第15話「そんなことありません。すごくかっこいいですよ……な、なんちゃって!」

「ふふっ、真剣な顔をしてますけど、何を考えているんですか?」

 手を繋いだまま俺の横に並んだルミナが、小さく笑う。


 ルミナからこれから3年続く高校生活を逃げ切るための算段だ――とはもちろん言わない。


「なんか俺にも春が来たなって、それも満開の春が来たって。しみじみ思ってた」

「も、もう、マオくんは本当にお口が軽いんですねっ」


「あはは、ルミナといると、気持ちがどうしても浮ついちゃってさ」


「えと、あの、えへへ……。私もマオくんといると、なんだかすごくドキドキしちゃうんです」


「またまた、ルミナもおだてるのが上手なんだから。俺は取り立てて特技もない平凡な人間だよ」


 だから俺を疑うのは終わりにして金輪際、関わらないで欲しい。(切実)


「ほ、本当なんです。体育館裏でも言ったかもしれませんが、マオくんを見ているとなんだか昔から知っているような不思議な気がして、心臓の鼓動がすごく速くなって。こんな経験、初めてで――」


 そりゃ前世からの宿敵が目の前にいるから、緊張とか危機感とか高揚感でドキドキしているんだと思うぞ――とも、もちろん言わない。


「波長が合うのかもな、俺たち」

「ふふっ、ですね」


 やたらと楽しそうなルミナと話をしながら校舎を出て、帰り道につく。


「マオくんは電車通学なんですよね?」

「2駅隣だな。ルミナは?」

「私は徒歩通学です」

「高校も地元か。近くていいな。毎朝、電車の時間を気にしなくていいのは気が楽そうだ」

「はい、すごく楽です。電車の遅延も関係ありませんし」

「圧倒的なモーニングアドバンテージだな」

「ふふっ、とても面白い言い方ですね」


 少しオチャラケ気味に言うと、ルミナがクスクスと笑った。


「兄弟とかはいるのか?」

「一人っ子です。マオくんはどうなんですか?」

「俺も一人っ子だよ」


「ふふっ、一緒ですね」

「一人っ子は気が楽でいいよな」

「はい。ですが兄弟姉妹のいる友達のお話がいつも楽しそうなので、お兄ちゃんとか妹がいたらなって、思うこともありますね」


「兄妹のいる友達って、愚痴とかばっかり言ってないか?」

「愛情を感じる愚痴が多くありません?」


「あはは、納得。身内の甘えからくる、絶対に許されることが分かっているが故の愚痴ってやつだな」

「マオくんは難しいことを知っているんですね」

「これくらい普通だろ?」

「そんなことありません。すごくかっこいいですよ……な、なんちゃって!」


 はたから見れば、本当に何でもない仲良し男女の会話だろう。

 まだ仲良くなって日の浅い二人が、気になる相手のことを知り合おうとする始まりの会話とも言える。


 だがその本質は、今現在の魔王と勇者がどういう環境に身を置いているのか。

 個人情報をお互いに探り合う、ある種の情報戦だった。


 何気ない会話を続けながら、俺たちは駅前へとたどり着いた。

 このまま繋いでいる手を離し、電車に乗れば今日のところは逃げ切れるが、そうは問屋が卸さないだろう。


「あのっ! せっかくですし、少し寄り道していきませんか?」


 ほら来た。

 ルミナが俺を引き留めてきた。

 わざわざ一緒に帰ってるんだ。

 そう簡単に、魔王だと疑っている俺を逃がすわけはないよな。


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