勝負の行方

勝負の行方(1)

 今年、創立98周年を迎える佐々木出版社。そんな中、漫画家が担当編集者を選ぶ勝負が始まった。

 漫画家が担当編集者を選ぶことはできない、まさに前代未聞となり。宮本副編集長の勝ちと騒ぎ立てる社員たち。宮本副編集長に勝負を挑むとは身のほど知らずだと言う社員たち。


 そんな中、アリスはそんなことは一切気にしない、動じない。周りは敵だらけ状態。しかし、ここにいる編集者はこの勝負を茶化したりはしない。

 滝沢編集長はこのことに関して何も言わないが、こんな騒ぎに悲しくなる。

 そんな時、宮本副編集長がこの騒ぎを止めに入り。滝沢さんに文句がある奴は、私が聞く。この勝負をバカにするものは私が容赦しない、と社内一斉メールで騒ぎを止め。アリスに敬意を示し。アリスは、宮本副編集長に深々と頭を下げ、礼を言った。


 この勝負は、アリス1人の戦い。

 ここ1ヶ月分の夢先生のスケジュールの引き継ぎが終わった時点から、1ヶ月間の夢先生の担当編集者として評価が始まる。但し、緊急を要する事態になった場合、その内容によっては、アリスの負けが決定する場合もある。その時は、1ヶ月間は一編集者扱いとして最後まで働いてもらう。

 宮本副編集長は、アリスの仕事ぶりを独自のチェック表でチェックしている。これは勝負とは関係ない。


 ここ1ヶ月分の夢先生のスケジュールの引き継ぎが始まり。夢先生の漫画は、『月刊少女ドリーム』、『週刊少年フラップ』に掲載している。

 ミーティングルームでは、宮本副編集長はアリスに、夢先生の引き継ぎを説明し。アリスはまるでベテラン編集者のような雰囲気をかもし出し、引き継ぎ資料に注意点を書き込み、説明を聞いている。

 この時点で、別な意味での勝負が始まり。宮本副編集長は、アリスの態度を見ているのか、チェック表に何やら記入をしている。


 そんな中、宮本副編集長はアリスに、無茶ぶりを仕かける。

 佐々木出版社は、2年後、創立100周年を迎え。全ての部署でプレミアム企画を考えることになっている。そこで、宮本副編集長はアリスにも企画を出すように指示をした。

 すると、アリスは、テーブルの下に置いていたバックから何か取り出し。その手には、クリアファイルが。

「副編集長、見ていただきたい企画書があります」

「企画書!?」

 宮本副編集長は、この無茶ぶりにアリスがどう反応するか見たかった。それなのに、この子は先を見ているのか、そんな感じを受け。その企画書のタイトルは。『週刊少女ドリーム』復活、3ヶ月間の奇跡。


 構想は中学生の時に思いついた。毎週火曜日発売。新作全12話構成で完結し、付録付。付録は、『月刊少女ドリーム』の復刻版付録として、事前にアンケートを取り、ランキングごとの付録になり。1話目には、12位の付録を付け、最後の完結話に1位付録を付ける。

 そして、もう1つの特典として、100名限定のファンの集いを開く。アンケート用紙に応募券を張り、イベントの参加者を募る。

 その当時の漫画家が勢ぞろい。『週刊少女ドリーム』は15年ぶりの復活。3ヶ月間限定で週刊そのものを復活する。


 宮本副編集長は、似たような考えを持っていた、描き下ろし読み切り集。確かに、アリスの企画は面白いが、果たして実現できるのか。


「滝沢さん、もしこの企画が実現したら、漫画家はどうやって選抜するつもり!?」

「選抜はしません。協力いただける方は、全員起用します」

「全員!?」

 全員起用とは、第1弾、第2弾、第3弾とやって行く方法を取る。これが可能であれば、参加する漫画家の人数によって決める。

 宮本副編集長は、なるほど、それもありかと思い。まるで企画会議のような雰囲気だった。


 夢先生の引き継ぎが終わり。アリスの企画書に少し訂正を加え、来週の企画会議に参加することになった。宮本副編集長は、やはりこの子は侮れないと思っていた。

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