爆笑! 危機一髪三連発!

楠秋生

危機回避?

 お弁当を食べ終わった後のおしゃべりタイム。みんなの話題はあっちこっちにとびまわる。陽菜子はそれをぼんやり聞いているのが好きだ。

「頼りないのは嫌だな」

 しっかりものの綾乃が、ひろげた雑誌の『彼氏にしたい男ランキング』の9番目を指先でとんとんと指した。さらりとした黒髪をすっと耳にかける。

「なんでもできる綾乃も彼氏には頼りたい願望があるんだぁ。じゃあ年上の方がいいの?」

 麻紀がゆるくカールした髪の先を指でくるくるいじりながら、雑誌のランキングから目を上げた。

「年齢は関係ないよ。年上でもダメダメな人もいるし、同じ年でも頼りがいのあるきちんとした人もいるでしょ」

「へえ。私は年下でかわいがってあげる方がいいなぁ」

 背も低くて童顔の麻紀は一番甘えたがりのように見えるのに、実はかなり面倒見がいい。

「いつもしっかりしてる人って、生真面目すぎて疲れそうじゃない?」

「そうそう。あたしはかたっくるしいのはいやだな。普段は頼りなかったりぼやっとしてたりしても、いざというときに危機回避できる男がいいよ」

 握力を鍛えるためにボールをにぎにぎしながら朱里が口をはさむ。

「いや、朱里は自分で危機回避できるでしょう」

 麻紀がつっこむ。剣道部でスポーツ万能の朱里は、運動音痴の陽菜子をいつも助けてくれる。

 それで陽菜子は? と三人が陽菜子に視線を送ってきたとき、隣のグループで騒いでいた祐輔が、椅子をぐ~っと後ろに倒して二本足でバランスをとった状態で手をあげ割りこんできた。

「オレオレ! オレ、危機回避得意だよ!」

 聞き耳立ててるのかというくらい、祐輔は四人のおしゃべりによくつっこんでくる。三人のうち誰かがお目当てなんだろうと思うと陽菜子の胸がちくりと痛む。

「危機回避が得意ってなんでわかるのよ。そういうのって何かあったときにはじめてわかるもんでしょ」

 優芽があきれ顔で返す。お調子者の祐輔に優芽はいつも辛辣だ。

「いやオレ、今までにもなんども危機一髪のところで難を回避してるんだ」

 三人が目を見合わせて、それから陽菜子に視線をうつした。陽菜子と祐輔は同じ小中学出身の幼馴染だからだ。陽菜子は思わず首を振る。

「知らないよ。私は」

「はいはい、じゃあその今までの危機回避を教えてみて」

 優芽の言葉に、祐輔がぐるりと椅子の向きを変えて四人の輪に加わる。麻紀と朱里も面白そうににやにや笑って、祐輔が輪に入れるように椅子をずらした。

 陽菜子は祐輔の危機回避を思い出そうと腕組みして考えてみたけど、思い浮かばなかった。そんな事件とか事故とかにいつの間にあったんだろう?

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