよりも、一緒に食べることだと思うんです」

「ははっ、たしかに」


 俺は同意を示すように、にこやかな笑みを浮かべながら、しかし内心では「まったくうまいこと言いやがるぜ」と思っていた。


 甘いものは否応なく心の防御力を下げる。

 当然、異世界がらみの失言をする可能性も上がる。

 悪いがすべてお見通しだ。


 お昼ご飯を食べられなかった俺をわざわざクレープ屋に誘った意図を、俺は完全に見抜いていた。

 そして俺の反応を観察するために放課後デートに誘ったんだから、せっかくのチャンスに一緒にいないと意味がないものな。


「私はイチゴのレアチーズケーキのクレープにします。ここはやはり半額の恩恵を最大限に生かすべきだと思いますので」


 俺に意図を見抜かれていると気づいていないのか。

 はたまた気付かれていようが関係ないのか。

 ルミナは変わらぬ様子で会話を続ける。

 もちろん俺も同じように普通の高校生らしい会話を続けた。


「じゃあ俺は3種ベリーのレアチーズケーキにするよ。ルミナの言う通りで、半額の恩恵が大きくてお得感があるからな」


 というわけで2人そろって、レアチーズ系のクレープを注文した。


 俺たちが悩んでいる間に、できる店員さんは先を見越して既に生地を焼き始めてくれていたのもあって、注文してからたいして待つこともなく、2つのクレープが用意される。


 お会計をし、


「結構混んでるな」

「学校が終わった時間で学生も多いですし、今日はクレープ屋さんで半額セールをしていますからね……あ、あそこ空いています」


 フードコートの空いている席を見つけて、向かい合って座ると、


「いただきます♪」

 ルミナが早速クレープにパクリとかぶりついた。


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