お別れです榊原くん
みづほ
第1話 お別れです榊原くん
私、白川杏奈は死んだらしい。
気がついたら幽霊になっていた。
体が死んだと同時に魂が体から離れて私の姿は少し透けているところ以外は普段通りに見えるが自由に飛べるし壁もすり抜ける。
幽霊は温かいとか冷たさ痛みや味や臭い、それから物に触れる感触も全てを感じなくなった。
生きていた記憶はしっかりある。
だから痛さとかも覚えてはいる。
もちろん好きな食べ物がどんな味だったかも覚えているけど体から魂がは離れてから食事の時にお腹が減る感覚もないし夜になると眠いという感覚もない、体内時計がなくなった感じだ。
体がないのだから、人に観測されない。
たまにだが犬や猫には私の事が見える時があり、吠えられる。
人の中でも幽霊が見える人とは目が合う事がある。
見える人は大抵の人が、知らないフリをして逃げられてしまう。
自分も逆の立場なら同じ行動をするだろう。
幽霊と話しても厄介な事になるのは想像できる。
私は他の幽霊が見えるようになった。
女性の幽霊を見かけた。
幽霊は連れていってと訴えている。
どうやら女性は地縛霊で自分の力では、その場から動けないらしい。
私は怖くなり逃げた。
振り返ると、さっきの幽霊は近づいてきたカナリアの幽霊を捕まえて食べた。
何かと交わらないと霊体が維持できないのかもしれない。
他の幽霊との接触は気をつけないと自分が幽霊として存在できないかもしれない。
それにいつ自分が消えるかも分からない。
消える前に学校を見たくなった。
学校では放課後の教室に榊原学と相葉美波が2人で残っている。
美波は学が好きで告白をする。
「私、学くんが好きなの。学くんが杏奈ちゃんを忘れられないのは分かってる。そのままでいいから私と付き合ってくれませんか?」
学は俯いて答える。
「気持ちは嬉しいけど……僕はまだ……ごめん」
振られた美波は小さく頷き教室から出て行く。
学には今、付き合ってる彼女はいない。
学は白川杏奈と付き合っていたが、一昨年の下校中に杏奈は交通事故で亡くなった。
幽霊の杏奈は呟くように言う。
「相葉ちゃん可愛いのに振ったの?」
学はその言葉に反応して答えた。
「俺は杏奈が好きなんだ!」
学はハッと気づき声が聞こえた方を向く。
幽霊の杏奈は少し驚いたが学に声をかけた。
「ありがとう。でも、もう私は死んでるよ」
どうやら学には杏奈が見えている。
学は驚いて声がでない。
幽霊の杏奈が目の前にいる。
少し透けているが制服姿の杏奈だ。
やっと学は一言だけ言えた。
「杏奈……会いたかった」
そう言って学はポロポロと涙を流す。
幽霊の杏奈は学の頭をなでたが杏奈の手は学をすり抜ける。
幽霊の杏奈は触れない事が辛かった。
学ぶは泣きながら聞いた。
「杏奈は……ずっと何処にいたの?」
幽霊の杏奈は遠くを見るような目で言う。
「最初は空にふわふわ浮かんでたの。家に行ったけど誰も気づいてもらえなくて! 家族が見えないなんて酷いよね! 学が私を見えて話せて良かった」
幽霊の杏奈は笑った。
「俺も嬉しい。いっぱい話したかった。でも急だと頭がまらないなぁ」
そう言いながら学が笑う。
学は杏奈が亡くなってからの日常を話してくれた。
学校の友達が体操服じゃなくてパジャマを持ってきた話や今年赴任した先生が授業でフォンッと変な相槌をする話や修学旅行は沖縄で海が綺麗だった話などいっぱいした。
幽霊の杏奈は笑いながら聞いてくれた。
学は少し寂しそうに呟く。
「全部、杏奈と過ごしたかった」
幽霊の杏奈は俯いて言う。
「学……ありがとう」
学は少し目に涙がにじむ。
幽霊の杏奈は真っ直ぐ学を見て言う。
「私は死んでるから学とはお別れだね」
「杏奈!」
「学はちゃんと生きてね。天国があるか分からないけどさぁ。私はもう行くね」
「杏奈!」
幽霊の杏奈は浮かんで教室の窓か外に出て行った。
学は窓から飛び降りた。
ドンッと音がなったので幽霊の杏奈は振り返り学が落ちた事に気づいた。
学は頭から落ちたので右側のおでこがパックリ切れていて大量の出血をしている。
幽霊の杏奈は学に声をかけた。
「ねぇ大丈夫?」
学は何も答えない。
すでに亡くなっていた。
幽霊の杏奈は首を傾げて理解できない顔。
「学も死んじゃったのか……死ぬ前にお別れできたし良かった」
学は杏奈が大好きだった杏奈は学をそこまで好きではなかった。
杏奈は亡くなった時で時間が止まっている。
杏奈は普段通りの高校1年生の素直な気持ちで学にお別れを言った。
杏奈が亡くなって学は1年半も思いを募らせて杏奈を美化していたのかもしれない。
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