秘密の日記(これを俺にどうしろと)捨てられない友人からの贈り物
夢未 太士
第1話
50歳、とうとう俺もこの年まで来てしまった。
普通このぐらいまでは健康で生きていける、だがこの先へ歳を重ねるのは中々難しいかもしれない。
あれほど変化のない生活が退屈だと思っていたのに…
周りの同級生が一人また一人と減って行く、病気もあるが交通事故などもその原因。
多く生きていれば自分以外の死に遭遇する回数は必然的に多くなってくる。
過去にさかのぼると誰にも話せない秘密などいくつもある、
それは死んでしまった友人の過去。
ガキの頃は色んな悪さも経験した、万引きや窃盗などは序の口。
煙草や酒などは軽い軽い、殺人や暴行まで行かなければ引き返すこともできるだろう。
人は最低1つの過ちを犯す、それが過ちだと感じていない行いもあるだろう。
悪い奴は罪悪など感じない場合もある。
それらの行い、自分の事であれば全部秘密にするか、それとも若気の至りとして教訓にするのかは個人の判断だ。
だが他人の秘密を知ってしまった場合その対応は様々だ。
まさか何十年も経って秘密をばらすなんてことは誰もしないし、本来棺桶に持って行くのが通例だろう。
近所のおばちゃん達ならば人の噂もお茶の友だと面白おかしく脚色するのだろうが。
おれにはそんな井戸端会議にくれてやるほどそこいらに転がっているような秘密などない。
自分自身の経験的な秘密ならいくらでもあるが、そちらの半分は死んでも話さないだろう。
ここからは俺が秘密にしている友人の話だ。
今は死んでしまった友人の中に男色癖のあるやつが居た、今ではLGBTQ+とでもいうのか、そいつはスポーツ万能でクラスの中でも目立っていた。
女子にもモテる奴だったが、女子を孕ませたとか、3又しているとかいう変な噂は無かったような気がする。
ある日そいつと一緒に帰る事になった、別にいやらしいことなど無かったはず。
「家はこっちだよな」
「うん」
「河合ってモテるよね」
「そうかな~」
「だっていつも女子が寄って来ているじゃん」
「それは僕が話しやすいからじゃないかな~」
いやいや俺は知っていた、彼は物腰も話し方も男と言えない、なんとも言えない違いがあった。
確かに粗暴な女子が居ないとは言わないので、中学生ぐらいの年齢で他人の違いなどそれほど気にしてはいなかった。
今思えば彼は彼女だったのだろう。
「女の子とはデートしないのか?」
「あ~買い物はよく行くよ」
「いいな~今度俺も誘ってよ」
「木村君は女子が好きなんだね」
「え?普通男子は女子が好きなんじゃないのか?」
「そ それはそうだよね」
学校帰りの道程、何故か彼は俺に近寄りながら歩いている、俺は特に気にしなかったが。
もしかしたら彼は、そういう事なのだろうとおれは感じていた。
勿論俺はノーマルだと思っているし、その頃の俺には彼もノーマルだと思っていた。
「じゃあ今度女子も誘ってどこかに行こうか?」
「いいね、そうしよう」
そこからは学校の友人と言うより、普通に友達として男同士として過ごした。
そしてちょうど一年後彼から告白される。
「僕は君が好きなんだ」
「…」
嘘だろと言う気持ちより、やっぱりと言う感じの方が大きかった。
多分1年間彼は我慢してきたのだろう、いつ告白しようかと、まさかその相手が俺だとは思ってもみなかった。
「ごめん、俺には分からないし、今までと同じではダメなのか?友達でも良いんじゃないのか」
1年間我慢して告白した彼はその後泣きながら帰って行った。
そしていつの間にか彼とは距離を置くようになり、中学卒業と共に友人と言う形から元友人へと、彼との付き合いは無くなって行く。
何時だろう、その後成人式だったかな…
その時の学年全員で同窓会をした事が有る、俺は彼を探したがどこにも見当たらなかった。
まさかその中に彼女いや彼がいたと知った時には驚いた。
俺はその後普通に大学を卒業し、普通の会社に就職した。
忘れていた頃、一枚のはがきが舞い込む。
《お元気ですか、僕も元気です》
その文字は俺の文字など比べ物にならないぐらい綺麗に綴られていた。
(だれだろう?)
差出人の名前には河合恭吾とあり、中学時代のクラスメイトだと知った。
その時は懐かしく思うだけで特に何も思わなかった。
それから数年が経ち俺は結婚して子供を作りいつの間にかおじさんと呼ばれる年になった。
日々生活に追われ、昔のことなど忘れ去られて行く毎日を送っていた。
そんな時友人から同窓会のはがきが送られて来た。
《拝啓 40歳となり皆様ご盛況の事と思われます、今回のはがきは来る◎月◎日に同窓会を行いたいと思います》
そう言えば他の同級生からもそういう話が来ていたのを思い出す。
『そう言えば今度同窓会するってさ、お前はどうする?』
特に予定など無いのだから行く事は決まっていたのだが、まだいつ同窓会をするのかまでは決まっていなかった。
勿論参加に〇をして当日少しおしゃれをして同窓会の会場に行くことにした。
40歳にもなると白髪が増え髪は薄くなって来る友人達も増えて来る、そういう俺も昔と比べたらかなりファットになってしまい、昔作ったスーツは既に着られなくなっていた。
「ワイワイ」
「ガヤガヤ」
「あ、木村君だー」
女子の一人が俺に気が付いて寄って来ると共に男子も数人俺に気が付き挨拶をしに来る。
だがその中に見慣れない女性が一人、はてこの女性は誰だろう?
「久しぶり…」
「分からない?」
「ごめん、皆綺麗になって誰が誰だか判別できないかも」
「木村、こっち」
俺がキョトンとしていると、同級生の一人 田村が察したのか俺を呼んでいた。
「あ~また後で」
俺はその場を離れて田村の元へ、そこにはモテないグループが数人。
「おまえあれ誰だか知ってるか?」
「知らねーよ」
「あれは河合恭吾だ」
まさか?昔の男友達が女子になっているとは思わなかった、それがあの河合君だったなんて。
だがその後の友人達の話に俺はついて行けなかった。
「あいつおかまだったんだな」
「もう手術したんだって聞いたぞ」
「男と付き合っているのか?」
「そうなんじゃね」
「俺はないな」
「キモいだろ」
元友人だった俺を前に彼の今を否定する言葉は聞くに堪えなかったが、その場で反論することに俺はためらってしまった。
「俺 飲み物取って来る」
その場を直ぐに離れたかった、俺は特に差別はしていない、だが目の前にその人がいて受け入れるかと言うとそれも違う。
それが普通の考え方だろう、だがそういう人がいる事は知っており、会社でも数人カミングアウトしている人がいる。
昔はそれこそ、自分の性別を公表するなどと言う事は仕事上死活問題になっていた時もある。
大抵は夜の仕事に赴く彼らだが、今では社会的にも認められつつある。
法的にはまだまだ未熟な日本だが、俺は将来性別も途中で変えられ婚姻も普通にできるようになる世の中が来るだろうとは思っている。
だがこの同窓会で出会った彼(彼女)はとても綺麗だった。
「やあ」
「あれ~田村君たちと話すんじゃ無かったの?」
「むさくるしい禿げ頭の同級生と話すよりきれいな女子と話す方が良くないか?」
「木村君変わらないね」
「そうか?もう腹が出て顔も倍に膨らんだぜ」
「そんなことないよ~」
「きれいになったね」
河合の顔そして上半身を見てそう思った、元々線の細い彼だったが、まさか25年でここまで変わるとは思わなかった。
「私ね、性同一性障害だったんだ」
「そうなんだ」
「驚かないんだ」
「なんとなくそう感じていたからね、昔はそれがどういうことかわからなかったから…」
「嫌われたと思ってたよ」
「いやいや、多分バツが悪かっただけだよ、フっておいてもお友達はね…」
「私もそんな感じ、でも…」
「苦労したようだね」
「分かるんだ」
「そりゃ今は色々経験したからね」
「どう?同窓会終わったら抜け出さない?」
「いいよ、聞きたいことがいろいろある」
俺たち二人は同窓会が終わると2次会には行かずその足でタクシーに乗り町はずれにあるホテルへと行くことにした。
浮気だって言われても仕方がない、だが40歳になった友人がどう考えても30歳代の女性に変身していたら、しかもその彼の思い人が俺だと言うのだ。
まあだからと言ってそれが良い事ではないぐらいの事は分かっている。
俺は妻子持ちの40歳子供も2人いて、子育てには今かなりの支出が割り当てられていて、俺の使えるお金は月に2万もあれば良い方だ。
「本当にいいの?」
「ああ、俺だって寂しい思いをしているんだ」
「奥さんと子供に悪いわ」
「河合って、本当に女になったんだね」
「それじゃどう見えるのよ」
「プッ」
「ウフフフ」
「アハハ」
まさか、いや男同士なのか男女の仲なのか、この時は中学時代を思い出してお互いを見てふとおかしくなった。
「昔の面影がこんなになるとはね」
「それを言ったらお互い様でしょ」
「変わりすぎだよ」
「えへへ」
その先は、言わずもがな、お互いのさみしさを埋めるように抱き合ってそしてキスをして。
約2時間、その間の出来事は今でも秘密にしてある。
彼は帰り際に俺の体に着いた口紅を綺麗にふき取り、髪型も服も整えてくれた。
だが、その後に彼は今日の事は誰にも言わないでねと言った。
「今日だけ、2人の秘密ね」
「そ…」
「ダメだよ奥さんと子供を大事にしないとね」
「あ うん」
河合君はいつの間にか綺麗なお姉さんになって、俺の弱さを直してくれているようだ。
実はこの頃おれは妻に隠れて浮気をしていた、会社の部下であり15歳も下の女性だが。
そろそろやめようかと思っていた時だった。
そんな下心迄、まるで河合君に見透かされているようだった。
「大丈夫、今日の事は秘密よチュ!」
帰りは別々にタクシーを呼びそして彼女は夜の町へと消えて行った。
俺はその後何故かすぐに家に帰る事が出来ず、駅の近くにある店に入り時間をつぶすことにした。
この時が転機だったのだろう、浮気はきっぱりやめて相手の女性には嘘をついた。
「ごめん女房に子供ができた」
「そうなんだ」
「悪いな」
「そろそろかと思ってた」
「そうなの?」
「だって遊びだって知ってたし、最初はイケメンだったのに今はね~」
「ごめんな」
「もっと若い良い男探すから大丈夫」
彼女は今年25歳、23で就職して2年間付き合った。
別れるならば早い方がいい、ずるずると付き合って婚期を逃したとしたら、別れられなくなってしまう。
男のずるい考え方だと判っている、だが女性もそんな男の考えをうまく操り下心をつかむのだ。
何故か自由になった事で今まで見えなかった大事なことが、いろいろと見え始めた。
経験を積んでようやくわかることもある、浮気はいけない事だと知っている、だが男と女がいる限りそう言う付き合いはなくならないのかもしれない。
俺がもう少しダサい奴だったなら、言い寄る女はいなかったのかもしれないのだが。
自分のふがいなさを外見のせいにしても仕方がない、もてない奴に怒られてしまう。
そして数年が過ぎ風の噂で聞いた、河合君が死んだ…
葬式は家族だけで弔う事にしたそうだが、後日俺の元に小包みが届いた。
そこには彼の思いが綴られた日記が入っていた。
そこには中学時代から付けられた日記が入っており、彼の当時の想いそのものが書かかれていたのは言うまでもない。
《大すきだった木村君》
俺の秘密は他にもあるが今はこのいくつかの秘密を誰にも知られずあの世まで持って行こうと思う。
日記は当然のことながら妻にも子供にも見せていない、俺が死ぬまでは誰にも見せられない秘密だ。
(隠すの大変なんだからな~河合!)
こんにちは夢未太士です
本当は書くつもりなかったです、理由・短編は性に合わないから、本当はうまく完結できないからって事で。
この応募は3部作でなければいけないので、私は1部だけの参加になります外して頂いて構いません。
ですが3部作の最後に少しほっこりそしてそうかもしれないと言う自分なりの考えを
誰かに届けたくて2時間でかき上げました
この題材はもちろんフィクションです、本当だったら私は今ここにいないでしょうナームー。
秘密の日記(これを俺にどうしろと)捨てられない友人からの贈り物 夢未 太士 @yumemitaisi
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