第13話 12日目 リゾートクラブ7日目

トラベル小説


 水曜日、リゾートクラブでの実質的な最終日である。昨日、ドライブをしたので今朝のドライブはなしとした。一人で散歩がてらパターゴルフをまわる。先日、家族に負けた最終ホールでホールインワンをするまで粘った。なかなかうまくいかなかったが、15回目にコトッとホールに入った。うまくいってホッとした。

 部屋にもどるとちょうど子どもたちが起きたところであった。妻にコーヒーを渡し、ご機嫌伺いをする。目覚めはいいようだ。子どもたちも体調はいいらしい。

「パパ、今日のダイビングマッチ必ず見にきてね」

 と圭祐が言うと、祐実も

「わたしもがんばるからね」

 と言う。キッズクラブで一番のちびっこなのにである。


 朝食は、オーソドックスなものであった。目玉やきとやきそばがホットメニューにあった。顔なじみの日本人シェフが忙しそうに目玉焼きを作っている。子どもたちが

「いつもありがとう」

 と言うと、ニコッと笑みを返してくれた。


 午前中のキッズクラブは水中遊びとダイビング練習。3mの深さで練習である。私も防水カメラで潜る。子どもたちは器用に足ヒレを動かし、水中を泳いでいる。2つの目標物のリングがあって、それをもってくることができると合格ということだ。潜るのはおもりがあるので、素潜りよりは簡単なようだ。でも、横に行くには足ヒレを使って泳がなければならない。そして、一番大変なのは浮き上がることだ。大きく息をすって、体内に酸素をいれた上で、手と足をつかわないと水面にあがれない。動かないとおもりの影響で沈んでしまうのだ。万が一の場合に備えてインストラクターが水中で見ている。

 昼食を終えて軽い昼寝をする。でも、子どもたちは興奮しているのかなかなか寝付けない。ぶっつけ本番ではなく、練習した成果を見せる時なのだ。興奮するのも無理はない。でもベッドに横になっているうちに寝入っていた。

 1時半に目覚ましがなる。4人とも寝ていて、とび起きる。あと30分で午後の部が始まる。あわてて水着に着替えてプールに向かう。なんとか間に合った。

 子どもたちはダイビングの装備をつけて整列し、インストラクターの説明を聞いている。妻が聞いて、子どもたちに説明をしている。日常英会話だけなら妻の方が私よりうまい。私は通訳付きで仕事をしているが、妻は会社役員秘書をしていた時に、外国人とも交流があった。それに2年間のシンガポール滞在では言葉にそれほど困らなかったということだ。

 妻がもどってきて、インストラクターの説明を教えてくれた。

「最初に言われたのが、今日はダイビングマッチなので、難しい。でもチャレンジしてほしい。ルールはいつもと同じ2つのリングを見つけて、あがってくること。制限時間は5分。時間で順位が決まる。男女別に3位までメダルがもらえます。3位に入れなくても参加賞はでます。一つ目のリングはプールの中央、二つ目のリングは深いところにある。幸運を祈る。と言っていたわよ」

「エッ! 5mの深さまでいくのか?」

「そうじゃない? 行くのは簡単だけど・・」

「浮き上がるのが大変か・・」

「そうね。それで、いつもより人数が少ないみたい」

 たしかに、今日は8人しか来ていなかった。順番はくじ引きだった。圭祐は4番目、祐実は最後になった。こういうのは最初の方が気楽だ。後になるとプレッシャーがきつくなる。

 1番目の子どもは途中であがってきた。リングをひとつしか持っていない。失格である。2番目の子どもは、4分ほどであがってきた。暫定1位である。3番目の子どもは4分30秒であがってきた。皆苦戦をしている。いよいよ圭祐の番である。私も潜ってみたが、素潜りでは3mが限界だった。圭祐が潜っているところまでは近づけなかった。たとえ近づけたとしてもインストラクターに制止されたと思う。プールにあがると、妻が

「3分50秒よ。暫定トップよ」

 と言う。圭祐もプールの向こうでガッツポーズをしている。5番目の子どもは5分オーバーでインストラクターといっしょにあがってきた。酸素ボンベが小さいので、そんなに長くは潜っていられないのだ。6番目の子どもは3分55秒。圭祐が胸をなでおろしている。7番目の子どもは一番大きい子だ。3分45秒であがってきた。圭祐がガクッとしている。それでも準優勝だ。まさか祐実が優勝するわけがない。祐実が潜る。4分かかってもあがってこない。10秒、20秒、時計とにらめっこになった。4分30秒でもあがってこない。おぼれているのではと心配になった。しかし、4分40秒であがってきた。本人はふたつのリングを持ち上げて喜んでいる。圭祐も拍手している。いい兄妹愛だ。

 終わって、子ども用プールサイドで表彰式が行われた。そこで最初に呼ばれたのが祐実である。それもチャンピオンのコール。(なんで!)と思ったら、女子の部のチャンピオンだった。一人しか参加していなかったので、ゴールすればチャンピオンだったのだ。もっとも、ふだんいた二人の女の子は来ていなかったから棄権と同じである。祐実は両手でピースサインをしてご機嫌だった。

 圭祐は準優勝。でも、あとの二人はどちらも小学生。幼稚園児が表彰台に立つのは珍しいと言われた。圭祐は両手の親指をたてて喜んでいる。

 夕食前にプールサイドでカクテルタイム。子どもたちもノンアルのカクテルで乾杯だ。祐実は金メダル、圭祐は銀メダルだが7人中の2番目だからこちらの方が価値がある。祐実は金メダルをもらったのがうれしくて、

「ママと同じ金メダルだもんね。いっしょに宝箱に入れるんだ」

 と言っている。ヨーロッパにいた時、スイスのリゾートクラブにいった際、クラブ内の射撃大会があり、そこで妻は女性の部チャンピオンになったのだ。点数は私の方が上だったが、女性の数が少なくて優勝という栄誉を受けたのである。その時の表彰式で金メダルを授与した主催者が妻の頬にチュをした時、私はあぜんとしてしまった。妻が他人にチュをされるのを初めて見たからである。いくらヨーロッパの人間のあいさつとはいえ、軽い嫉妬心を感じたのを覚えている。妻はびっくりしたと言っていたが、まんざらではなかったようである。

 リゾートクラブでの最後の夕食。日本料理はちらし寿司、K国料理はビビンバ、C国料理は餃子だった。ちらし寿司が好評で早めになくなっていた。なじみの日本人シェフは、材料がなくなったとお客さんたちに謝っていた。うれしい悲鳴である。

 夕食後は後片付け。明日、朝食後にチェックアウトだ。子どもたちは早々に片づけて満足した顔で寝ている。この天使の寝顔ですべてが救われる感がする。妻のひとみも

「パパありがとう」

 と言って、チュをしてくれた。この前のあいさつ程度のチュよりは長かった。

「じゃあ、オヤスミ」

 と言って祐実といっしょのベッドに入っていった。

 7日目終了。

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