164 捕らえた男から情報収集


 屋根の崩落した民家に入ると、男はトーンの下敷きとなり気絶している。


 骨や内臓にダメージがいっていると思われるが、死んではいないみたいだ。


 この大陸にやってきた冒険者だけに、身体能力は高そうである。


 それとまるで、トーンの苗床になったように見えなくもない。


 動きを完全に封じているのか、仰向けで胸から下はトーンの根に覆われている。


 おそらく目が覚めても、簡単には身動きを取れないだろう。


 そんなことを思いながら、まずは男に鑑定を発動してみる。



 名称:ロブント

 種族:人族

 年齢:34

 性別:男

 スキル

【弓適性】【気配感知】【隠密】

【アロー】【連射】【不意打ち】

【忍び足】【投擲】【中級開錠】

【中級罠解除】【疾走】

【毒耐性(小)】【パワーアロー】



 凄いな。かなり多彩な男だ。


 これまで鑑定した冒険者の中では、群を抜いて優秀だろう。


 冒険者としてのランクも、高そうである。


 とりあえず、気絶しているならちょうどいい。まずは場所を移そう。


 このロブントという男の仲間が、近いうちにここへやって来る。


 俺はそう思い、ロブントを連れて召喚転移で移動した。


 そして場所は、廃墟街の一室。


 ロブントの衣服以外をストレージに収納して、適当に直した椅子に座らせた上で縛り上げる。


 一応念のため、死なない程度に生活魔法の治療で治しておく。


 あとはサモナーだと思われているはずなので、既に見られているであろうサンとジョンを召喚した。


 ちなみにトーンはこの部屋だと大きすぎて邪魔になるし、アロマの威圧感は皆無なので現状召喚は止めておく。


 レフはいつも通り、俺の横でお座りして待機状態だ。


 続いて、以心伝心+で精神を無理やりつなげる。


 これで、相手の心の声は俺に駄々漏れになるはずだ。

 

 以心伝心+で精神を繋げる瞬間こそが、一番何かしたと気がつく可能性が高い。


 だがそれも気絶している間に行えば、回避できる。


 一度精神を繋げてしまえば、違和感を覚える事もないはずだ。 


 よし、準備もできたし、こいつを起こそう。


 そうして俺は、ロブントに生活魔法の飲水を顔面にぶっかけた。


 パシャりと勢いよく水を浴びたロブントは、その衝撃で意識を取り戻す。


「――ッ!? こ、ここは……くっ、俺は捕まったのか」


 ロブントは目を覚ますと、自身の置かれている状況をすぐに把握したようだ。


 苦虫を嚙み潰したような表情をすると、俺をにらむ。


「まず初めに訊こう、名前は何という?」

「……ロブントだ」


 一瞬迷ったみたいだが、正直に名前を名乗った。


 しかしロブントの脳内では、どのようにして自分がやられたのか、頭を悩ませている。

 

 またどうにかして逃げる方法を、必死に考えているみたいだ。


 今は少しでも情報を得るために、ある程度素直に答える気があるらしい。


 以心伝心+で繋げた精神から、ロブントの心の声がそんな感じで聞こえてきた。


「そうか、では次に所属を言ってもらおうか?」

「……ランクBの冒険者だ」


 なるほど。ゼーテス王国カラスス支部所属の、ランクB冒険者か。


「ふむ。どこの国から来た?」

「アーランド公国だ」


 これは嘘だな。アーランド公国は、以前国境門で繋がったことのある別の国らしい。


「この大陸に来た理由は?」

「国経由の調査依頼で来た。それよりも、お前は何者だ」


 調査は本当のようだ。この大陸の土地を手に入れるため、支配者とその配下を探しているようである。


 確か国境門で繋がった国同士は、戦いに勝利するか門が閉じるときにかなり優勢の場合、その土地を奪って自国に足すことができるのだったか。


 人型種族が支配している可能性が低いこの大陸の場合は、おそらく頂点に君臨しているモンスターか、その配下の大多数を倒せばいいのだろう。


 故にロブントは、仲間と共にこの大陸内を調査していたみたいだ。


「俺のことはどうでもいい。お前は質問に答えればいいだけだ」

「くっ……」


 ロブントは、自分が生きて帰れる可能性が低いと感じているようである。


 逃走を諦めてはいないが、正しい情報を与えるのは危険だと思い始めているようだ。


 まあ、嘘の情報を言ったところで、心の声が駄々漏れなので意味はないが。


「この大陸で、何か発見はあったか?」

「無い。アンデッドばかりで、村も街も荒れ果てているだけだ」


 ふむ。嘘は言っていないが、あることを隠している。


 どうやら、高くそびえ立つ塔を見つけているらしい。


 それも一定の距離に近づかなければ、発見できなかったようだ。


 蜃気楼しんきろうのように、突然目の前に現れたとのこと。


 場所もおおよその位置は分かったので、アサシンクロウに命じてその周辺に向かわせた。


 ちなみにその情報を持ち帰るための帰還中に、少しでも報酬を上げるため村を軽く偵察しに来ていたようだ。


 そこに運悪く、俺がいた訳である。


 ロブントも心の中で、そのことをなげいていた。


「なるほど。では、仲間はどうなんだ? まさか、お前ひとりという事はないだろ?」

「ッ――。確かに、パーティメンバーがいる」

「やはりそうか、であれば人数と名前、それぞれ何ができるか話せ」

「くっ、人数は――」


 当然ロブントの口から出た内容は、デタラメだ。


 しかし即興で内容を創作するには、参考のため仲間について意識せざるを得ない。


 結果として、ロブントの仲間については十分に知ることができた。


 まあ今後偶然遭遇した際には、この情報を活用させてもらおう。


 嬉々として人を襲うほど、俺はヒャッハーしていない。


 けれども向こうから敵対してきた場合には、その限りではないが。


 それからいくつか質問を繰り返し、訊きたいことは全て把握した。


 なお俺を攻撃した理由は、概ね予想していた通りのようだ。


 この大陸で他国の者は、基本的に敵らしい。


 なのでチャンスがあれば、仕留めることが推奨されているようだった。


 まあ他国の者はこの大陸の土地を狙うライバルであるし、向こうも同様の考えが多いのだと思われる。


 故に、やられる前にやれということだろう。


 俺に攻撃をしたのも、そうした理由からきている。


 さて、訊きたいことはもう訊いたし、これでこの男はもう用済みになった。


 生かしていても利点は無いし、そもそも俺を殺そうとした男である。


 冒険者といっても、盗賊と違いはないだろう。


 であれば、答えは決まっている。


 俺は男の背後に、トーンを召喚した。


 この部屋の天井は既に無く、上の階と繋がっているので高さは問題ない。


 少し狭くなったが、なんとか許容範囲だ。


 そしてトーンの根が、ロブントに絡み付く。


「ひぃ!? くそがっ! やっぱりこうなるのかよ!」


 ロブントは暴れるが、抜け出すことができない。


 そこでトーンが次にエナジードレインを発動させて、ロブントから生気を吸い始める。


 すぐに死に至るスキルではないので、ロブントは終始暴言を吐きながら抗い続けた。


 だが次第に弱っていき、最後は骨と皮になって息を引き取る。


 ミイラと化したロブントの死体が、この場に残った。


 少々残酷な殺し方になったが、まあトーンの食事みたいなものと考えることにしよう。


 トーンの葉っぱがいつもよりも瑞々みずみずしく、生気に溢れているように見えた。

 

「――!!」


 トーンも、満足したみたいである。


 そして役目を終えたトーンたちをカードに戻したのだが、トーンのカードに変化は見られなかった。


 ランクBの冒険者を倒しても、進化には至らなかったみたいである。


 うーむ。やはり、パワーレベリング的な事は出来ないのだろう。


 無抵抗の強敵を倒したところで、ゲームのように経験値が大量に発生するシステムではないようだ。


 けれどもこれは、何となく分かっていた。


 戦闘の経験というのは、そう楽に得られるものではない。


 俺の直感スキルも、そう告げている。


 加えてモンスターの進化には、様々な要因があるはずだ。


 戦闘の経験だけではなく、個性の芽生えや俺との関係性が重要な気がする。


 故に例えFランクのモンスターに命じて、無抵抗のAランクモンスターを何度か倒させたとしても、簡単に進化することはないだろう。


 なのでパワーレベリングでモンスターを大量進化というのは、現実的ではない。


 俺のカード召喚術はゲームのようではあるが、ゲームのように経験値取得からのレベルアップ、進化というシンプルなシステムではないのだろう。


 けれども例え仮にできたとしても、心情的に何となく腑に落ちないので、逆にできなくて良かったとも言える。


 パワーレベリングが出来てしまえば、俺のモチベーションが下がった可能性があった。


 やはり最強の軍団への道は、基本的にはコツコツと積み上げていきたい。


 これは、俺にとっての生きがいでもある。


 モンスターが進化する時の高揚と緊張も、手間がかかるからこそするというものだ。


 それに、トーンは元々進化が近い。


 訊き出した聳え立つ塔に行ってみれば、進化に至る経験を積める可能性がある。


 加えて進化に大事なのは、その戦闘で何を得られたかということだろう。


 もちろん強敵との戦いを乗り越えるほど、得られるものは大きいと思われる。


 であれば片手間で可能なザコ狩りは、ほとんど意味はない。


 ずっと側にいるレフが未だに進化できないのは、ランクの高さもあるが、これが原因なのだろう。


 けれどもレフは、リードとの決勝戦、俺との融合後のツクロダ戦、スパークタイガーやバーニングライノス戦、ボンバー戦でのアシストなど、経験は豊富だ。


 それを考えると、レフの進化も案外遠くはないのかもしれない。


 逆にBランクというのは、それだけ進化が大変という事だろう。


 これはレフや高ランクのモンスターの育て方も、今後はより考える必要があるな。


 今回は情報収集とまた一つ、カード召喚術について理解を深められた。


 不意の遭遇ではあったが、これは良い結果と言えるだろう。


 人との関わりを避けすぎるというのも、もしかしたら良くないのかもしれないな。


 俺は何となくそう思いながら、一度拠点へと帰還するのであった。


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