デジタル時計は正確に
朝香るか
序章
第1話進む時計
カチコチと刻む秒針。
遅れもなく正確に刻んでいる。
あと何時間正確に時を刻んでいることだろう。
数時間先のことなど誰もわからない。
☆☆☆
「本当にここが宿であっているんですか、先生」
合っている。取材先はレトロな宿として有名だ。
雪がチラホラと舞う中でも、太陽が出ているうちは温かいだろう。できれば太陽が出ているうちに今夜の宿に入りたいところだ。
男2人組は郊外にひっそりとたたずんでいる宿と思しき家の前にいた。
看板はない。外してしまっている。近々閉店する気なのかもしれない。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか」
返答はない。ウェブサイトにはあったはずの看板すらない。さらに規模を縮小したのだろうか。
「休みなのかな?」
「定休日ではないハズなんだが」
「突発的な休みなんじゃないですか」
「そうなのかなぁ」
編集部のチーフと文筆業の先生は困惑している。
それもそのはず。きちんとアポイントメントをとって予約を入れている。
旅行した先で、こんなことは初めてで戸惑う。
地元の人に聞いてみるしかなさそうだ。
「この宿の店主さんは今日はお休みなんですか?」
「今日はって……半年ぐらい前に廃業したはずさ。税金の流れが複雑になったからって」
「半年前?」
「ああ、そうさ。なんだい?知らなかったのか」
「いや、一週間前に予約を」
「馬鹿言っているんじゃないよ。もうネットだって閉めたって言っていたし看板だって下ろしているのに」
「そんな」
「じゃあ、偽サイトに引っかかったのか」
「まさか」
現役の編集者がまさかサイトを見間違えるはずはない。
「とにかく今日泊まる場所を確保しませんと」
「今日は休日だからこれからこむからねぇ。さっさと探した方がいいよ」
「わかりました」
ネットで探すが、いい場所が出ない。
「ここから30分かかりますが、よろしいですか?」
「ああ。いいぞ。」
「予約しました。寒いですね。さっさと向かいましょう」
「ああ」
しかし納得のいかない先生だ。
「きちんと画面をスクリーンショットしてあるんだろ?」
「ええ。しっかりと予約もしましたし、お金も振り込みました」
「これあってますよね?」といわれ、確認してきたのはスクリーンショットの画面。
「ああ。サイト名もしっかりしているし、振り込みも完了しているんだが」
「ですよね。見間違いなんかじゃないですけれど」
詳細を確認したい気持ちはあるものの、スマホの充電があと少しだ。
「無事に宿にたどり着けたら充電しますので」
「ああ。バスが早く来ればいいな」
日が暮れ始めている。もうすぐバスが来るはずだが、まだ来ない。
「遅れているみたいですねぇ」
バス停で待つご婦人からそんな言葉をもらった。
「そうですか。いつもこんな感じでしょうか」
「そうだねぇ。雪も強く降りはじめただろ。渋滞もすごいだろうし、私らにできることは待つだけだよ」
「そうですね」
編集者は貧乏ゆすりを辞めた。
チラホラと降っている雪はだんだんと強さをましている。待っている間にたちまち積もってしまった。まだまだ高く積もりそうだ。これは早く雪かきをしないと埋もれてしまうだろう。
「本当に来ますか」
「まだ来ないね」
「あ、来た」
「都行きだね」
「やっと暖かい場所へ行けますね」
「だな」
重い荷物を背負ってやってきたから動くのも重労働だ。
「お客さん、10円足りないよ」
「えっ。すみません」
チャリン。小銭がほとんどない中、何とかあってよかった。ぴったりだ。
暖かい車内にほっとする。それでも不安は募る。
「今度はきちんと予約できているんだろうな」
「今度は大丈夫かと」
大手の予約サイトから飛んで予約したんだ。これで間違いがあってはたまらない。
寒さに震えながら、新しく予約した宿へと向かった。
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