第17話 光

第十七話 光

 

 

 アキラにあった才能は、魔法の才能だった。

 彼はそれまで魔力を扱う事をしてこなかったため、自分の脳が魔力を完全に扱えるという事を忘れ始めていた。そのため彼は今まで魔法を使えなかった。だが、魔力の扱い方の習得、強力な敵との戦い、味方の負傷。それを目の当たりにして、彼の脳は120%のポテンシャルを引き出すに至った。

 

 

(どうやってやったのかはわからない。)

 

 

(ただ夢中で魔力を脳で回した。そうしたら戦鎚が手に握られていた。)

 魔法を初めて使った時は誰もがそう感じる。ほぼ最初は無意識なのだ。

(やり方も使い方も能力もわからねえ!だが、今はこれでいい!)

 そうしてまだ壁に寄りかかっているマリアに戦鎚を振る。

「チッ!」

 なんとかしゃがんで避け、戦鎚は壁を破壊した。恐るべき破壊力だった。

 今の彼も一時的なゾーンに入っている。そのため脳の回転だけでなく、フィジカルも一時的に上昇している。

 マリアは再び魔法を発動させ、逃げる。もう回復は済んだようだ。

「ぐっ……。」

 アキラもそれを追おうとするが、戦鎚の重さでは上手く動けない。戦鎚の重さは大体3キロ程度ある。彼の出現させた戦鎚は2キロで軽い方だが、流石にこれを持って走るのは難しい。

「ダダッ!」

 シオンとユーリはそれを見て、一気にマリアを追う。

「お前はゆっくり来い!そうすればいいだろ?」

「……いや。」

 アキラが冷静に告げる。

「武器を変えよう。」

 すると戦鎚が急に消え、再び手には何もなくなる。

「これで自由だ。」

 その瞬間、アキラは地面を蹴り、すごいスピードで走り出す。

(元から速かったのにそれ以上に速くなった!)

[魔法覚醒の副次効果だろう。一時的に身体能力が上がる。]

 そのスピードは乗っている時のシオンを超えているだろう。そして、マリアはそれを見ると、ヤバイと思ったのかさらに加速した。

(慣らしは済んでいるのよ。)

 さっきので筋肉を慣らしていたマリアは先ほどのスピードで走る。だが、

(追いつく!)

 アキラがあっさり追いついて、並走している。

(こんなにも速いなんて……。)

 これにはマリアも驚いたようで、大きく目を見開いている。

(でも急には止まれないでしょ?私は止まれるけどね。)

 するとマリアは動きを急に変え、急に止まる。

「⁉︎」

 アキラも驚いて足を止めようとするが、スピードに乗っているので止まれない。

(逃げるのが不利なら……。)

 マリアは全身に力を入れ、龍鱗をさらに纏う。分厚くなった龍鱗は手にもあり、グローブのようになっている。

(腕の形は固定されちゃうけどいいよね。)

竜装ドラゴンシフト

 完全なる防御。龍鱗の隙間を極限まで埋め、かつ分厚く纏った状態。この状態ではほとんど動けない。なぜなら関節を龍鱗で固定してしまっているからだ。

(一回これで耐えて、カウンターで仕留める。)

 動きは既に決まっている。次、魔法を発動すれば自動的に相手にカウンターが飛ぶ。

(真っ向勝負する気か!)

 シオンは彼女の姿勢を見て察する。だが、依然アキラはトップスピードで走っている。

「アキラ!一旦止まれ!」

 シオンがそう呼びかけるがアキラは止まらない。それ以上に加速までしている。

「アレでぶつかったら砕けるぞ!やめろ!アキラ!」

 彼がこの高速で突っ込んだとしても、彼女にはダメージはない。逆に突っ込んだアキラがダメージを受けるだろう。そうなるのを防ぐために、彼には一つの作戦があった。

 最大スピードのまま、一気に近づく。

(やっぱりね。いいよ。来な。)

 相手はそうして魔法を発動させる。

体現インプット

 覚えた動きが組み合わさり、行動を開始する。だが、

(⁉︎空振り⁉︎)

 アキラはトップスピードのまま隣を通りすぎただけだった。

(動きを作ってるのはなんとなくわかってた。なら、それをズラして相手が混乱したところを狙う!)

 その作戦は、マリアの意表を突いた。

(背後から来る!急いで動きを変える!)

 途中で動きを改変し、その場から退こうとする。だが、

「ガキン!」

 龍鱗で関節を覆ったせいで、動きは鈍かった。

(今しかない!)

 トップスピードを維持したまま、マリアに近づき、すれ違いざまにマリアの頭蓋を攻撃した。ブシャッ、と頭から鮮血が出るのがわかった。そのままマリアは倒れる。

「やったか?」

 シオン達も身を乗り出し、その様子を見ていた。確かに頭蓋に重い一撃が入ったように見える。

「ぐっ……。」

 そう言ってアキラは膝をついて自分の殴った右手を見ている。

「大丈夫か⁉︎」

 ユーリが近づき、傷を見る。殴った右手が出血している。

「流石に……無茶だったかな……。」

「いや、でもこれで……。」

 そうシオンが言った時だった。

「ズドン!」

 急に攻撃が来る。

「別敵⁉︎」

 ユーリがそう叫ぶが、違う。

「!」

(まだ生きてんのかよ!)

 マリアは頭蓋が割れ、脳にダメージが入り、再生も上手くいっていない状態でも、これだけ動けている。通常であれば動きは明らかに低下する。最悪の場合即死だってあった。だが、そうはならない理由は一つ。

(生来の肉体の強度!素の体が異常に硬いんだ!)

 彼女が過去の苦しみから得た鋼の肉体。龍鱗があったからこそ気付かなかったが、本来のままでも十分な耐久性が彼女にはある。

(しかも脳が傷ついているはずなのに魔法を普通に使えてる。普通なら魔法どころか魔力操作さえままならないはずなのに……。)

「なんでここまで……。」

 シオンは流石に心が痛む。彼女は絶えず頭部から出血している。だが、こちらを見ている。どこか哀れむような眼差しだ。

 これ以上傷付ければ流石に死んでしまう。だが、これ以上傷つけたくない。せめて死ぬ時ぐらいは優しくしたかった。だって痛覚は人間と魔族、両方とも変わらないから。

「やらなくちゃ……。」

 マリアがボソッと呟く。

「やらなくちゃいけないんだ……。私がやらなくちゃ……。」

 呪文のように繰り返しそう言う。最早生死の境界を彷徨っているようだった。だが、眼だけはしっかりと命の炎を灯している。

(一体何がここまで彼女を苦しめている?なぜこんなことをする?)

 自分が死ぬまで自分達を攻撃する、その玉砕の心に彼は圧された。

(自らの命を捨てて、何を作るんだ?)

「君は……。」

 シオンが話しかける。

「何のために戦うのかい?」

「何の……ため?」

 マリアは言葉の意を介しかねるようだった。

「どうして君は戦うのって聞いてるんだよ。」

 こうして話している時にも出血は進んでいく。こうしていればいつかはこときれるだろう。

「……理由なんて要らない……。」

「そんなわけない。じゃないと自分の命を捨ててまで戦おうとなんてしないよ。」

 そうシオンは追求する。

「……自分の命なんて大切じゃない。」

 そう言ってマリアは斧を構えた。

「私はただ、自分のやる事をやり遂げる。それだけよ。」

体現インプット

 再び魔法を使う。その瞬間、頭から血が飛び出すように出血する。

(まだ……!)

 相手はユーリと武器を交える。だが、これだけの傷を負っても斧はブレなかった。

(やっぱり使ってるのは……!)

「天下無双流……!」

 ユーリは完全に理解した。この癖のない動き。間違いない。複数人の動きを合わせている……!

 剣術にはどうしても癖が出る。剣の流れや攻め方、突きの仕方や斬り上げ方などだ。だが、そういった特徴が全くない。だが、そんな事有り得るはずがない。それを可能にしているのは……、

「魔法でやってんだろ?これ。」

 ユーリが武器を押しつけながら言う。流石に力が入ってこなくなってきたらしく、相手が若干押され気味になってきた。

「すげえよ。ここまで癖なく運用できるの。多分君だけだと思う。」

 ユーリは冷静にそう告げる。

「でもね。」

 そこまで話した上で付け加える。

「個性がない剣術は、剣術じゃない。」

『天下無双流 天界てんかい!』

「ズバッ!」

 龍鱗も出血と一緒に剥がれていっており、ほとんど皮膚が露出していた。それを斬れないわけがない。

 斬られたマリアはドサッとその場に倒れ込み、下を向く。息が上がっているので、もう限界なのだろう。

「これ以上はいいだろ?もう充分やったと思うよ。」

 ユーリがそう言うと、残りの全員も近づいてきた。

「どうして……、どうして?」

 そう唱えている。

「どうして、って何?」

 急に口から出た質問に絶句するを得ない。

「そこからかよ。」

 アキラが冷静にツッコむが、相手は真剣そうだ。

「今まで私は、誰かのいいようにされるように生きてきた……。明日、生きてるかどうかさえわからなかった……。」

 黙ってうつむいたまま、それを聞く。

「でも、あの人だけは違ったの。」

 あの日、彼に出会って彼女は少しずつ変わった。

「大丈夫かい?親は?」

 まだ子供だった時だ。どこかわからない場所を彷徨っていた時、いきなり声をかけられた。でも、怖くはなかった。むしろ暖かいような気がした。

 彼に認めてもらいたい。褒められたい。いや、生きていていい補償が欲しかった。

「彼がいたから、ここまで生きてられた……。だから、彼のために死ぬまで戦うの……。ここまできてだけどね……。」

 彼女の口から発せられたのは嘘かもしれない。だが、信じないわけにもいかない気がした。

「……でもそれってオマエのためじゃないだろ?」

「自分のためだよ……そうじゃなかったらとっくに死んでる。」

「……。」

 聞けば聞くほど嫌になる。憎悪が湧いてくる。

「……オマエをこんなふうにさせたのは誰だ。」

 シオンが強い口調で問う。

「私だよ……。」

「そうじゃない。オマエを助けたのは誰かって聞いてるんだよ。」

 シオンが歩み寄って言う。

「それはちょっと……言えないなあ……。」

 彼女は問いに答えなかった。

(動ける時間ももうない……。でも……。)

体現インプット

 魔法を使い、その場から脱出する。

(まだ動けんのかよ!いい加減にしろよ?)

 逃げて加速を始めるマリアに対して、

「まだ俺が掴めてない。やらせてくれ。」

 そうしてアキラが走り出す。

(完全に殺る気かよ……。)

 人が変わったみたいだ、とシオンは思った。

(やっぱり追いかけてくる……、でも、肉体が硬くなったわけじゃない。)

 マリアはそうして迎撃体勢をとる。

(近づいてきた時に剣術を叩き込む。それで一人でももってく。)

 あの方のために……!

「真っ向からか……。いいだろう……、最高スピードでもう一度ぶち抜いてやる!」

 アキラも最大まで加速し、高速でマリアに突っ込む。

(技のタイミングを見誤ったら死ぬ……。動きはその場でアドリブでいく。)

 さっきのようなタイミングずらしを防ぐために、先に動きを作らず、その場に応じて動くことにする。

(今度は間違えない……、一人は……!)

 アキラはスピードを保ったままマリアの周りを走り回る。だが、全く動じない。

(揺さぶりは意味がないか……。だが好都合だ。)

 そうしてアキラはスピードを維持しながら近づいていく。

(これでぶち抜く。)

「いくぞ。」

 アキラがそう言うと、急に方向を変え、マリアに近づく。だが、これもブラフでマリアの横を通り過ぎた。

(やっぱり嘘か……。)

 そう思った。だが、

「時間だ。」

 アキラが短く言う。

「爆ぜろ。」

 まばゆい光が辺りに満ち、爆炎が吹き荒れた。

「……!」

 シオン達もその状況に驚いていた。

「なっ……。」

 完全に騙された。ここまできてだった。

 体が爆破に巻き込まれた影響で両手は吹き飛び、腹にも大火傷を負った。確実に死ぬだろう。

(すれ違っただけ、と見せかせて爆弾を放り投げていたのね……。)

 グラッと倒れかけるが、まだ倒れない。相手はゆっくりと振り向いてアキラを見る。

「……面白い魔法ね……。」

 そう言ってマリアは倒れた。

「ごめんな……。生かしておくわけにはいかねえんだ。」

 アキラはマリアに対して呟く。マリアは倒れたもののまだ生きており、彼の言葉を認識できていた。

「……。」

 マリアはこっちを見ているが、その眼の中には何もない。憎しみも殺意もなかった。

「ホントになんで戦ってたんだよ……。」

 シオンが言う。

「もう少し……別の生き方もあっただろう?」

「……わたしにはそれは……考えられないな……。」

 マリアはそう言う。

「人には皆、運命さだめって言うのがあるんだよ……。自分はこういうのだった、ただそれだけ……。」

 マリアは死ぬそうな声でそう言う。

「でも……。」

 そう言って、

「自分はこの世界で心の底から生きててよかったと、思えなかった……。」

 そう言って初めて後悔した。悲しみが湧いてきた。

「これから上に行くんでしょ?」

 マリアが問いかける。

「なら、こう伝えといて……。」

 彼の言葉が、問いが、彼女の心を溶かした。

「笑えたって伝えといて……。」

 そう言って笑うと、マリアはそのままこときれた。

「逝ったか……。」

 シオンが言う。この空気では何も言えなかった。

「……。」

 アキラも手を怪我しており、そちらを治すのに集中していた。

「じゃあ……行こうか……。」

 シオンがゆっくりと口を開く。

言伝ことづてもあるしね。」

 そう言って彼らはその場を後にした。彼女は既にチリとなって消えていた。残っていたのは斧だけだった……。

 

 

 魔王城の中は意外と閑散としていた。あっさりと一番上の階に行けたからだ。

「オマエが魔王か?」

 シオン達は玉座の間まできた。そこに居たのは……。

「その前に、だ。……ようこそ、魔王城へ。」

 玉座に座った魔族が言う。

「別にどうでもいい。どうせ今から全部壊すんだしさぁ。」

「言ってくれるじゃないか。」

 相手は手で頭を支えながらこっちを見ている。歴戦の魔族、といった感じがした。

「俺が魔王だ——」

 そう言う。

「コイツが……!」

 身長はそこまでない。160センチ程度のように見えた。

(魔力量もそこまでに見えるが?)

 力を抑えているのか、魔力はあまりないように見えた。

「と……。」

 相手が急に喋る。

「言いたいところなんだが、そうじゃない。」

 急に相手はそれまで言っていたことを全て否定する。

「今、魔王様は遠征に出かけられているんだ。だから代理としてね……。まあそう言うことさ。」

 腕を広げ、自分が正しいことをアピールする。

「それよりもなんだけど……。」

 相手は話題を変える。

「何か言ってた?」

「?」

 シオン達が質問の意味を理解しかねていると、

「ここにくるまでで竜魔族と殺りあっただろう?その子は死ぬ前に何か言い残したかと聞いているんだ。」

「ああ……。」

 シオンはさっきの魔族のことを言っているのだとすぐに気づいた。

「……笑えた、って言ってたよ。」

 その言葉を聞くと、相手は涙を流した。

「……、そうか。」

 短く言うと、急に短くうなずく。

「もう少し……長く生きて欲しかった……。」

 そう言う。

「彼女は幸せそうだったか?」

 再び質問を投げかける。

「……。」

 彼は黙っていた。

「……そうか……。」

 相手もその意味を汲み取り、彼に向き合った。

「少し、彼女の話をしてもいいか?」

 相手がそう言う。彼は黙ったため、いいと思ったようだ。

「彼女は貧民街の生まれだ。だからこそ酷い扱いをされていてな。」

 彼は二十年前の記憶を思い出す。

「親に売られて、その後も大変な思いをしただろう。名前も付けられていなかったしな。」

 彼は相当な扱いを受けていたことを知った。

「しかも最悪なことにね、捨てられて勇者パーティに殺されそうになっていた。」

 二十年前のあの日。嫌な雨だった。彼は急いで魔王城に戻ろうとしていた時だった。近くで魔族の気配を感じた。雨の降る音に混じって誰かの悲鳴が聞こえる。

「何処だ?」

 彼は周辺を探し回った。すると、すぐに見つけた。そこにいたのはまだ幼い竜魔族だった。年齢は3歳程度だろうか。それを勇者パーティが執拗に追いかけているのが見えた。

 彼は鋭くそいつらを睨むと、そいつらをすぐに殺した。

「……。」

 殺したやつの頭を踏み潰すと、彼女に近づいてこう言う。

「大丈夫かい?親は?」

 彼女はその時言語を話すということもできなかった。

 やるせなかった。だから引き取った。

 彼女は親の顔さえ覚えておらず、小さい時からそういう扱いを受けたからだろう。感情がなくなっていた。それだけではなく、生きたい欲、死にたい欲がなかった。奴隷として遣われていたからなんだろうな。

「俺は、なんとかして救ってやりたかった。生きる希望と、素晴らしさを見せたかった。普通の暮らしをさせたかった。」

 だから鍛錬を積ませた。自分に次ぐ力を持たせるために。

「彼女は戦闘センスは高くてね。十分の一秒でものを見たり、動いたりすることができていた。まあその理由は、虐待で親の攻撃を避けるために習得したからだろうけどな……。」

「だから……!」

 生来の肉体の耐久力が高い理由。それは言わずもがなの虐待だった。虐待で死ぬのを防ぐため、肉体が本能的に硬くなっていったのだ。心も巻き込んで。

「数年で魔法を獲得。それを活かした動きもできていた。才能では僕以上だよ。」

 相手はそう客観的に彼女の評価をつける。

「俺が何と言ってもそれを全て数週間、時には数日でこなすことが出来ていた。あと数年すれば俺の力を超えていてもおかしくなかった……。」

 そして、

「それと同時に俺に対して心を開いていってくれたんだ。これほどまでに嬉しいことはなかったよ。あとは感情さえ戻って、自己表現が出来れば……!ってところだったんだ。」

 相手の話すことは妙に惹きつけられた。これはなんだ?

「しかも自分のいったことをこなす、そうすれば褒められるということを繰り返したせいでいいのか悪いのか、彼女の中心が俺になってしまった。」

 そう告白する。

「最終的には全員にそういう態度をしてして欲しかったよ。……でもそうか……。笑えたのか……。」

 相手は涙を流している。

「もう少し長く生きていれば……新しい時代が見れたと言うのに……!」

 相手は後悔するように言う。だが、シオンはそれを遮る一言を発する。

「思い上がるなよ。彼女が死んだのはオマエのせいだ。」

 相手の涙が消え、こちらを睨み付ける。

「オマエが最初から加勢していれば彼女が死ぬことはなかった。」

 それは自分が死ぬことを意味するがな。

「オマエはアイツを見殺しにしたんだ。それで泣くなんてあまりに勝手じゃないか?」

 シオンの言葉は憤りから出た言葉かもしれない。だが、確実に物事の的を得ていた。

「……、そう言う割には殺すんだな。」

 相手も反論する。

「かわいそうと感じたのなら助ければ良かったじゃないか。そこの幽霊ゴーストみたいに。」

「!」

 ソウヤは隠れていたが、感知されていた。元から感知はしにくいはずなのに。

「不愉快だな。」

 相手はそう言って立ち上がる。その時だ。彼らは感じた。いや、本能的に察知した。コイツはやべえと。

(魔力が急に上がった!今まで抑えていたのか……。)

「オマエは彼女が死んだのは俺のせいだと言ったな。それはオマエもおあいこだ。自分の罪から逃げようとしてんじゃねえよ。」

 そう言って着ていたマントを脱ぎ捨てる。

「オマエはどうすんだ?」

 シオンがきくと、こう言う。

「オマエを殺す。敵討ちってやつだ。それが俺からのできることだ。」

 そう言って足を踏み出す。強大な魔力量のせいか、一歩踏み出すと、床にヒビが入った。

「そして弔うさ。祝福も兼ねてな。」

 そうして彼らは向かい合う。

「オマエはきっと後悔する。そう断言してやろう。オマエはきっとこの会話をしたこと自体が間違いだったと。そして、彼女にあの世で謝るがいい。」

 そうして指を鳴らす。

「一応言うておくぞ。俺の名はハルト。」

「ハルト……。何処かで聞いたことあるような……。」

 そうシオンが考えていると相手はこう続ける。

「巷でなんて呼ばれてるか、知ってるか?」

 この構文が出るのは二度目だ。そしてその答えは——

 

 

「勇者キラーだ。」

 勇者を殺す専用の刃が彼らに向けられた。その言葉に嘘はない。

「いいさ。オマエが誰でも。俺らは全力でオマエを殺すだけだ!」

 そう言ってシオン達は武器を出す。

「もう一度忠告しておく。」

 そう言って拳に力を入れる。血管がビキビキと浮かび上がった。

「後悔はするなよ。」

 彼らの運命は。そして気になる勇者キラーの実力と、魔王の正体とは——

 

 

補足 マリアの時代年表(賢者調べ)

 

 

 多分分かりにくかったと思うため、解説を入れますね。

 

 

二十三年前 生まれる。種族は竜魔族で、紅竜の血統。

 

0〜2歳  親から虐待を受ける。その影響で感情をなくし、生きる希望も失う。

 

3歳頃   親から身を売られ、奴隷として過ごす。その後その場所から逃げ出し勇者に殺されそうになるが、ハルトが救う。その後ハルトの元で暮らすことになる。

      

6歳頃   魔法“体現インプット”を獲得。この時点で体術はトップクラス。

12歳頃  徐々にハルトに心を開き、尊敬するようになる。さらに従順になる。それによってハルトが取り立てて、ハルトの配下に置かれる。

      

13歳〜  ハルトと共に前線で活躍。勇者討伐数はハルトよりも少し下。だが、実力は十分。無屋の荒地で主に戦う(ホウタのいた位置)。

 

15歳頃  他の人に対しても心を開き始める。人前で話すことが苦ではなくなる。既に周りからはハルトの力を継ぐ者と言われ、勇者キラーの称号の継承者となる。

 

17歳頃  感情が一部戻る。だが心の底からの感情ではない。

 

23歳頃  シオン達に討伐される。だが、人間からの言葉で完全に感情を取り戻す。


 多分作中1悲惨な人生です。書いてて悲しかったです……涙。

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