第7話:桃との初デート。

桃のことは澪に知られずに済んだ。

とりあえずはその場をしのいだ・・・。

それは目先の問題が解決しただけのことだった。


桃をどこかに住まわせる、と言ってもそんな金銭的余裕はないし・・・

このままここに置いておくと、いつかは澪にもバレるだろう。

澪がくるたび、押入れに入っててもらうのも無理がある。

困った・・・。


たしかに、いつまでもごまかし切れるはずもなかった。

それに桃を部屋に閉じ込めたままってのも、よくないし。


それじゃまるで俺が桃を監禁してるみたいで、あまりいい気持ちはしない。


男なら、まだしも・・・女の子だからな。

何日も同じ服を着せておく訳にはいかないし・・・。

この間、仕事の帰りに仕入れた衣装だけじゃ足りない。

俺は思い切って買い物がてら桃を連れて街に出ることにした。


電車に乗ってる間も桃は俺の手をつないで離さなかった。

電車を降りてからも手をつないで歩いた。


愛し合うカップルが手をつなぐって言うより、迷子になっちゃいけないから

手をつないでる親子みたいに・・・。


俺もずっとここに住んでるわけじゃないから、街のことを全面的に詳しいわけ

じゃなかった。

桃が住んでた100年後ってどうなってるんだろう?想像もつかない。


田舎者は人に酔うなって俺はいつも街に出るたび思う。

でも繁華街や商店街は俺は嫌いじゃなかった。

とくに路地裏に入るとなんとなく落ち着いた。


田舎だと移動はバイクか車・・・都会にいるとほんとによく歩く。

そんなわけで、俺も桃もとも長くは街中にはいなかった。

とりあえず桃の服を仕入れてやらなきゃ。


「私、向こうにいた時から何日ぶりかな・・・街に出たのって・・・」

「向こうではずっと家に閉じこもってた」


「俺を物色してたからか?」


「だね・・・でも久しぶりに街に出られて嬉しい・・・」


「桃、未来の世界と比べてどう?」


「うん、ここはなんとなくのんびりしてる感じ」


「のんびりだって?こんなに目まぐるしく人が行き来してるのに?」

「車だって事故りそうなくらいガンガン走ってるのに?」


「私のいた時代は人口は減ってるけど、息苦しさはこことは比べ物に

ならないくらい酷いよ」


「表通りはいいけど裏通りなんか絶対ひとりでは歩けないし・・・」

「ジャンクな怪しい店ばかりだしね」

「人々だって、こっちの方が穏やかでしょ」


「私、好きだな・・・昭和?・・・昭和の時代って」

「緑もまだたくさん残ってて古ぼけた建物もあってノルタルジー感じる」


「そうだな、まあいい時代っちゃ時代か・・・戦争もないし平和だし」


「ビルの高さも違う・・・」

「だけど心なしか空気は私の時代のほうが浄化されてるかな」

「向こうの世界では車は全部、人畜無害の無限エネルギーで動いてるの」


「電気自動車とか普及してるんじゃないの?」


「そんな車古いよ」


「そんなにいろいろ発展してるなら医療だって進歩してるだろ?」

「そうだね、ほとんどの病気は治るけど・・・未知のウイルスだけは

ダメだったみたいね」

「いくら科学や医療が発達してもいきなりの出来事はすぐには対処できない

でしょ?」


そうやって時代を比べると面白い。


「またこうやって私を連れ出してくれる?」


「そうだな・・・これからも時々ふたりでデートしようか」

「これから桃の服を買いに行くから・・・」


「ごめんね、全部おんぶに抱っこで」


「俺の部屋にいる時は、すっぽんぽんでいてくれてもいいけどな」


「すっぽんぽんって・・・そうして欲しいの?」


「冗談・・・冗談に決まってるだろ?」


「そうして欲しいならそうするけど・・・でもパンツは履くね」


「だから〜・・・」


「そんなバカなことするわけないでしょ? 風邪ひいちゃうよ」


とぅ〜び〜こんて乳。

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