第4話:澪の存在。

桃ちゃんが俺のマンションにやって来てから三日経った。

桃ちゃんが言ったとおり、桃ちゃんの作る料理は最高に美味かった。


ファミレスなんかに行くよりずっと美味いしバラエティーにとんでいる。

高級レストランなんか滅多に行くことないけど、桃ちゃんの料理は

高級レストランに匹敵するくらい美味いって思う。


ふたりで朝食を食べて、ふたりで昼ごはんも食べて、そしてふたりで

晩ご飯を食べる。

まるで新婚さんみたいに。


桃ちゃんが未来から来たなんてキューブを見ない限り忘れてしまいそうだ。

あ、ミカンちゃんを見ると思い出すか。


「どう?・・・美味しい?」


「うん、美味い・・・めちゃウマ」


「料理上手いね・・・いいよね、料理が上手な奥さんって」


「できれば私がそうなりたい」


「そうだね・・・これからどうなるか分かんないけど、よろしくね」


「性格が悪いからって途中で君に嫌われることだってあるかもしれないし」


「その逆もあります」


「あのさ、この際だから名前も呼び捨てにしてさ、敬語はやめない?」

「少しでも君に近づきたいから・・・」


「はい、いいですよ・・・あ、いいよ、じゃ今からね」


「桃・・・」


「ん?なに?」


「呼んでみただけ・・・」


「じゃ〜私も・・・大輔」


お互い顔を見合わせて笑いあった。

だけどそんなことしてていいのか?


一番のネック、俺には「澪」って彼女がすでにいることだ。

桃はその事実を知らないで、俺はその事実を桃に言わず・・・


これじゃ二股じゃん。

三角関係のはじまり・・・最近、澪の態度が冷たい、にしたって彼女は

俺の恋人には違いない。


もし桃のことが澪にバレたらやっかいだ、絶対揉めるよな。

桃がここにいる以上、いつかは澪にバレることは分かってる。


一応気をつけなくちゃいけない日は火曜日、澪は美容師だから

火曜日が休み・・・だからたいがいは火曜日に俺のマンションを訪ねてくる。


俺はカメラマンで不規則・・・だから澪は俺のマンションに来るときは

必ず連絡して俺がいることを確認してから来る。

その時だけ桃をどこかに追い出すってわけにもいかない。


最終的に俺と恋人になることが目的で来てるんだから無下にはできない。

キューブにでも入っててもらうか?

それとも仮に押入れにでも桃を隠して置くとか・・・。


最近は澪は俺んちに泊まっていくこともなくなってきてる。

来てもしばらくいて帰っていくことが多くなった。

気持ちのすれ違いもあって、なんとなく新鮮ささえ失ってる。

エッチだって、いつからしてないのか忘れてるくらいだ。

欲求不満になりそうだ。


だからって澪のほうから別れたいとは言わない。

俺?俺は・・・正直どっちでもいい。

澪が別れたいっていうならそれでもいいと思ってる。

俺と澪はこのまま一緒にいてもきっと長くは続かないだろう。

分かるんだ終わりを迎える男と女って・・・。


桃と言う存在が俺から澪を遠ざけたいって打算的気持ちの原因になってる

ことはいなめない。

桃の存在は俺にとって新鮮と言う忘れていた気持ちを蘇らせた。

最初は少し迷惑って思ったけど、今は受け入れてる。

このまま何もなければ彼女とはうなくいきそうって期待してる自分がいる。


俺は薄情な男だ。

気持ちが澪から桃に傾き始めてる。

そんな自分に嫌気がさして自己嫌悪に落ちる。


いっそ澪のことを桃に言ってしまったほうがいいのか?

いずれお互い顔を合わすのなら・・・。


このまま桃に澪のことを隠したままで悶々とした気持ちでいるのは

気がとがめる。

そこで俺は桃に澪のことを話した。


「桃・・・実は話があるんだけど・・・」


「未来へ帰れって言っても私、帰らないからね」


「帰れなんて言わないよ・・・そういう話じゃなくて」

「隠してたって、いずれバレると思うから言うけど・・・実は俺には今、

付き合ってる彼女がいるんだ」


「その子はみおって名前」


「うそ・・・彼女がいるんですか?」


桃は、俺に彼女がいると聞いてショックを受けたようだった。


「なんだか悲しい・・・」

「ちょっと待って・・・悲しみがこみ上げてきた・・・」


「おいおい、大丈夫か?・・・やっぱり話すんじゃなかったかな」


「そうでだよ・・・聞くんじゃなかったよ」


「だけど、黙っててあとで俺の彼女とバッッタリなんてことになったら

余計ショックが大きいだろ?」


「桃には悪いと思ってるけど・・・桃が来る前から付き合ってる彼女だから」


「ごめんね、私、彼女さんがいることも知らずに押しかけてきて・・・」


「いやいや、君は何も悪くないよ」


(そうだよな、そんなこと知らずに俺に会いにきたんだもんな)


「でももし、大吉に彼女がいると知ってても、私やっぱり来てたと思う」


「え?そうなの?そこまで思われると、それはそれで嬉しいかも・・・」


「私、負けません」


「え?」


「私、負けませんから」


「いやいや・・・」


「さっきまで、泣きそうだったじゃん」

「三角関係はまずいでしょ」


「だって、私もう向こうに帰れないから・・・」

「行くところもないし・・・」


「私は彼女さんと対決するしかないの」


「対決って・・・それを言うなら対抗じゃないの?」


「そうでしたっけ?・・・たいけつ?・・・ん?・・・たいこう?」

「そんなこと、どっちでも同じようなもんだよ」


「とにかく、私は大輔を諦めないから・・・」


つづく。

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