第20話三つの反応
入り組んだこの森で初見で立ち回るのは困難を極める。どうあがいてもこの森の深さに飲まれてしまうのだ。必然的に隠れるところも絞られてくる。
潜伏機能で周りと同化したパーカーはスコープを覗き込む。手にしたマルオレフは彼女といくつもの戦地をともにした相棒。その威力は相手を一撃で沈めることができる。
信頼できる相棒を手にパーカーは無線に応答する。
『見つかったか』
「まだ。…でも大体ここ辺りだと…あ、見つけた。三時の方向、木の影にいる」
パーカーの数キロに及ぶ周辺察知が獲物を捉える。が、一つと思われた反応の直ぐ側にもう一つの反応が発生する。
(…?反応が二つ?まさか身代わり 《ダミー》…いや、アテナにはそんな機能は存在してない。他のプレイヤーか?…にしては動きがなさすぎる)
『どうした。なにか問題でもあったか』
「…反応が二つある。どういうわけだか分からないけど、あの子からも反応を感じるんだ」
不可解な現象にパーカーは困惑していた。獲物は人間と機械人形。反応は一つだけのはずなのだ。
機能の故障というわけでもない。反応はたしかに二つ存在していた。
『何…?どちらか特定できないのか?』
「…そこまで正確にはできないかも。でも、アテナと同等の反応を示してる。脅威には他ならないよ」
『そうか。到着までは少し時間がかかる…どちらを狙う?』
パーカーは思考プログラムを起動させる。もう少し待つという手もあるが、獲物が止まっている今、狙う絶好のチャンスだ。
グレイはまだ狙うことはできない。確率は二分の一。
「…右を狙う。追撃は任せたよ」
『分かった。一撃で仕留めろ』
パーカーは照準を木の裏に隠れている獲物に合わせた。都合のいいことに、ここは風が吹かない。偏差も弾速の低下によるものだけを考えれば良い。
「狙撃モード、展開。…行くぞマルオレフ」
相棒にそう声をかけたパーカーは引き金に指をかける。獲物を逃さぬよう、狙うのは頭だ。
「…外さない」
照準、偏差共に合ったその時だった。
パーカーの周辺探知に更にもう一つ。狙ったほうの獲物に寄り添うようにして反応が現れる。
新たに現れたその反応を感じ取ったパーカーの腕が一瞬緩む。それは予想外の上に重なった予想外、
あまりに強いその反応は
「なっ…!?」
測ったかのようなタイミングで発動した妨害がパーカーのわずかに手を緩める。
数センチ、パーカーの照準がズレた。マルオレフの銃口から放たれた弾丸は森林を破壊しながら一直線に飛んでいく。
一帯の地形を破壊しながら着弾した弾丸は狙いから外れていた。
パーカーはすぐさま周辺探知を起動する。離れていく反応は一つも減ってはいなかった。
焦るように耳につけた無線端末を起動する。
「獲物が逃げてる、グレイ追撃を…」
『ちょうどついたところだ』
無線越しに数発、発砲音が耳を打った。グレイが追撃をお見舞いしているのだろう。そう願ってパーカーは返答を待つ。
森に鳴り響く鈍い金属音。程なくして、グレイは再び無線に答えた。
『…弾かれたな』
「…ごめん」
パーカーは静まり返った森の中で一人うつむく。思考プログラムを起動させ、先程の戦闘の情報を整理していく。
(さっきの反応…まるで私が撃つまで狙ってたみたいだった。それにこの距離での妨害…並の機械人形じゃできない芸当だ。でも確かにこの階層には私達とアテナ達しかしない筈…)
『まぁいい。…しかし、らしくないな』
「…撃つ直前で反応がもう一つ増えたんだ。かなり獲物に近いところで。しかも妨害電波を放ってた。この距離で、だよ?」
『ほう?二つの核、か。なんとも不思議な話だな』
グレイもこの奇怪な現象に少し驚いてるようだった。
まるで狙ったかのような妨害はパーカーの手元を狂わせ、ユウヤ達を救った。何十という戦闘をここで繰り返してきたパーカーでもこんな状況は初めてだった。
パーカーは再びマルオレフを担ぐと、周辺探知を起動する。
『次はどうする。追いかけるなら今のうちだぞ』
「…行って確かめるしかないでしょ」
パーカーはフードを深くかぶり、森の中を駆け出した。
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