173 塔のダンジョン ⑤


 階層守護者のエクストラがあるだけに、スケルトンナイトはCランクとしては、かなり強い。


 試しにネクロハウンドの一体をけしかけてみたが、見事な剣裁きで倒されてしまった。


 見た限り単独でジョンたちを全滅させることも、おそらく可能だろう。


 正直戦わせたい気持ちもあるが、ここでジョンたちを失う訳にはいかない。


 なのでスケルトンナイトの相手は、ホブンにさせることにした。


 剣と盾、鎧に身を包むスケルトンナイトと違い、ホブンは以前渡した蛮族のような防具とスマッシュクラブを装備している。


 ぱっと見では、ホブンの方が装備面で負けているように見えた。


 だがスマッシュクラブは適性があれば、スキル【スマッシュ】が放てる棍棒だ。 

 

 蛮族のような防具も、効果こそ無いがかなり頑丈である。


 むしろ、種族的に最初から持っている初期装備のスケルトンナイトより、ホブンの装備の方が優れているはずだ。


 スキル面のバランスもとれているし、良い勝負をすると思われる。


 ホブン、頼むぞ。


 心の中でホブンにエールを送り、他のモンスター達に邪魔な敵を倒させる。


 ホブンとスケルトンナイト、一対一の戦いだ。


 そして二体が向かい合い、戦いが始まった。


 最初に動いたのは、意外にもスケルトンナイト。


 剣スキルのスラッシュが迫る。


 それをホブンは、無属性魔法のシールドで防ぐ。


 斬撃強化(小)を持つ攻撃だからか、防ぐのに魔力を余分に消費したみたいだ。


 しかし同時に、ホブンも攻勢に出る。


「ゴッブア!」


 無属性魔法のパワーアップを発動させ、武器スキルのスマッシュを放つ。


 パワーアップは文字通り、ホブンの力を上昇させる無属性魔法だ。


 そして放ったのは打撃系スキルのスマッシュであり、単純に威力と振る速度を上げる効果がある。


 まともに当たれば、スケルトンナイトも無事では済まないだろう。


 だが、事は簡単には決まらない。


「――!!」


 スケルトンナイトはその攻撃を、盾スキルのガードとパリィで対処した。


 ガードは盾の耐久力の上昇と受ける衝撃を低下させ、パリィは攻撃を弾き相手の体制を崩す。

 

 使い手次第で成功率が変わるパリィだが、スケルトンナイトはそれを見事に決めた。


 大した技量だ。もしスケルトンナイトに生前があったのなら、かなりの使い手だっただろう。


 まあ、ダンジョン産であるのだろうし、生前も何も最初からスケルトンナイトなのかもしれないが。


 さて、問題はパリィを決められたホブンだが、スマッシュクラブを自ら手放すことで体制を維持したようだ。


 更にホブンは、ここで自身の拳にスキル強打を発動して、全力で打ち込む。


 強打は棍棒と拳、どちらでも発動する打撃系スキルだ。


 対してスマッシュは、棍棒系専用のスキルである。


「ゴッブア!」

「――!?」


 そしてホブンが狙った箇所は、スケルトンナイトのむき出しの顔面。


 骨が砕け、頭部の魔石を見事潰した。


 スケルトンナイトは核である魔石を失い、後方へと倒れて動かなくなる。


 ホブンの勝利だった。


「ゴガァアアア!!」


 ホブンは、勝利の雄叫びを上げる。


 僅かな時間であったが、それだけ濃厚な戦いだったのだろう。

 

 ホブンにとっても、これは良い経験になったはずだ。


 そうして残りの雑魚も片付けられ、勝敗が完全に決まった。


 すると部屋の中央に、宝箱と魔法陣が現れる。


 魔法陣を鑑定すると、退出の魔法陣だった。


 乗ることで、三十秒後に転移するらしい。


 もちろん、乗るのは最後だ。


 まずは、カード化を発動させる。


 エクストラスキル持ちのスケルトンナイトも、無事にカード化した。


「スケルトンナイト、ゲットだ!」

「にゃにゃん!」


 久々にそう声に出すと、レフも嬉しそうに鳴く。


 ちなみにスケルトンナイトが倒されると同時に、眷属のスケルトンは消えていた。


 それとスケルトンアーチャーは既に切りの良い枚数を持っているので、消し去っておく。


 また今回でスケルトンソードマンも、500枚を超えた。故に余った分は、こちらも消す。


 さて、あとは宝箱だな。


 少し離れると、俺はスケルトンを召喚して開けさせる。


 やはりいつも通り、何事もなく宝箱は開いた。


 警戒しすぎかもしれないが、やって損は無いのでこの開け方は続けようと思う。


 そうしてスケルトンに、宝箱の中身を持ってこさせる。


「杖?」


 入っていたのは、紫色で先端に骸骨のついた、不気味な長い杖だった。


 とりあえず、鑑定をしてみる。



 名称:スケルトン召喚の杖

 説明

 ・魔力を消費することで、スケルトンを召喚して使役する。

 ・召喚したスケルトンは、継続して魔力を与えなければ消え去る。

 ・最大三十体まで召喚可能。

 ・この杖は時間経過と共に修復されていく。



「……いらない」


 俺の目の前には、既に使役されたスケルトンがいるんだよな……。


 本来なら、かなり優秀な杖なんだろう。


 しかし俺にとっては、無用の長物だ。


 であれば、配下に渡すか?


 ホブンは、いらないみたいだ。


 レフとアンクも必要ないし、ジョンとサンは既に新しい武器を持っている。


 アロマはウサギで持つことができないし、トーンは木だしなぁ。


「――!!」


 しかしそう思ったのだが、トーンが珍しく欲しいと告げてきた。


「この杖、欲しいのか? まあ、別に構わないが」


 そう言って、俺はトーンに杖を渡す。


 するとトーンは、トレントならどの個体でもある顔の部分の口へと、杖を入れていく。


「――!!」


 そして飲み込んだかと思えば、スケルトンを召喚した。


 まじか。飲み込んでからも杖を使えるのか。


 喰ったというよりも、取り込んだという感じに近いのだろう。


 だがその時、ふとユグドラシルの事を思い出した。


 ユグドラシルに吸収されたエリシャは、どうなったのだろうか? 


 それとあの後ルフルフという転移者も、ユグドラシルに取り込まれたのか?


 まあ、最早それを考えても仕方がない。


 俺とはもう、無関係だ。


 とりあえずスケルトンを召喚できるようになったことで、トーンはタンクとしてより活躍することだろう。


 スケルトンを召喚すれば、それだけ敵の突破を妨害できるからな。


 案外、悪くない組み合わせだ。


 そうして退出の魔法陣に乗るため、来たときと同様にレフとアンク以外をカードに戻す。


「ん? おお、ようやくか」


 するとカードに戻したトーンが、なんと進化の条件を満たしていた。


 もうそろそろだと思っていたが、今回のボス戦が切っ掛けになったのだろう。


 この場で進化させるべきか、それともダンジョンを攻略してからにするべきか。


 悩みどころだ。


 であればここは、トーンに直接訊いてみることにしよう。


 そう思いトーンを召喚したあと、トーン自身にどうしたいかたずねてみた。


「――!!」

「そうか。進化したいか」


 どうやらトーンは、ここで進化することを望むらしい。


「それじゃあランクアップとフュージョン、どっちがいい?」


 俺はランクアップとフュージョンの説明を行ったあと、そんな感じで訊いてみた。


「――!! ――!」

「そうか。トレントとしてのプライドがあるのか」


 個人的にフュージョンの方が可能性が広がると思っていたのだが、トーンはランクアップを望んだ。


 自分がトレント族であることに、プライドがあるらしい。


 なのでトレントから逸脱した存在になるのは、抵抗があるようだ。


 ちなみにランクアップし続けた結果、トレントでなくなるのは構わないとのこと。


 どうやらトーンには、トーンなりのこだわりがあるようだ。


 俺はトーンの気持ちを尊重して、ランクアップさせることにした。


 トーンをカードに戻し、同系統であるトレントを十枚捧げる。


 ちなみにホブンの時は、下位ランクのゴブリンを捧げたので倍の二十枚だった。


 そして無事にランクアップを果たし、トーンは新たな種族へと進化する。


 俺はどのような進化を遂げたのか高揚しながら、カードの確認をするのだった。


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