フロリダへ行こう!

飛鳥 竜二

第1話 出発前

トラベル小説


 私の名前は加藤大介。35才。大手自動車メーカーの海外事業部に所属しているが、4年間の海外勤務を終えて、今は本社勤めである。一応、部長付きということだが、接待の補助みたいな仕事をしている。いずれまた海外勤務になることは目に見えている。

 ある日、妻のひとみ(31才)が

「ベルギーの愛ちゃんのママから祐実にエアーメールが来ていたよ。今度フロリダに行くんだって・・」

 愛ちゃんとは、娘の祐実(4才)の幼稚園の仲良しだった。現地のフランス語幼稚園の同級生で、15人のクラスに日本人が2人いたのだ。アパートも近くて、よく行き来していた。ただ、父親はライバル会社だった。あと1年任期が残っているはずなのに、休暇がとれるとはうらやましくなった。

 そこで一晩考えて、

「よし、わが家もフロリダへ行こう!」

 と家族の前で言うと、妻と娘は大喜びだった。息子の圭祐(5月で6才)は、あまり乗り気ではない。また付き合わされるのかと迷惑顔だ。どちらかというとブロック遊びや本を読むことがすきなインドア派なのである。いつも妻とふたりで圭祐のネクラ体質を何とかしないとね。と話し合っている。


 部長に2週間の年休を申請すると、簡単に許可がでた。

「リフレッシュ休暇だな。帰ってきたら、次の赴任先を決めないとな。そうなるとしばらく休めないから、今のうちに家族サービスをしておけ」

 と、うれしいような悲しいような部長の言葉をもらった。


 さて、旅行の手配だ。ツアーだと制限がある。いつもの個人手配だ。と言っても、クルマ旅がほとんどだったので、エアーチケットをとるのは初めてだ。まずは、ヨーロッパにいた時のリゾートクラブのフロリダの空きをさがした。すると、6月10日から1週間あいている。旅行の中間にそこを基点にして、レンタカーでフロリダをめぐる計画だ。できれば南端のキーウェストまで行きたかった。リゾートクラブの予約はスムーズにできた。ヨーロッパでもバカンスの時に使っていたので、手続きは熟知している。海辺のリゾートなので、今までにないアクティビティが楽しみだ。

 次に手配したのは航空券である。格安航空チケットのサイトでさがすと、フロリダ往復20万円という格安航空券が見つかった。日系の航空会社だと往復50万円かかる。あまりにも安すぎる。それで口コミ欄を見ると、最悪だった。まずい・汚い・愛想がないと、悪口のオンパレードである。ヨーロッパから日本への往復はいつも日系の航空会社だったので、そんな経験はなかった。話には聞いていたが、外国特にアメリカ系の格安航空会社はそんなものなのかもしれない。そこで、大手のアメリカ系航空会社の往復30万円を選択した。口コミ欄では、悪口は半数程度に減っていた。まあ、許容範囲内であろう。使用する機体が最新の787ということもプラス材料だった。(ちなみに最悪の航空会社は古い777を使っている)

 アメリカ人に日本なみのサービスを求めることじたいがどだい無理なことなのだ。

 次に、ホテルの手配だ。妻と娘のリクエストでディズニーワールド内のホテルに泊まることにした。ファミリー向けのカジュアルホテルだ。寝るだけに入るホテルだから豪華な装備はいらない。それと、空港からホテルまでのシャトルバスも予約した。空港に夜10時に着くので、深夜バスである。これも空きがあって助かった。ホテルに入るのは翌日になるかもしれない。

 そこで大まかな日程を立てた。

 1日目 6月 5日(土)午後出発 成田空港16:45発 

 2日目 6月 6日(日)深夜0時ごろディズニーワールド着 午後、ディズニーワールド

 3日目~4日目 6月 7日(月)~8日(火) 終日ディズニーワールド

 5日目 6月 9日(水)ユニバーサルスタジオ

 6日目 6月10日(木)レンタカーにてリゾートクラブへ移動

 7日目~12日目 6月11日(金)~6月16日(水) リゾートクラブ滞在もしくはドライブ

 13日目 6月17日(木)ディズニーワールドへ移動

 14日目 6月18日(金)終日ディズニーワールド

 15日目 6月19日(土)早朝6:00オーランド発

 16日目 6月20日(日)午後3時成田空港着 帰宅

 この計画を示すと、妻と娘は大喜びで、翌日には早速旅行ガイドを買ってきて、どこへ行きたいと騒いでいる。まだ2ケ月先なのにだ。それに飛行機を乗り換えて19時間もかかるとは夢にも思っていないのである。ベルギーから乗り換えなしで12時間で帰ってきた意識しかないかもしれない。それもビジネスクラスでだ。自分自身でさえ、19時間のエコノミー席の飛行機旅がどの程度なのかはわかっていないのだ。

 もうひとつ忘れていけないことがあった。アメリカ入国のためのESTA申請だ。要はビザの代わりになるものだ。全て英語で記入しなければならないが、ネット申請なのでビザ申請よりは簡単だ。初めてのことなので、妻とふたりでパスポートとにらめっこしながら申請をした。数字や記号を間違えたらアウトだからだ。緊張のひと時であった。

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