154 ユグドラシルの果実と種

 


 名称:ユグドラシルの果実

 説明

 ・食すことで状態異常・病気・呪いなどを含めたあらゆる状態から即座に回復する。


 名称:ユグドラシルの種

 説明

 ・食すことで状態異常・病気・呪いなどを含めたあらゆる状態から回復する。

 ・食すことで、いずれかの身体能力などをランダムに上昇させる。



 鑑定してみると、効果は思ったよりシンプルだった。


 ユグドラシルの言っていた通りだとすれば、果実の方が効果が高いらしい。


 実際果実と種では、即効性という面で違いがある。


 他に種の方は、状況次第では芽が出るだったか。


 しかし効果を見る限り、種は食べることで何らかの身体能力などが上昇するみたいだ。


 これは、使いどころが悩む。


 正直、身体能力の上昇は魅力的だ。


 だが説明欄に無い効果の中に、何かトラップが仕掛けられているとも限らない。


 お互いに危害を加えないことになっているが、抜け道がある可能性もあった。


 ゆえに自分で試すのは、止めておこう。


 なら手持ちのモンスターに使ってみるか? いや、主力モンスターにも使いたくはないな。


 しかしだからといって、ザコモンスターに使うのはもったいない。


 結局悩んだ末に、とりあえず保留しておくことに決めた。


 無駄に食べて、後から後悔することもありそうだしな。


 俺はそう判断を下すと、ユグドラシルの果実と種を再びストレージにしまう。


 ちなみにだが、果実と種はどちらも五個ずつ籠に入っている感じだった。


 数に余裕があるとはいえ、無駄にはできない。


 まあただ単に、俺が貴重品を最後まで中々使えないタイプなだけなのかもしれないが。


 そんなことを思いながら、直近で処理しておきたい事を全て終える。


 さてと、残すは哨戒しょうかいの緊急依頼だけだな。

 

 ダークエルフの戦士たちは早朝には来そうだし、あと一回の辛抱だろう。


 それが終われば、さっさとこの村から出ることにする。


 争いに巻き込まれて、偶発的にユグドラシルとの約束を破ってしまっては本末転倒だ。


 なのでここら辺が、潮時だろう。


 そうして俺は、哨戒の時間まで待機するのだった。


 ◆


 哨戒の緊急依頼も、無事に終了した。


 特に変わったことはなかったので、内容は割愛する。


 それでもあえて言うとすれば、依頼前に荒野の闇の面々と会ったことだろうか。


 当然立ち話になり、そこで緊急依頼が終われば去ることを話しておいた。


 しかし三人はこれから争いが起きると思っているからか、引き留めてくる。


 だが俺の決意が固いことを理解して、最後には渋々しぶしぶ納得してくれた。


 カードを渡すほどの関係ではないが、この三人とは僅かな間とはいえ友好を深めたので、何かあっても生き残ってほしいところだ。


 そんなことがありつつも、哨戒からの帰還時には、既にダークエルフの戦士たちが村に来ていた。


 つまり、これで哨戒の緊急依頼はお終いである。


 だがダークエルフの戦士たちの数が多いとはいえ、冒険者の仕事もまだまだ多そうだ。


 実際緊急依頼ではなくなったが、哨戒の依頼自体は募集しているという。


 冒険者ギルドの受付で引き続き受けないかと誘われたが、当然断った。


 するとその回答に、受付の人はやけに驚く。


 どうやら断られるとは、思っていなかったらしい。


 大抵のダークエルフは、村を守るために引き続き依頼を受けているみたいだ。


 緊急依頼でなくなったのは、僅かにいる参加の難しい冒険者に、配慮したからだと思われる。


 また緊急依頼と違い、普通の依頼だと報酬が安い。


 財政的に、緊急依頼を続けるのも辛いのだろう。


 まあ、今から村を去る俺としては、どうでもいいことだが。


 そうしたことがありつつも、俺は村を出た。


 特に挨拶をする人物はいないし、荒野の闇の面々には既に話し終えている。


 なので緊急依頼を終えた以上、村に残るのはリスクしかなかった。


 そして荒野に出て周囲に人の気配が無くなったことを確認してから、召喚転移を行う。


 場所は国境門の最寄りの村、ではなく少し離れた崖の上である。


 いつ国境門が開くか分からないので、節約のために野宿をすることにした。


 またいつ緊急依頼に駆り出されるか分からない以上、村、特に冒険者ギルドには近づかない方がいい。


 あとは結局国境門が開いたときに行動しやすいし、何より野宿の方が気楽だった。


 そういう訳でポツンと崖の上で、俺はしばらくのんびり過ごそうと考えていたその時、事態が動く。


 見張っていたアサシンクロウの一羽から、連絡が入る。


 どうやらタイミングよく、国境門が開いたらしい。


 なので早速アサシンクロウと感覚を共有して、確認してみる。


 すると国境門が開き、中から何かが出てくるところだった。


 繋がった国は、果たしてどのような場所なのだろうか?


 そう思っていると、国境門からそれが現れる。


「まさかこれは、モンスターの群れか」


 見えた光景に対して、俺はそう呟く。


 加えて、数がとても多い。


 そのモンスターの正体は、スケルトンの群れだった。


 なるほど。繋がる先が人型種族の国とは、限らないわけか。


 このように、モンスターばかりの魔境と繋がることもあるようだ。


 すると現れたスケルトンたちに対して、ダークエルフたちが向かっていく。


 以前国境門を見つけた時に偵察させていたのだが、その時よりもダークエルフの数が明らかに少ない。


 おそらく自称ハイエルフとの戦争が始まると警戒して、各地より戦士たちを招集した弊害へいがいだろう。


 だがそれでも相手は所詮、Fランクモンスターのスケルトンである。


 ダークエルフたちは、簡単に蹴散けちらしていく。


 これは、俺が何かする必要はなさそうだな。


 しかし状況がどのように変わっていくか気になるし、このまま観察しよう。


 だが近づき過ぎると気づかれるかもしれないので、アンクを召喚して向かわせることにした。


 アンクはアサシンクロウであるが、ユニーク個体であり鷹の目のスキルが使える。


 鷹の目のスキルは、発動中はかなり遠くまで見ることが可能だ。


 なのでアンクは、偵察に打って付けの個体である。


 そういう訳でアンクを召喚して、現場へと向かわせた。


 場所は比較的近いので、あっという間にアンクが辿り着く。


 そこからアンクと感覚を共有して、離れた位置から状況を観察する。


 といっても、終始ダークエルフが優勢だ。


 スケルトンがいくら現れようとも、相手ではない。


 だが次第に、状況に変化が生まれ始める。


 スケルトンの中に、武器を持つ個体や防具を装備する個体が現れ始めたのだ。


 もしかしたら、スケルトンの上位個体かもしれない。


 実際スケルトンより少し骨太で、動きもなめらかだ。

 

 それに対してダークエルフたちは、倒すまでの時間が少し増えたものの順調に倒していく。


 スケルトンの上位個体だとしても、ザコには変わりないみたいである。


 けれどもスタミナや魔力には限界があるのか、次第にダークエルフたちが押され始めた。


 増員が来て何度か持ち直すが、少しずつ厳しくなっていく。


 回復アイテムにも限りがあるのか、大技を繰り出せなくなってきた。


 やはり、数は力だな。


 圧倒的な個の力は別として、スタミナや魔力に限界がある以上、こうなるのは必然だったのかもしれない。


 加えて相手は、疲れを知らぬアンデッド軍団である。


 更に今では騎士のような上位個体や、ローブ姿の魔法使い系も現れ始めていた。


 そして一番奥には、巨大なスケルトンまでいる。


 これはダークエルフ側が敗走するのも、時間の問題だろう。


 さてと、観察はこれくらいでいいか。


 ダークエルフの国に大きな被害が出たら後味が悪いし、この辺で戦いに介入しよう。


 それにちょうど、闇に連なるモンスターが欲しかったところだ。


 あの中の上位個体であれば、闇属性を持っている気がする。


 また実戦の経験と姿を偽るために、カオスアーマーを身にまとった。


 レフも縮小を解いて、シャドーアーマーを発動する。


 漆黒の鎧を纏った俺とレフは、はたから見れば迫力があることだろう。


 どうせもうすぐこの国から去るんだ。ここは派手に行くことにする。


 そうして俺は、早速行動に出るのだった。


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