104 別れの時


 まずオーバーレボリューションをする対象は、リビングアーマー千枚である。


 その生贄に、ブラッドをまずは選ぶ。


 しかしこれだと生贄が足りないので、アシッドスライムとミディアムマウスを足していく。


 だが驚くことに、全て足してもまだ生贄が足りなかった。


 これは困ったな。


 それに、どれくらい足せば条件を満たせるのかが分からない。


 何となくカードを足すと、エネルギー的な何かが増える感覚はする。


 神授スキルの強化時にある程度の使い方は分かったが、こうした細かい部分については不明だった。


 これは一度、情報を集めた方が良さそうだな。


 俺はそう思いリビングアーマーの枚数を二枚などにして、おおよその必要枚数などを確認していく。


 そして色々試した結果、かなり正確な情報を得る。


 まずCランクのリビングアーマー一枚を1点とした場合、Dランクのミディアムマウスとアシッドスライムは0.1点だった。


 二枚のリビングアーマーをオーバーレボリューションさせるためには、つまり二十枚必要となるようだ。


 条件を満たすと感覚で分かるので、これは確定だろう。


 そして肝心のブラッドだが、リビングアーマーを基準にした場合327点だった。


 思ったよりも低いと感じたが、他と比べると十分に高いと言える。


 この点数は転移者という事や、エクストラに加えて他のスキルが影響しているのかもしれない。


 また確認のためホブンやホワイトキングダイルなどを一時的に生贄にセットすることで、ある事実が判明した。


 まず生贄は基準となるカードとのランク差で、生贄点数に十倍の差がつくようである。


 加えてエクストラは一つ10点、スキルは一つ1点だった。


 これについては、ランク関係なくその点数のようだ。


 ちなみに、種族特性は点数に反映されないようである。


 そう考えると、ブラッドの種族であるウェアウルフはBランクのようで、エクストラ九つ、スキル九つで合計109点。


 この点数を三倍したところ、327点になった。


 つまり転移者のカードは、通常の三倍の価値があるということになる。


 これで神授スキルが残っていた場合、どうなったのであろうか。


 気になるところだが、ブラッドは既に神授スキルを失っている。


 いつか他の転移者をカード化した時に、それが分かるかもしれない。


 そういう訳で、リビングアーマー千枚に対しての生贄必要枚数が判明した。


 つまり現状ブラッドとアシッドスライム、ミディアムマウスを全て足しても全く足りない。


 他のザコモンスターを足したところで、ほとんど意味がないのである。


 リビングアーマーへの生贄に使うならば、同格のCランクのカードが必要だ。


 Dランクは一枚0.1点なので、Dランクだけだと一万枚必要になる。


 ここまで来たら、どうにかしてオーバーレボリューションを実現したい。


 なので国境門が開くまでは居るつもりだったが、Cランクモンスターがいる場所に向かうことを決める。


 確か以前ディーバからオブール王国の西部に、リジャンシャン樹海があることを聞いた。


 そこにはCランクのジャイアントサーペントや、アサシンクロウがいるらしい。


 後はロックゴーレムがいるという、北部のダガルマウンテンも狙い目だろう。


 どちらも気になっていたし、両方行ってみるか。


 国境門が開くまでまだ余裕があるし、開いてもしばらくは閉じない。


 それに国境門の近くにモンスターを配置していれば、召喚転移ですぐに移動できる。


 よし、そうと決まればさっそく行動に移そう。


 俺は召喚転移で、ダンジョンから移動する。


「にゃぁ!」

「あ! おにいちゃん!」


 目印にしたのはレフであり、どうやらルーナと遊んでいたようだ。


 ちなみにレフは召喚できるようになってから、一度もカードに戻っていない。


 ダンジョンに連れて行っても過剰戦力だったので、ルーナの相手をさせていたのである。


 するとルーナが俺の足に抱き着いて来たので、頭を撫でた。


「えへへ」

「にゃにゃ!」


 またレフも俺の背からよじ登り、首の周辺にまとわりついてくる。


 ルーナは俺に頭を撫でられるのが好きなのか、この一ヶ月毎日のように近寄ってくる感じだ。

 

 そしてその後は、旅立つことをハパンナ子爵たちに告げる。


 みんな俺の旅立ちを惜しんでくれたが、ルーナには泣かれてしまった。


 しかし俺の気持ちは変わらないので、数日後には出ることに決める。


 フォレストバードを飛ばし、まずはCランクが生息しているリジャンシャン樹海に向かわせた。


 場所も以前もらった地図に載っていたので、問題はない。


 それに一度オブール王国中を回った経験があるので、おおよその目星はついていた。


 また次の日は旅立つための準備や、関わりのあった人たちに別れを告げる。


 といっても会ったのはジョリッツやその娘のリルル、冒険者ギルドのサブマスターであるラルドくらいだ。


 この街には長くいたが、俺の交友関係は狭い。


 そして夕方には、子爵家で宴会が行われた。


 こうした高級料理も、今後は食べる機会は減るだろう。


「るーな、今日もおにいちゃんと猫ちゃんと寝る!」


 旅立つと言った日から、ルーナは俺のベッドの中に潜り込んできていた。


 それくらい別に構わなかったが、ハパンナ子爵の視線が妙に鋭くなったのは、言うまでもないだろう。


「いいなぁ……」


 リーナもそう言ってそわそわしていたが、こちらは気づかない振りをした。


 仮に寝てしまった場合、何もなかったとしても責任をとらされる気がする。


「はは、ここは僕も立候補した方がいいのかな?」

「それは止めてくれ……」


 リードもふざけて、そう言ってくる始末だ。


「あら? じゃあ私も混ざろうかしら?」

「シ、シーナ!」

「あらあら、冗談よ」


 それに便乗して、夫人までこの会話に混ざってくる。


 ハパンナ子爵も、慌てて驚きの声を上げた。


 こうしたふざけ合える空気も、悪くはないものだ。


 しかしだからこそ、ここで別れるのが正解なのである。


 これ以上長居して何か起きた場合、俺はそのまま居ついてしまうかもしれない。


 俺はまだまだ、冒険がしたかった。


 なのでこうした出来事は、思い出として大事にしよう。


 忘れないように、大事に。


 ◆


 そうして最後の夜が明けて、旅立ちの日がやってきた。


「これでお別れか。僕は助けられてばかりだったけど、ジン君の事は大切な友人だと思っているよ」

「俺も、リードは友人だと思っている。次に会うのは何時になるか分からないが、また会おう」

「ああ」


 俺はリードと握手を交わす。


 思えば俺にとって、友人らしき存在はリードくらいかもしれない。


 仲良くなっても、すぐに別れることがほとんどである。


 この一ヶ月、リードには世話になった。


 グリフォンもいるし、リードは大丈夫だろう。


 ただあのグリフォンは、元はあの倒した人物のモンスターだったので、そのことが気になる。


 まあ、グリフォンには上級鑑定妨害もあるし、まさか他の人物に使役されているとは思わないだろう。


 そのリスク以上に、メリットの方が大きい。


 これから大変だろうが、リードなら乗り越えられると信じている。


 続いて俺は、悲しそうな表情のルーナと向き合った。


「おにいちゃん、行っちゃヤダ!」

「ごめんな。けど、行かなきゃならないんだ」

「うぅ」


 涙を流すルーナの頭を、俺は優しく撫でる。


 ここまで懐かれるとは、当初は思いもしなかった。


 しかしかといって、情に負けて止まるわけにはいかない。


 かわいそうだが、ここでお別れだ。


「ジンさん、お元気で。さ、最後に、私も撫でてもらってもいいですか?」

「ああ、それくらいなら」

「あ、ありがとうございます」


 次に俺は、リーナの頭を撫でる。


「ふぁぁ……」


 ここまで来れば、リーナの気持ちは俺も理解していた。


 だが、それに答えることはできない。


「あらあら、これはリードが頑張らないと、血筋が激減しそうね?」

「そうだね。そのためには僕も、婚約者を見つけなきゃ……」


 そう言ってニコニコ笑う夫人と、なぜか俺を見るリード。


「あらあら、男色はダメよ? 本当にお家が断絶してしまうわ」

「ち、ちがっ。ジン君じゃなくて、ジフレさんが……あ、どっちもジン君か……」 


 するとリードはそれを思い出したのか、どこか遠い目をした。


 リードには悪いが、俺にそっちの気はない。


 例えそれが、ジフレの姿だったとしてもだ。


「まさかジン君に、我が子がみな堕とされるとは……シ、シーナは大丈夫だよな?」

「あらあら、どうでしょう?」

「なあっ!?」

「冗談よ」


 そんなハパンナ子爵と夫人のやり取りが行われた後、いよいよ旅に出る時がやってきた。


 ちなみにハパンナ子爵たちの他にも、ディーバやセヴァン、兵士たちとも言葉を交わしている。


「では、これで失礼します。またお会いした時は、よろしくお願いします」

「最後なのに、硬いなジン君は。ああ、また会おう!」

「はは、私に気を使わなくてもいいのだよ? 当家はジン君をいつでも歓迎しよう!」

「あらあら、その時はパーティを開かなきゃね」

「ジ、ジンさん。貴方のことは忘れません。ずっと、ずっとです!」

「おにいちゃん、早く帰って来てね! 猫ちゃんも!」


 そうして俺は最後に親しくなった人たちに別れを告げると、ハパンナの街を出た。


 屋敷から直接召喚転移も可能だが、形式や心情的なこともあり、俺は街の門を通った。


「またいつか、この街に来れるといいな」

「にゃぁ」


 最後にそう呟くと、俺は足元にいたレフを抱き上げてから、召喚転移で移動するのであった。

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