虚弱な国王様が溺愛するは素行不良なWitch様

ひつじとうさぎ

モノローグ

リム・スターライン

 幼い頃の記憶なんて殆ど無いけれど、昔誰かに聞いた物話は一つだけ覚えている。



 この国の最初の王様は、魔女と恋におちたんだって。


 だけど、魔女なんて物珍しい存在が、国に歓迎される筈もなく。

 結局王様は、富豊かな国のお姫様をお妃に迎えて。

捨てられた魔女は、ずっと遠くの森の外れの、誰も見向きもしない様な古びた館に囚われた。

 

 一度、人間に心を奪われた魔女にはもう、そこから逃げ出せるほどの力は残っていない。

 己と彼そして国民への、口惜しさ憎しみ孤独が、彼女の心身を蝕んだ。


 憎い国王とその親族、そしてこの国が、未来永劫不幸である事を望んで、魔女はその生涯を閉じた。



 ……なんて、幼い娘っ子に聞かせるにはとても夢のない萎びたおとぎ話。


 あれは、誰の語りだったかしら。


「親」なんて存在は幼い頃の記憶には殆ど残っていない。

けれど、世の中の幼子達は大抵、母親から物語を聞かせてもらうものなんでしょう?

 だとしたら、この萎びた物語を聞かせた人が、私の親だったのかしら。


 母親は、相当いい加減だったみたい。

何かを食べさせてもらった事も、世話を焼いてもらった事も、他に全く記憶に無いんだもの。

 更には唯一の思い出であるその物語も、まるでいい加減。

 いざ大きくなって森を越えてみれば、聞く話は大きくかけ離れた物だったなんて。


 この国で語り継がれる正式な物語は

国の支配を企てる悪い魔女に魅入られた青年が、森の精霊の加護に助けられ、国を守って王になった。

という英雄伝。


 成程、確かにこの国では大きく広がる美しい森が神聖化されている。

 豊かな資源のおかげで、小さい国ながらも美味しい食べ物、穏やかな暮らしに恵まれ、それを皆、森のご加護だと感謝して日々を過ごす。


 一歩、森の外側に出てしまえば、私みたいな不遇な孤児達も暮らしているというのに

それはあまり気にする話では無いようね。


 どちらが本当かどちらも嘘か、特段気にはしないけれど、私は、幼い頃聞いた物語の方が好きだわ。


 不遇な魔女が私みたいに思えたもの。

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