その夏、僕は見てはいけないものを見て、味わってはいけないものを味わった

秋色

プロローグ 

土曜の午後、自分の部屋の窓から下の道を見下ろす。いつものように路上には、人一人いない。初夏の陽射しの中に白い道が広々と、はるか先に横切る国道まで続いている。そこに一つの人影が、路地を抜け、不意に現れた。


 そのブラブラと歩く姿を見れば、遠くからでも誰だか分かる。同級生の北村雫だ。みんなから距離を置かれている女の子。オートミールみたいな色のパーカーと裾の広がったスカートという姿で歩いている。

 みんなから距離を置かれていると言っても、別に虐められているわけではない。同じ高一なのに、何才か年上のように見えるから。そして雫の環境が特殊だとみんなの噂になっているから。

 そう、距離を置くも置かないも、僕達皆の間にはもうすでに、距離が大きく空いていた。そして誰かを虐める程、誰かの近くに寄ったりする人もクラスにはいない。

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