危なかった、助かった!(完結済み短編)

優摘

危なかった、助かった!

<マリッセ・オーファの話>


(危なかったぁ・・・。ほんと助かったぁ!)


私はペンを置きながら、大きく息を吐いた。


私の名前はマリッセ・オーファ。

今日、今年になってこの国に新設された、魔術学校の入学試験を受けに来た。

有難い事に、この学校は貴族、平民、奴隷でも、そして年齢、性別に関わらず能力があれば入学できるのだ。

しかも費用はかからないし、学校指定のバイトをすればお金だって貰える。


これは目指さずにはいられないでは無いか!


実技や魔力には自信があった。

何せ、日々魔術を使って狩りをし、家族の生計を助けて来たのだから。


(問題は学科だったのよねぇ・・・)


私は辺境近くの村の平民。

学校なんて言った事無く、もちろん読み書きなど出来なかった。

だから私は魔術学校の設立を知った時から、わき目も振らず勉強してきた。

読み書きは隣村の神父様に教わった。

そしてそのまた隣村にまで行って、嘘か誠か分からないけど元魔術騎士だったというキースお爺さんに算学を教わった。


―――算学は魔術の基礎を理解するのに必要じゃ


お爺さんはいつもそう言ってたけど、私は算学が壊滅的に苦手だったのだ。

私は必死で勉強した。

どうしても出来ない問題は、丸ごと覚える様にした。

それでも、とことん相性が悪いのか、知らない問題には太刀打ちできない。


「やっばい!どうしよう!?」


落ちるなら算学のせいだと思っていた。


だけど試験当日、試験の為に王都にやってきた私は、算学の問題を見て驚いた。


(知ってる・・・全部知ってる!)


その問題は、お爺さんの所で出された問題と、全く同じだったのだ。


―――儂は昔、王都で魔術の講師もやっていたのじゃ。


噓じゃ無かったんだね、お爺さん!


私は無事に試験に合格し、魔術学校に入学する事ができたのだ。

入学できた人数はたった30人。

私はその少数精鋭達と共に、ホラリー先生という素晴らしい指導者の元で魔術を習う事が出来た。おかげで魔術の腕は学園トップ。私は将来を期待される、魔術騎士候補になった。

バイトのおかげで家族に仕送りも出来ている。


「このまま実力を付けて、将来は国の魔術騎士になって働くぞ!」


あの日、決めた目標に向かって頑張ったおかげで、私は素晴らしい日々を手に入れたのだ。




<魔術学校講師セルヴィス・ホラリーの話>


(危なかった・・・。マジ助かった!)


私の名前はセルヴィス・ホラリー

この国に新設された魔術学校の専属講師だ。

この新しい魔術学校は、国王の指揮の元、鳴り物入りで作られた期待の学校だ。

将来この国の守りの要となる魔術騎士を育てる為の、重要な機関なのだ。


(なのに、試験問題が盗まれるとは・・・)


予め作成していた試験問題が、どこからか流出してしまったのだ。

どうやら学校に入学したい貴族の息子が、家の間諜を使ったらしい。


「全く、何を考えてるんだ!」


それが分かったのは試験の前日

私は慌てて、徹夜で試験問題を全て作り直した。

だけど算学の問題に取り掛かった頃には、もう時間が無かった。


「ど、どうすれば・・・」


その時、思い出したのだ。昔、私の先生だった人が作った手書きの問題集があった事を!


(これだ!)


私は彼の作った問題をいくつかピックアップし、試験問題にさせて貰った。

おかげで試験は滞り無く終わり、私の元には優秀な生徒30人が集まった。

いずれも才能豊かな者達で、指導していてとても楽しい。


特にマリッセ・オーファと言う、辺境から来た女生徒はとても優秀で、私の教える事をどんどん吸収していく。


不思議なのは、彼女は試験では算学が満点だったのに、授業ではとても苦手そうにしている事だ。


本人曰く試験では、たまたま知っている問題が出たそうだが・・・。

まぁ、運も実力の内と言う事だろう。



学校が作られてから、3年経った頃、隣国の動向がきな臭くなった。どうも、我が国に攻め入ろうとしているらしい。


私は自分の生徒達に言った。


「君達はこの3年間、私の厳しい指導の中で、たゆまぬ努力をしてきた!君達はもう立派な魔術騎士だ!この国を守る為、力を貸してくれ!」


「先生!」

「もちろんです!」

「頑張りましょう!」


私は魔術騎士団の副団長に就任し、この国を守る為、教え子達を率いて国境へと向かった。



<国王アンドレア・カリオセイロの話>


(危なかった・・・。本当に助かった)


私はこの国に国王、アンドレア・カリオセイロだ。


先日、怪しげな動向をしていた隣国が、とうとう我が国に攻め入って来た。

だが我が国が誇る魔術騎士団のおかげで、大きな被害を出す事も無く、隣国を退かせることが出来たのだ。


特に、副団長であるセルヴィス・ホラリーと、その部下であるマリッセ・オーファの働きは素晴らしかったと言う。


2人は3年前に新設した魔術学校の講師と生徒だった。


(ありがたい・・・彼の助言を受けて、新しい魔術学校を作って置いて良かった)


剣騎士や、魔術騎士を育てる学校は、この国には昔から存在している。それらは国を守る人材を育てる、大事な機関だ。


だがいまや、ほとんどが貴族の子女の為の、ただの社交場になってしまっていた。彼らはいたずらに剣を振り回したり、ロクに使えない魔術を自慢するばかりで、当然、国を守る人材の質は落ちていった。


このままではいけないと思っていた。


するとある日、1人の男が私を訪ねてきたのだ。

彼は祖父王の時代、この国を守ってくれていた魔術騎士団の団長だった男で、キース・ネイロンという男だ。


彼はいきなり私に面会を申し込むと、ある事を進言した。


「陛下、身分や出自を問わない学校を新設して下さい。この国には、貴族以外に優秀な人間が沢山いるのです。彼らを育てる事で、この国は守られ、さらなる発展を遂げる事が出来るでしょう」


私は彼の提案を受け入れる事にした。

家臣の中にはその事に反対する者もいた。貴族が侮られるのでは無いかと思ったのだろう。


だけど私は、この国を守る為に学校の新設を押し切った。

結果、その判断は正しかった。

魔術学校の卒業生達は、この戦いで目覚ましい活躍を見せてくれたのだ。


「ふふふ、感謝するぞ、キース・ネイロン」


さて、今度は新しい騎士学校の設立の計画を立てよう。出自や経歴を問わない優秀な人材が集まる学校を。




<元魔術騎士キース・ネイロンの話>


(危なかったな・・・。助かって良かった)


儂の名前はキース・ネイロン


辺境近くの村に住む、ただの隠居じいさんだ。


この間、隣国がこの国に攻め込んできたが、危うい所で助かった。

それはこの国の魔術騎士団のおかげだ。

精鋭揃いの魔術騎士達のおかげで、たいした被害も無く、隣国を撤退させたと聞く。


(命がけだったが、国王に進言して良かった)


3年前、儂は王に新しい学校を作る事を提案した。引退した元魔術騎士の言う事など、聞き入れてくれるかどうか賭けだったが、どうやらこの国の新王は暗愚では無いようだ。


数年前から、隣国がこの国を狙っているという情報は、かつての仲間や教え子達から伝わってきていた。


儂の住んでいるこの村は、隣国との国境に近い。

戦乱になれば、真っ先に巻き込まれるだろう。

引退してから長く世話になっているこの村を、戦禍に巻き込ませるわけにはいかないと思ったのだ。


戦いでは、どうやら儂の元生徒達が活躍したらしい。

セルヴィスは年若いうちから才能を開花させた、一番優秀な生徒だった。マリッセに教えたのは算学だけだったが、彼女も素晴らしい魔術の素質を持っていた。

今頃どうしているのやら・・・


コーヒーでも入れようと、椅子から立った時だった。


コンコン


家の扉がノックされた。

はて、こんな田舎まで、誰が訪ねて来たのやら?


「先生、ご無沙汰してます!」

「キースお爺さん、お元気?」


そこには、かつての教え子である、セルヴィスとマリッセの姿があった。


「実は、そのう・・・私達、結婚する事になりまして・・・」


「私達二人とも、お爺さんのおかげで危ないところを助かった事があったの。だから二人でお礼がてら報告にきたのよ」


2人の眩しい笑顔に、儂は目を細めた。


この、ただ生き永らえているだけの老いぼれも、どうやら少しは世の中の役に立っているらしい。


「さぁ、そんなとこに立っていないで入っておくれ」


儂は温かい気持ちで、二人を部屋に招いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

危なかった、助かった!(完結済み短編) 優摘 @yutsumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ