第6話 友達になるための儀式
「え、ライン交換? 俺と遊佐さんが?」
ちっ。
やはりそう簡単には、逃がしてはくれないか。
ま、俺が勇者ルミナスの立場でも当然そうするけどな。
もしかしたら魔王かもしれない俺を、「それではさようなら」とおめおめと逃がす馬鹿な勇者はいないだろう。
俺が魔王であることを確認するためには、今後の継続的なアプローチが必要。
俺との交友関係を構築しようとしてくるのは、もはや当然を通り越して必然だ。
「クラスメイトで、席も隣ですよね? ここであったのも何かの縁です。仲良くなれたらいいなって思ったんです。ラインじゃなくても、ディスコードでもインスタでもXでもいいですよ?」
ほらきた。
しかも誰が聞いても納得する理由だ。
もちろん、もし俺が前世の記憶を思い出していなければ、小躍りして喜んだことだろう。
学校で一番可愛いと評判の遊佐さんと連絡先を交換できるだなんて、ついに俺にも春が来た、ってな。
「ほんと? 俺も遊佐さんと仲良くなれたらいいなって思ってたんだ。うわ、嬉しいなぁ!」
だからこれは取るべき必要なリスクだ。
人気者の遊佐さんのお誘いをお断りするのは、男子高校生としてあまりにも不自然。
それに向こうが俺を調べたいように、俺にも調べたいことがある。
勇者ルミナスがこの世界で仲間を作っていないか、可能なら調べておきたいのだ。
というのも、前世で転生魔法に介入された時に、転生魔法は大暴走し、完全に俺のコントロールを離れてしまっていた。
その時に周囲を巻き込んで、他の誰かも一緒に転生魔法に巻き込んだ可能性が捨てきれなかったのだ。
俺が警戒しているのは、ずばり勇者パーティのメンバーだ。
奴らが一緒に転生していた場合、俺への危険度は格段に跳ねあがる。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、と昔の人は言った。
ここまで来たらもうこっちからお近づきになることで、勇者ルミナスに前世の味方がいるのかどうかを、確かめさせてもらうぞ!
(ここまで0.5秒で思考)
「よかった。じゃあ私がQRコードを出しますね」
「OK。俺が読むほうな」
お互いにスマホを出し合ってパパっとラインを交換する。
ルミナ:これからよろしくね!
真央:こちらこそよろしく!
短い一文と、お辞儀をしているスタンプを送り合う。
これでこの時代における「友達になるための儀式」は完了した。
たったこれだけで。
ものの1分もかからない簡素なやりとりで。
前世で殺し合いをした元・魔王の俺と、元・勇者の遊佐さんは友達になってしまったのだ。
「黒野くんの名前は、真央って言うんですよね。マオくんって呼んでもいいですか?」
「呼ばれ方に特にこだわりはないから、遊佐さんの好きに呼んでくれて構わないよ」
遊佐さんの「マオ」が「魔王」に聞こえてしまうのは、俺が本物の魔王だからだろう。
なるほどな。
マオ=魔王と呼ぶことで、常に俺にプレッシャーをかけ続け、精神的に追い込む作戦か。
前世ではそういった絡め手は苦手な、「とりあえず殴ってみてから考える」「力こそパワー」「私が正義、よってこの拳も正義」「やられるまえに
転生した今は、心理戦を仕掛けてくるような頭脳も持ち合わせているわけだ。
俺は勇者ルミナスの転生体である遊佐ルミナの危険度をさらに一段階、格上げした。
これはかなり手ごわそうだ。
心してかからなければ、俺は遠からずマジで殺されてしまうだろう。
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