灰色の永遠
埴輪庭(はにわば)
第1話 灰色の永遠
◆◆◆
“そうなってしまう”前のラカニシュは西域の北部、オルド王国近隣のとある小さい山村の生まれであった。
山村がある地域は冬と雪の女神、北神ファラールと呼ばれる地神への信仰が厚い。
冬になれば北神ファラールは氷雪から成る冬女神の愛娘…フラウを下界で遊ばせる、だから冬は寒いのだ、だから冬は雪が降るのだ、と人は言う。
ラカニシュはその北神ファラールを奉じる神官であった。神官と言っても何か特別な異能があったわけではない。
ファラール神からも何か力を授かったという事も無い。
当たり前だ。
北神ファラールなど存在しないのだから。
存在しないのになぜファラール神を奉じる宗教などがあるのか。
それは簡単にいえば生活の知恵というか先人の叡智である。
冬は美しいが危うい季節だ。
そこかしこに危険が潜む。
古代の先人はそういった危険に備える知識をより効率的に後世に伝承する術がないかと模索した。
その結果がこれである。
神は寒冷地で生活する為の備え、その口伝の潤滑油となり果てた。
だがそれは別に涜神にあたる行為でもなんでもない。
なぜならその神自体が居ないのだから。
古代の民の賢明さはそれだけではなく、まかり間違っても神格を得ないように、神の器たるモノをつくりださなかった点にもある。
仮に御神体の様なモノがあれば、信仰を集めたそれはいずれ神格を経て、更なる安寧か、或いは惨憺たる破滅を北方へ齎していたであろう。
神とは決して善きものであるとは限らない。
冬、寒い季節という漠然とした概念を器にするには信仰の総量が足りなさ過ぎる。
ゆえに北神ファラールという存在はあくまで名前だけの存在となった。
ともあれ、歴史の真相に気付いているラカニシュが口を紡ぎ、同時に古代から連綿と受け継がれてきた生活の知恵をもって厳冷地にある山村の生活を支える。
これまではそれで上手く行っていたのだ。
中央教会の使者が山村を訪れるまでは。
◆◆◆
名も無き山村・村長の家、客間。
使者達は8名でやって来て、冬神教の司祭たるラカニシュ、そして村の指導者である村長が対応に当たった。
――なぜ至尊たる法神を奉じず、蛮たる事甚だしき異形を崇めるのか
中央教会の使者は声高に村長を詰った。
中央教会…ひいては法神教という覇権的一神教は色にも生臭にも厳しい制限等は無い。
法神に祈りを捧げれば法神教の聖職者達は信徒達に現世利益と言うわけではないが、例えば病気の治癒や怪我の治療、生活上の細かいが役に立つ知恵などを授け、害虫から害獣、あるいは魔獣の駆除までもを民草の為に為す。
故にイムの大陸全域に瞬く間に広がり、勢力を拡大してきた。
だが一点。
異教の崇拝には非常に厳しい、苛烈とも言える施策を取ってきた。
その“施策”の結果、多くの血が流れる事は珍しくはない。
これには山村の者達も辟易した。
これまで父の代もその父、さらにその父の代からもずっとファラール神を奉じてこの地で生きてきたというのに、何故今になっていきなりそんな事を言われるのか。
これは、この小さい山村が中央教会の権勢が及ぼす範囲の外か、あるいはそのギリギリの位置にあった事が大きく影響している。
要するに中央教会からみてその山村は遠すぎたのだ。しかし地理的に遠いという事は改宗の強要を諦める理由足りえない。
布教活動と銘打った異端討伐は大陸の各所に及び、例外は無い。時間を掛けて周辺の地歩を固めた後、中央教会は北方地域へと法の手を伸ばした。
使者達の醸し出す危険な雰囲気を察したラカニシュは、改宗に応じると伝える。
だがその提案は受け入れられなかった。
「巧言を弄するかッ!」
そのリーダーと思しき者が腕を振るい、机の水差しが吹き飛ばされる。
ラカニシュの英明な脳は中央教会の使者達の間尺に合わない振る舞いを見て、疑念を抱いた。
――彼等は適当な理由をつけ、我々を異端者だとするつもりだ。だが、それで彼等が得るものは何だ?いや、想像はつく。だがそれを断ればどうなる?
ラカニシュの予想が正しければ求められるものは明らかだ。だがそれを受け入れるというのは厳しい。
では断わればどうなるか。
そこから感じるのは濃厚な血腥さであった。
その血臭が意味する所は明らかだが、ラカニシュは努めて気付かない振りをした。
なぜならば気付いた所で心が挫けるだけであったからである。中央教会の光と闇、その両面についてはラカニシュも知っている。
「巧言ではありませぬ。我々は冬神への信仰を捨て、法神に帰依致しましょう」
ラカニシュは慎重に言葉を紡いだ。
「まかり成らぬ!異端信仰は討滅の理由足りえる!真の心を立てぬ限りは信ずるに値せぬ!」
「では我々を滅ぼすと?」
「そうは言っておらぬ!何と察しが悪いのか!貴様らが真に尊き法神に帰依するというのならば、その証を立てよと言っておる」
「証とは…?」
大方金と女、生臭であろうと看破したラカニシュの予想は的中した。
法神教はその辺りの縛りが緩い。
それはつまり、その精神性が世俗により近いということだ。
だが決して自分からは言わない。
村は貧しい。
よって金も女も食料もくれてやる余裕などはないからだ。
捻りだせば僅かならば出せるかもしれない。
中央教会の使者が自身で欲望を垂れ流さないのは、聖職者としての恥を多少は知っているからか。
ラカニシュはそのあるかないかも定かではない使者達の羞恥に付け込む積もりであった。
彼の思惑は駆け引きのあり方としては正しい。
しかしそれは見せかけだけの正しさであった。
そもそも何故駆け引きなどをしなくてはいけないのか。条件を交渉をしなければならないのか。
それは力押しを選ぶ事で大きな損失が発生するかもしれないからだ。
それは力押しを選ぶ事で本来得られるはずだった利益を得られなくなるかもしれないからだ。
当然の帰結として、血が流れる事となった。
なぜならば、使者達にとっては言葉ではなく力を用いた所でさしたる抵抗はない以上損失はなく、また得られるはずだった利益と言うのも村を潰した後に接収すれば良い為考慮するに値しない。
ラカニシュは腹部に冷たい灼熱を覚えた。
長剣が彼の腹を貫通したのだ。
ラカニシュの駆け引きに対して使者達が返した答えは鉄剣であった。
ラカニシュは思う。
彼らはまがりなりにも聖職者ではないのか。
聖職者とは神の言葉の代弁者ではないのか。
そんな神の使者たる者がこの様な所業を為すのであれば世界に神はなく、而して安寧も無い事に等しいのではないか。
ラカニシュが意識を失って後、村には沢山の沢山の血が流れた。
その血にはラカニシュの老いた両親、友人、妻、そして産まれたばかりの子供の血も含まれていた。
◆◆◆
ラカニシュが目覚めた時、村には彼を除いて誰一人として生者はいなかった。
いや、彼を手当てした者ならば居た。
「やあ。体調はどうです?」
ラカニシュは飛び起きた。
なぜなら悪魔の如き相貌の禿頭の男がこちらを見下ろしていたからだ。
「はじめまして…私はマルケェス・アモン。何の変哲も無い、しがない…草臥れた僧侶です。オルド王国を目指していた所、糧食に不安が出てきてしまいましてね。この村が遠目から視えたのですが、たどり着いてみればこの有様で…貴方だけかろうじて息がありましたから手当てをしたのです」
マルケェスと名乗る男はいかにも怪しかったが、腹に手をやってみればその傷は塞がっている。
「手当てをしてくださったのですか?感謝いたします…それで、その…私だけ、と言うのは…」
マルケェスはその質問には答えず、しかし首を横へ振った。
何が言いたいかは明らかであった。
「そうですか…」
事情を説明してもらっても?というマルケェスの質問にラカニシュは答えていく。
全てを説明した時、ラカニシュの頬を数滴の涙が伝った。
理性と合理により情動を制御しているラカニシュの、それが人としての最後の感情の発露となる。
「貴方はこの光景を見てどう思いますか?許せませんよね?この惨状を作り上げた者達に報いをくれてやりたい、そう思いませんか?」
マルケェスの言葉に間髪いれずにラカニシュは否と答えた。
意外そうな表情を浮かべるマルケェスに、ラカニシュは寂しそうな笑顔を浮かべ答えた。
「私には、私には分かりません。この村には神の名だけが伝わっていました。その神が存在しない事を私は分かっていました。しかし、神なき生活であっても毎日の生活は平穏であり、安寧でありました」
「見ての通り村は厳しい環境の中にあります。1年を通して冷え込み、山の恵みが採れる期間も極短い。それでも私達は上手くやってきたのです。先人の知恵が生活を支えるための大きな力となってくれました…」
「法神は冬神とは違い、確かに天におわすのでしょう?その法神を奉じる者達であるなら、我々よりもより深く平穏と安寧の中にあるべきではありませんか?それなのに何故、他ならぬ彼等自身が凶報の運び手となるのでしょうか。神の存在は平和に寄与しないのでしょうか」
つらつらと語るラカニシュの話を黙ってきいていたマルケェスは一言尋ねた。
「怒りはないのですか?」
ラカニシュは答えた。
「ええ、怒りはありません。おかしい事だと私自身も思います。しかし本当にないのです。あるのは悲しみです。神なき日々にも関わらず平穏と安寧に在った平和の日々が破れた事への悲しみです。そして神を奉じてなお凶事を為さねばならない業を背負ってしまった人々への悲しみです。神がいてもいなくても、人は救われないのでしょうか。安寧の中にたゆたう事は出来ないのでしょうか」
それを聞いたマルケェスはゆっくり首を振り、そして言った。
「貴方は危険だ。危険で、しかも狂っている。そして面白い。ところで貴方の望み…平和を…安寧を…永遠に続く平穏を貴方自身がつくりだせるとしたら…、その為に何をすればいいのかを私が知っているとしたら、貴方はこの手を取りますか?」
ラカニシュは茫漠した視線をマルケェスへ向け、やがてノロノロとした所作でその骨ばった手を取った。
平和を希求する青年、ラカニシュはこの日をもって連盟術師となる。
そして、青年が中年となるほどに時が流れた後、連盟術師『灰色の永遠』ラカニシュは2名の連盟術師を殺害し、連盟を脱退するのだ。
◆◆◆
――レグナム西域帝国北部領域、旧オルド自治領
かつてオルド王国は北方の雄であった。
しかし現在は自治を認められているとはいえ、帝国領である。
なぜオルドが帝国の下位に座しているのかといえば、これは帝国の侵略が理由というわけではない。
端的に言えば元連盟術師、『灰色の永遠』ラカニシュの暴虐により国体を維持できなくなった為、当時のオルド王家が友好関係にあったレグナム西域帝国に降る事を条件にラカニシュ討伐の為の兵を貸与、そしてラカニシュが世界中に掛けた呪詛の解除を依頼したのだ。
だが、この話の薄ら寒い点はラカニシュの暴虐とその呪詛にあるわけではない。
ラカニシュは世界を呪おうとして呪詛を仕掛けたわけではなく、その逆、祝福しようとして加護を与えたのだ。
少なくともラカニシュの認知の範囲内ではそうであった。
地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったもので、ラカニシュという男は悪党ではなかった。
それどころか彼は善意の人だったのだ。
だが彼の漆黒の太陽の如き善意は、生きとし生ける者全てにとっての邪悪でもあった。
ラカニシュは連盟の術師であった。
連盟の術師は己の渇望を術として編むものが多い。
彼の渇望は“永遠”を作り出す事だ。
永遠とは何か。
その定義は人それぞれではあるが、少なくともラカニシュの考える永遠とは死の無い世界である。
ラカニシュは終わりの摂理を停滞させる。
終わりの摂理とは、分かりやすく言えば人は死ねば終わり、その魂は再び新たな生へと巡るという摂理だ。
ここまで言えば彼が顕現した術とは要するに死者の蘇生…ひるがえって、ラカニシュとは死者操者であると思う者が多いだろう。
しかしそれは違う。
彼は死者の蘇生などはしない。
ラカニシュの術は生者が死するその時、対象の時を停滞させ死に至るを食いとどめるのだ。
本来死すべき生者は終わる事が出来ず、自身がもっとも幸せだった記憶を夢に見ながら永久に現世にあり続ける事になる。
ラカニシュの術の恐るべきは終わる事が出来ないという点である。
終わる事が出来ないという事はその魂は輪廻を巡る事が出来ないということだ。
これは極論になるが、ラカニシュが存在する限り魂の総数は少しずつ減っていき、やがて現世は幸せを夢想する骸の彫像で満たされるだろう。
魂は巡らず、新たに生命がうまれることもない。
それは正しく“滅び”と言って差し支えない。
肉体の破壊も出来ない。
時を停滞させるという事はどういう事か。
それは如何なる干渉も受け付けなくなると言う事だ。
ラカニシュの術の範囲において人は終わりに向かう事が出来ない。
永遠にその場で足止めされてしまう。
そして、肝心のその範囲は地上全域だ。
なぜならばラカニシュは世界中を平和にしたいとおもっているのだから。
ただし術が適用されるには条件がある。
彼が“幸せに導こう”と正確に認識した範囲、対象においてのみ術が起動する。
つまり、ラカニシュが与り知らない場所でラカニシュが原因ではない死を迎えた者がいた場合、その者は普通に死に、普通に輪廻する。
逆にラカニシュの認知の範囲内にあり、彼がその者を“救いたい”と願っていたならば、その者が仮に世界の裏側にいてラカニシュの居場所とは遥かに離れていようとも、その者は彼の術に囚われるであろう。
連盟の術師の切り札は自身から力を取り出すといったものだ。
己の心象世界の物質化、もしくは心象世界をもって世界を塗り替える。
ラカニシュの術は後者に当たる。
ではその代償は何なのか?
ラカニシュの恐るべきはこの点にもある。
代償はない。
なぜならば、ラカニシュは誰かに何かを、自身のルールを強要しようなどとは思っていないからだ。逆に、奉仕であるとすら考えているからだ。
彼は真に民の、家族の安寧を願っていた。
あえて代償を、と言うのならばその“奉仕”の心が代償だろう。
ラカニシュが世界の全てに奉仕したいという滅私の精神を以て術を使う限り、術は永遠に起動し続ける。
――輪廻の停滞?それに何の問題があるのか?生は苦痛と同義である。なぜならば生きている限り死という最悪の苦痛に至らなければならないのだから
――で、あるならば。真なる幸せとは生も死もない世界に生きる事ではないのか
ラカニシュはそう言って憚らない。
術は強い想いを形と成す。
ラカニシュの“永遠の平穏”への想いは極めて強力な力を彼に与える事になった。
◆◆◆
己が在る限り平和が続く。
ならば寿命という頚木から逃れなければならないだろう。
ラカニシュがそう考えたのは不自然な事ではない。
彼の術は確かに永遠に起動できる。
しかし彼自身は永遠ではないのだから。
術の対象に自らを含める事が出来ればいいが、ラカニシュはそれを選ばなかった。
夢想の中に生きて、果たして術を起動し続ける事が出来るかどうか疑問だったからだ。
術とは確個たる意思がなければ使う事が出来ない。
ならば別の手で死を遠ざけるしかない。
そう考えた彼が取ったのは不死者と化す事であった。
不死者となる為には高度な儀式を成功させなければならない。
生きたまま自身の肉体を崩壊させ、骨格に魂を宿す。これが中々難しい。と言うのも一般常識では命は肉に宿るとされているからだ。
一般常識とは極論でいえば世界の摂理。
自身限定ではあるが世界の摂理を誤魔化す必要があるというのは魔術に造詣が浅いものであっても難しいという事くらいは分かるだろう。
ここで重要になるのは儀式の触媒だ。
触媒は人体を使う。
なぜなら人体に作用する儀式であるから、触媒もまた人体を求められるというのは至極当然である。
その触媒は出来るだけ魔術との親和性が高い方が良い。要するに魔術師の肉体が触媒には最適と言うことだ。
かくしてラカニシュは2名の術師に目をつけた。
連盟術師『糾う骨』キャスリアン
連盟術師『判事』ルードヴィヒ
彼等に決めた理由もある。
この2名の体はその固有の術を思えば不死化の触媒として理に適っている。
更に言えば連盟術師としてはこの2名は純戦闘能力に欠けるという理由もある。
基本的に連盟術師はハマれば強いが、ハマらなければその辺の野盗にすら殺されかねないというような者が珍しくはない。
当然簡単な話ではない。
ラカニシュが返り討ちになる可能性は十分ある。
が、結果としてラカニシュは2名を殺め、そしてその肉体を手に入れた。
これは実力的にどうこうというよりは、どちらかといえば意表を突いた不意打ちめいた殺り方であった。
連盟術師は同じ連盟員を“家族”と見做すものが多い。
それは彼等の心に孤独という名の空虚な穴が寒々とあいているからだ。
ラカニシュはそうではなかった。
ラカニシュには“家族”より大事なものがあった。
それは“世界平和”である。
平和のためなら多少の犠牲はやむを得ないのだ。
◆◆◆
とはいえ、そんな穏和なラカニシュではあるが、結局はオルド騎士団により滅ぼされてしまう。
ラカニシュは連盟術師3人分の魔力を持つバケモノではあり、極めて悪辣な固有の術を持つ。
だが、それがなんだと言うのか?
彼が腕の一振りで炎の津波を起こし、100人のオルド騎士を焼き殺すならば200人をもって殺到すれば良い。
殺された100人のオルド騎士は死を否定されて哀れではある。
だがそれが何だと言うのか?
巨悪を滅ぼす為の必要経費である。
オルド騎士は損得計算に聡い。
最終的に得が取れるとなれば、自身の命であろうと喜んで支払う。
更にはレグナム西域帝国からの援軍もある。
衆寡敵せず。
ラカニシュは特に工夫も何もない数の暴力にすりつぶされ、敗北した。
だが正確にいえばラカニシュは死んで消えたわけではない。
なぜならば彼は不死者だ。
不死者は死なないから不死者なのである。
ましてや、業に塗れた超高級な触媒をつかった『パワー・リッチ』である。
半殺しにされたラカニシュは最終的に帝国の術師団によって北方の地へ固く封印された。
封印されたラカニシュは現世に祟りを為さぬように祀られている。
◆◆◆
改めてレグナム西域帝国北部領域、旧オルド自治領。
魔王軍はイム大陸の全域に侵攻を開始した。
西域の覇者、レグナム西域帝国への侵攻は特に力を入れているように思われる。
魔王軍の侵攻は同時多発的に行われた。
転移雲と呼ばれる黒雲が各地に発生し、黒雲の中から無数の魔物、魔族の尖兵が現れたのだ。
彼等の使命は人類の殲滅、そしてイム大陸の各地に未だ存在する“力ある存在”…例えば地神や守護獣の殲滅である。
旧オルド自治領は魔族の基準では“力ある存在”が眠る地であった。
なぜそれが眠るか分かるかといえば、それは魔力の濃度によるとしか言えない。
ともあれ、魔族は旧オルド自治領へ侵攻し、あろうことかラカニシュが封じられている墳墓を暴き、そして封印を解いてしまった。
ラカニシュは邪悪…というより非常にタチが悪い存在だ。
己を善である、救済を齎すものであるとおもっている。
全ての生物に悍ましい生を与え、永遠の平和を世界に齎したいと希求している。
その対象は人類のみではない。
生きとし生ける者すべてだ。
当然、魔族も。
北の地に平和を愛する救済者、元連盟術師ラカニシュが復活した。
平和の使徒たるラカニシュは魔族の群れに向けて笑みを向ける。
救うべき存在が此れほどいる事に喜びが抑え切れなかったからだ。
その様相は封印された頃とは異なっている。
不死者の力は時が経てば経つほどに強大なものとなる。
今のラカニシュはかつての彼とは比較にならない力を有するだろう。
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