第13話「学生なんだし、ゴムはちゃんと着けるんだぞ~♪」「エローい!」

 いやいや、冷静になれよ黒野真央。


 今目の前にいるのは、勇者ルミナスの転生体。

 魔王とバレたら、その時点で俺の命運はジ・エンドなんだ。


 そんな相手にドキドキするとか、俺は限界突破した真性の変態ドMかよ?


 ルミナなんて、


・顔がアイドルみたいに可愛くて、

・グラドルみたいにスタイル抜群で、

・ブレザー制服がドラマかよってくらいに似合っていて、

・心地よく、透き通った綺麗な声をしていて、

・ヒマワリのような笑顔がすごく素敵で、

・いつも太陽みたいにキラキラ明るくて、

・マザー・テレサのように誰にも分け隔てなく優しくて、

・怒ったふりをしたりと、からかい上手で小悪魔なところもあって、

・マンゴー味が大好きで、つい布教活動をしちゃう


 だけのただの女の子じゃないか。


 そうだ。

 女の子なら他にもいくらでもいる。


 俺を殺しただけでは飽き足らず、異世界までしつこく追ってきた魔王絶対に殺すマンな勇者を、敢えて恋愛対象に選ぶ必要はないのだ。


(ここまで0.5秒)


「そ、そうですよね。男女じゃ普通じゃないですよね……」


 ルミナがしょんぼりと力なく言いながら、俺の手を握る力を緩めた。

 優しい温もりが手の平から逃げていくことに、俺は何とも言えない寂しさを感じてしまい、


「ま、気の合う友達だしな。こういうのもありか」

 俺はそう呟くと、ルミナの手を握り返した。


 ち、違うからな!


 これは俺を疑っているルミナが距離を詰めてくるなら、いっそのこと親密になることでルミナから様々な情報を引き出してやろうという「虎穴に入らずんば虎子を得ず」作戦の一環であってだな!


 決してルミナの手が離れていくのが悲しかったとか寂しかったとか、そういうんじゃないんだからなっ!

 本当だからなっ!


 俺は心の中で自分自身に言い訳した。


 言い訳をしておかないと、本当にルミナへのガチ恋勢になってしまいそうだったから。

 それくらい、ルミナは魅力的に過ぎる女の子だった。


 くっ、冷静沈着な魔王ブラックフィールたるこの俺が、どうしてこんなにも感情を波立たせてしまわえんばならんのだ!


「えへへ、はい♪」


 俺の心の葛藤など知りもしないのだろう、ルミナが飛びっきりの笑顔で微笑んできた。

 それがまた犯罪的に可愛いから、本当にタチが悪かった。


 いったん緩んだルミナの握力が戻り、俺たちは──魔王と勇者は──まるでカップルのように、お互いの手を強く握りあったのだった。


 俺はその素敵すぎる笑顔と、手の平から伝わってくる女の子の柔らかさやら温もりやらに、強く心を揺さぶられながらも、冷静さを装いつつ、


「では、帰りましょう」

「ああ、帰るか」


 ルミナに手を引かれて、少し遅れて歩きだした。


「行ってらっしゃ~い♪」

「楽しんできなよ、おふたりさ~ん♪」

「今夜はお楽しみだねっ♪」

「エモーい!」


 まるでカップルのように手を取り合って教室を出ていこうとする俺とルミナに、暖かいエール(?)が飛んでくる。


「別に、一緒に帰るだけですから」


「教室から仲良く手を繋いでおいて、その言い訳は……ねぇ?」

「そうそう。今からそんな調子で、このあと一体どこへ行くのやら?」

「ご休憩は、長めに取った方がいいよ~♪」

「学生なんだし、ゴムはちゃんと着けるんだぞ~♪」

「先生に見つかるんじゃないよ~♪」

「エローい!」


「そんなところには行きませんからっ!」


 根が几帳面なのだろう。

 ルミナは教室の入り口で立ち止まって振り向くと、やいのやいの騒ぎ立てるおバカエールに律儀に答えた。


 さすが勇者、根っからの品行方正っぷりだ。

 俺なら絶対にスルーする。


 しかしこの回答は完全にゼロ点だ。

 俺なら『質問の意味が分からない』と答える。


 なぜか?

 頭脳明晰な俺には、この後の展開が手に取るように想像できるからだ。


 なーに、すぐにわかる。

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