関門突破

熟内 貴葉

関門突破

 X年。ゲンジモ家とへイラー家の長き争いがついぞ終わりを迎えた。しかし、また新たな争いの火種が起きようとしていた。

 アタク国の関守トゥーガスが番兵らに号令をかける。

「よいか。ヨトーリモ様曰く、ヨシッネ様含む家来は修道院に扮している可能性が極めて高いとのこと。なので、ここを通る修道院関係の者は、片っ端から調べろ」


 三日月の夜。

「トゥーガス様。怪しい修道士らが来ました」

 番兵の伝達にすぐさま、関所入り口まで足早に行く。

「ここの関守、トゥーガスである。何故ここを通るのか」

 その質問に、壮年半ばの先導者が答えた。

「私どもはノッティス教の布教をせんとする者です。私はベンス。この弟子たちと共に全国津々浦々と勧化をしております」

 見ると、3人の若い修道士と荷物を持つ女奴隷を後ろに連れていた。この夜に通るのは、実に怪しさを感じたトゥーガスはこんな問いかけをした。

「それなら、文書を持っているな。ここでは必ず読んでから通すことになっている」

「勧化文書をここで読めと申しますか?」

「そうだ。真ならばスラスラと読めるだろう」

「承知しました。少しお待ちを」

 そういうと、ベンスは荷物から丸められた羊皮紙を出し、高らかに読み始めた。

 淀みなく文書を読み終えたベンスに、更にトゥーガスは問い詰める。

「いくつかノッティス教の教えに質問してもよいかな?」

「ええ、いいですとも」

 ベンスはノッティス教には造詣が深いためさらさらと答える。

「まだ何かありますか。語ることはできても、全ての理解にはまだまだ私めも修行でありますゆえに」

「あぁ、疑って悪かった。少しの気持ちだ。おい、此方に」

 番兵の一人に取りに行かせ、銀貸の入った袋を渡した。

「おぉ、ありがとうございます。貴方様に神のご加護があらんことを」

 安堵した一行は関所を通ろうとした。その時、一人の番兵が女奴隷を指差し、言った。

「トゥーガス殿。あの女奴隷、ヨシッネ様に似てないですか?」

 一同、面には出ないが、ひやりとした。だが、ベンスは平然としている。

「何かありましたか。」

「いや、番兵がヨシッネ様に似ていると」

 そう言われると、ベンスはみるみる内に表情が暗くなった。

「お前のその顔が、あの方に似ていると。もたもたしているからだ早く通れ!」

 そういうと、女奴隷に頬を叩いた。関所の壁や森にまで響き渡る。

 流石のトゥーガスも、変装したとて、主人を叩くものはいるだろうか。

「もうよい。わかった、もう通れ」

「ありがとうございます。それでは」

 一行は礼をして、関所を無事通ることができた。

 少し進めて、ベンスが女奴隷に対して深々と頭を下げた。

「姫様、先程の無礼をお許しください。私めはどんな罰でも受けます」

「いいんです。ベン。この段取りを全てそなたに任せると言ったのは、私だから」

 こうして一行は、目的の地へと歩みを進めることができた。

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