朝食
行商人の朝は早く…はない。いつもだいたい7時半くらいに起きる。睡眠は大事だ。何をするにもまずは睡眠を取らないとやる気がまったく出ない。生活の中で大切なこと第一は睡眠である。第二はもちろん食事。
ここノースランドの食事はかなり美味しい。なんせ元貴族お抱えシェフ、リーンが料理担当をしているからだ。彼ももちろん揉め事を外で起こしてしまった人物だ。自分の料理にケチを付けた貴族に向かって料理をぶちまけてしまったのだ。
その後貴族は怒りに怒り、リーンを死刑にしようとしたがアスターが匿うことになった。彼も互助会の設立メンバーであり、私も小さい頃からお世話になっている。
気難しい性格だが一度気に入られるとかなりおせっかいを焼いてくれる良い人物だ。
私は寝ぼけた頭でなんとか階段を降りる。時刻が朝なのもあって飲み屋には人が見られない。私はがら空きの飲み屋のカウンターに座った。すると厨房から出てきたリーンが話しかけてくる。
「メル、久しぶりだな。腹減ってるだろ」
「もうお腹空き過ぎて死にそう…」
「よっしゃ!腕によりをかけて作ってやる」
ちなみに言うと私はここでの食事にお金を払う必要がない。なんせ長の娘だから。特権はじゃんじゃん利用していくのが私だ。
暫く待って出てきたのは厚切りベーコンに目玉焼き、それに湯でじゃがいもだ。朝食にしてはなかなかの量であるが私はそれらが放つ誘惑的な香りに耐えきれなくなり、勢いよくがっつく。
「まったく、女の子何だからもっと落ち着いて食べたほうがいいぞ?」
「別にいいでしょ」
必死にがっつく私をみてケタケタ笑っているリーンに若干ムカつきはしたが、何よりも目の前の食事が優先順位NO.1の事項なのだ。厨房へ戻っていったリーンへの苦情は後で言うことにして幸せな食事を続けることにした。
しばらくすると背後から人影が迫ってくる。歩くたびに防具と武器同士のぶつかる音が聞こえた。おそらく冒険者の一人だろう。そんなことを考えているうちにも人影はどんどんと迫ってくる。
「おいおい、新人か?呑気なもんだな。朝からチンタラ飯食って」
ん?私を知らない人がいるってことは外の人かな?朝っぱらから突っかかってきたってことは余程暇で空気の読めない奴らしい。私のことを知らないとは。どれ、どんな顔か見てやろう。
私は左手に蒸かした芋を持ちながらカウンターの椅子を回転させる。
(何だ、子供か)
そこにいたのは12歳くらいのガキンチョだった。
(お前の方が新人くんだろ。一丁前にメイスなんかぶら下げちゃって、身長と合ってないぞ)
私が生暖かい目線を向ける。
「な、何だよその目は!後その態度!おれの話を飯食いながら聞くなんて舐めやがって!」
少年は私に掴みかからんと一目散に走ってくる。舐めてもらっちゃあ困るな。これでも行商人として1人でやっていけるくらいには訓練をしているのだ。
私は掴みかかってくる少年を躱し、首根っこを掴んで床に放り投げた。
その後は彼の上に座りマウントポジションを取る。男と言えどまだ子供に負けるほど私は鈍ってはいない。余裕の表情で蒸かし芋に齧り付いていると、少年は悔しそうな顔を浮かべていた。
「おいおい、大人気ないぞ、もっと気を遣ってやれ」
どうやら騒ぎに気付いたリーンが戻って見に来たらしい。まったくもって心外だ。
「私は売られた喧嘩を買っただけだし」
「それにしたってやり方があるだろ、優しく諌めるとか」
生憎私は人を舐めている子供があまり好きではない。幼少期の私もそんな気があったから同族嫌悪なのだろうか。
(ふぅ、食ったっ食った)
何がともあれリーンの朝食の残りは喧嘩中に片手間で食べてしまった。かなりの量の料理が乗っていた皿には今はもう何一つ残っていない。リーンは何だか不満そうにに皿を片付けに奥へと言ってしまった。
「ううっ、重いぞっ!どけ!」
「女の子に重いなんてひどいガ…子供だな」
「今ガキって言いかけたな!舐めやがって…」
うっかり存在を忘れていた子供にポカポカとお腹を殴られる。こいつ負けてもブレないやつだな。めんどくさいタイプだ。
もうこれ以上乗っていると本気で暴れ出すかもしれないので渋々私は立ち上がる。すると少年はすぐに私から距離を取り、
「覚えろよ!食い意地張りの化け物め!」
なんて脇役顔負けの台詞を吐いて逃げていってしまった。あの生意気な奴のせいでノースランドがもっと居辛い環境になってしまった。
朝からそんなことを考えているとテンションが下がってしまう。何だか元気の無くなった私は寝室で二度寝を決め込んでやろうと決心した。
私は気怠げな足取りで自室へと向かう
2階の寝室へ戻ると中には親父が!
いやなんで?
冷静に考えよう。私の寝室へ行く道は飲み屋の階段からしかない。そしてあそこから入ってきた人物は生意気な子供だけ、
あー分かった。窓から入ってきたんだ。
いやなんで?
とにかくまずは理由と目的だ。
「何で窓から入ってくるの?」
「楽だし」
決して楽ではないが、彼は一般人と感覚がずれている。まあ互助会なんてよくわからない組織を立ち上げているのだ。まともな人間ではないだろう。
というか娘といえど勝手に部屋に入るのは如何なものなのだろうか。しかしこういう風なことは過去に何度もあったため私は殆ど気にしないようになってしまった。慣れとは恐ろしいものである。
「で、何でいるの」
私は当然のことを尋ねる。
「そりゃ最近うちに来たガキが酒場から逃げるように出てきたからな、どうせお前だと思ってよ」
(あいつ大人に泣きつくとは、卑怯なり)
「まあ、あんまりいじめてやるんじゃねえぞ、とにかく外に出てこい、訓練だ」
なんだ、どやされるのかと思ったが、案外あっさりすんでしまった。
(アスターも年取って丸くなったな)
「今なんか余計なこと考えてなかったか?」
「いや?」(あぶなー)
なんとか窮地は抜けられたが二度寝大作戦はアスターによって失敗を迎えてしまう。私は渋々自室から外に出た。帰って早々に訓練を受けることになってしまうなんて運が悪すぎるよ。
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