103 帰還から一ヶ月後


 カード化が可能になるまでに、およそ一ヶ月もかかってしまった。


 これで半減しているので、本来は二カ月必要だったという事になる。


 約一週間融合していると、ここまで長引くのか。


 これからは、融合や幻影化は短期間での使用を心がけることにする。


 俺にとってこの一ヶ月は、正に歯がゆい日々だった。


 また大陸の情勢に変化が訪れ、思った通りドラゴルーラ王国から同盟の話がオブール王国にきたようだ。


 しかしその締結が、遅々として進まない。


 ドラゴルーラ王国は、この状況でも高圧的のようだ。


 理由は元々ドラゴルーラ王国が、この大陸を支配していたことが関係しているみたいである。


 どうやら分裂当時、三人の王子がドラゴルーラ王国にいたらしい。


 長男はドラゴン系こそ使役できないが、強力な様々なモンスターを使役する才能があった。


 対して次男はサモナーとしての才能はそこそこだが、ドラゴン系を使役できたようだ。


 三男に至ってはサモナーの才能自体無いものの、一番賢く三男自身もとても強かったみたいである。


 またドラゴルーラ王国は国家名からも分かる通り、初代ドラゴルーラ王がドラゴン使いだった事が始まりである。


 なので王になる者が、ドラゴンを使役できないということは致命的だった。


 結果として一番才能がなく知恵もない次男が、ドラゴン系を使役できるというだけで王太子になった訳である。


 けれども当然、長男は納得がいかない。


 三男も一番優れた自分こそが王に相応しいと、声を上げた。


 そうして三人の王子が争うことになり、最終的に三つの国になってしまう。


 このオブール王国は、長男のオブル・ドラゴルーラが建国した国である。


 ちなみにラブライア王国は、三男のブライア・ドラゴルーラが建国した国だ。


 次に土地面積は、ドラゴルーラ王国が大陸の下半分を支配している。

 

 対してオブール王国は、大陸上半分の三分の二を支配していた。


 そして残りの北東にある三分の一を、ラブライア王国が支配しているのである。


 加えて戦力的にも、ドラゴルーラ王国が一つ抜けていた。


 なのでこれまでは、オブール王国とラブライア王国は敵同士ではあるものの、お互いに支え合っていたのである。


 しかしツクロダが発端になり、その均衡きんこうくずれ去った。


 オブール王国としてもラブライア王国を潰したい気持ちはあるが、その後が問題なのである。


 しばらくは大丈夫だが、戦争の傷が癒えれば次はオブール王国の番になってしまう。 


 再び大陸を統一するため、ドラゴルーラ王国が攻め込んでくるのは簡単に予想できた。


 しかしここでラブライア王国との戦いに参戦できなければ、全てドラゴルーラ王国に持っていかれてしまう。


 また同盟なくオブール王国が進軍すれば、それはそれで問題だ。


 お互いに疲弊した中で、ドラゴルーラ王国との即時戦争に発展してしまう。


 そうなれば、オブール王国が負ける可能性があった。


 ツクロダによる被害や信者の報復侵攻があったとしても、国力にそこまでの差がある。


 だがしかし、チャンスであることも変わらない。


 なので上層部は、かなり頭を悩ませているようだ。


 それが同盟締結が遅々として、進まない理由である。


 同盟を結んで実質属国に収まろう派や、漁夫の利で戦争を仕掛ける派で争っているようだ。


 まあどちらにしても、数か月で終わることではない。


 下手をすれば、年単位の戦いになるだろう。


 ハパンナ子爵家の者には生き残ってほしいが、正直国についてはどうでもいい。


 下手に肩入れをしてしまえば、俺の旅はここで終わってしまう気がする。


 厄介ごとというのは、次から次へとやってくるはずだ。


 肩入れを続ければ、あっという間に何年も経ってしまうだろう。


 なので悪いが国境門が開き次第、俺はこの大陸を去ることにした。


 このオブール王国にも国境門があるので、そこに向かう予定だ。


 それまでの間に、やることを終えておく。


 何をするのかというと、カードの譲渡だ。


「わんわんだ!」

「わふ!」


 そういう訳でまずルーナには、グレイウルフを譲渡した。


 レフの元々の種族であり、どうやら一目で気に入ったようである。


「私も良いのですか?」

「ウォン」


 リーナにも、グレイウルフを譲渡する。


 俺の能力に最初は驚いていたが、融合した姿も見せていたこともあり、理解してくれた。


 譲渡するカードに迷ったこともあり、いくつか渡しても問題ないカードから選ばせたところ、グレイウルフを選んだのである。


「えっと、私も良いのかしら?」

「がめぇ」


 俺との関わりは薄かったが、家族の中で一人だけ渡さないというのもアレなので、夫人であるシーナにも譲渡した。


 欲しいカードを選ばせたところ、ソルトタートルに決めたようだ。


 ソルトタートルは使役するのが大変難しい事に加えて、岩塩を直接手に入れられるのは一種のステータスになるらしい。


「ほ、本当にいいのかい?」

「ブフゥ」


 次にハパンナ子爵には、ハイオークを譲渡した。


 この一ヶ月貸したままだし、今後のことを考えたら、ハパンナ子爵の守りを固めたいというのもある。


 去るとはいえ、心配なことに変わりない。


 また正直ハイオークは、既に少々力不足だ。


 いてもいなくても、大した違いはない。


 ちなみに、オークは全て回収した。


 流石に、オーク五十体を譲渡するのはやりすぎだ。


 それと世話になったということもあり、ディーバにもモンスターを譲渡した。


 ディーバは、アシッドスライムを選んでいる。


 アシッドスライムは、その危険性から使役するまでが難しいようだ。


 強酸を飛ばしてくるので、それも当然だろう。


 なのでディーバには、とても感謝された。


 そして最後に俺は、リードにこのモンスターを譲渡する。


「ジン君、本当にありがとう。この子を大切にすることを誓うよ」

「グルルゥ!」


 俺が譲渡したのは、グリフォンだ。


 ラブライア王国の行きと帰りでは、とても役に立ったことは間違いない。


 だが元々は他人のモンスターであり、過去の持ち主との関係が完全に消えていないのか、進化する可能性がとても低いモンスターだ。


 俺が渡してもいいと思ったモンスターの中で、このグリフォンが一番強い。


 正直愛着が湧いてきたのも事実だが、それ以上にリードには生きてほしい。


 国のことを考えれば、これから大変になるだろう。


 また最初はリードもグリフォンを受け取ることを、中々了承しなかった。


 グリフォンは強力なモンスターであり、Bランク上位でもある。


 加えてスキルもそろっていることから、Aランク相当の強さを持っていた。


 それを受け取るのは、流石に無理だと言ったのである。


 だが長い説得の末、俺はリードにグリフォンを渡すことに成功した。


 このグリフォンがいれば、早々に死ぬことは無いだろう。


 俺自身、ここで去るのは相当身勝手だと理解している。


 だからこそ、これは償いの一つでもあった。


 俺は、ここで止まる訳には行かない。


 一つの大陸に居ついてしまえば、俺の成長は止まる気がした。


 これは確信に近い、直感でもある。


 そしてこれ以上肩入れをすれば、確実にずるずると続いていくだろう。


 であれば、ここが別れる最後のチャンスである。


 だからどうか、生き残ってくれ。


 俺はそう祈りながら、カードの譲渡を終えた。


 しかしまだ国境門は開いておらず、時間がある。


 開く前兆はあるようなので、その時は近いだろう。


 それと俺がこの大陸に来た国境門を通ることも一度考えたが、来た理由を思い出してやめにした。


 また同じ大陸ではなく、別の大陸に行きたいという気持ちもある。


 なので俺は、新たな国境門が開くのを待つことにした。


 その間に譲渡したことで数が半端になったので、ダンジョンで再度集める。


 ソルトタートルとアシッドスライムをカード化して、数は元通りになった。


 ちなみにハイオークは残念ながらおらず、宝箱もほとんど見つかっていない。


 誰かが持っていたか、ダンジョンが宝箱の中身を補充していないのだろう。


 ついでに生贄のために、最奥でアシッドスライムとミディアムマウスを乱獲する。


 オーバーレボリューションの生贄は数も必要だが、質も大事なようだ。


 スライム十匹よりも、アシッドスライム一匹の方が生贄として上である。

 

 ちなみにボスエリアは、未だに閉じられているので戦うことはできない。


 またブラックレオパルドも、補充されていないようだ。


 探してみたものの、一度も遭遇しなかった。


 そうして狩りを続けていると、この階層でモンスター自体が補充されなくなってしまう。


 おそらく、ダンジョンの魔力がだいぶ減ってしまったからだと思われる。


 ボスモンスターも倒され、連日食料のためにオークも狩り続けられてきた。


 その弊害へいがいの結果が、とうとう来たのだろう。


 これは流石に不味いと思い、俺はダンジョンでの狩りをやめにした。


 だがアシッドスライムとミディアムマウスをかなりカード化できたので、十分だろう。


 アシッドスライムが271枚、ミディアムマウスが328枚になった。


 周囲に人もいないし生贄が足りるようであれば、ここでオーバーレボリューションをしても良いかもしれない。


 俺はそう考えて、早速実行へと移すのであった。


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