怪談

@yaruzo714

大学生Aのインタビュー

某月某日 某喫茶店にて


 怪談についての話ですか。


 ひとつだけありますよ。それも実体験で。


 私、今大学生なんです。しかも4年生。○○さん(筆者)とお会いするのはお久しぶりですよね。その節は大変お世話になって。はは。○○さんのことを最初見たときは分からなかったです。少し痩せました?前はもう少しふくよかだったような…。話がずれちゃいましたね。で、さっきの話の続きなんですけど、状況的には、必要な単位はコツコツ取っていたので、あとはもう卒業をするだけって感じだったんですけど…。4年生の12月なのに就活も終わってないし、それと芸術大学に通っていて卒業制作の締め切りも近かったので、まあ、世間一般的な大学生のイメージよりも切羽詰まった生活をしていると思います。


 そんな中で少しでも楽をしたい一心で卒制にAIを使うことにしたんです。ほら、今流行りのなんとかgptとかってやつ。○○さんも使われたことありますか?ちょっとしたものなら一瞬で生成してくれるので便利ですよね。ただ、本当にちょっとしたものにしか使えないんです。AIもまだまだ発展途上なものらしくて、生成されたものをよく見ると微妙に違和感があるんです。完璧なものは作れないので手直しが必要になってくるんですよ。私の卒業制作のテーマがホラーに寄ったものだったので少しくらい違和感があっても、まあ味かなくらいの軽い気持ちでした。


 制作にあたって素材となるものが必要なのでそれをAIに頼りました。人の顔写真を使いたかったんです。けど、本物の人間の写真を使うとなると権利関係もややこしいし、何より写真を取らせてくれるような知り合いもいなくて、街中で誰か探すことも考えましたけど恥ずかしさが勝っちゃって、有り体に言えばちょうど良かったんです。


 AIで画像を生成するのって、作りたい画の特徴を文字で打ち込んでその意味をコンピュータが判断して出来上がるものなんです。ビジュアルで作れるものもあるみたいだけど、今はまだ文字の方が主流なんじゃないかな。


 試しに何枚か生成してみて、少し困ったことがありまして。『顔写真』と打ち込んでも出てきたものがほぼ欧米人の彫りの深い顔立ちのものしかでてこなくて。時々アジアっぽい顔立ちや、もちろん『日本人 顔写真』とも打ち込んでみたりするんですけど、ほとんどが中国人とか韓国人とか、なんとなく考えているものとはニュアンスが違うものが出てきてしまって。偏見ではないんです。私自身が生粋の日本人なので、そのイメージからかけ離れたものを素材として使うと、想定しているものとは違う違和感が生まれてしまうのではないかなって。なので、名前を打ち込むことにしたんです。『田中太郎』とか『山田花子』みたいな。名前って持ってる人のオリジナル性というか国民性が出るじゃないですか。流行もあるからなんとなく年齢も限定される気もしたんです。とにかく架空の人物の名前を入れていって生成しました。結果的に大成功でした。思っていた通りのものが作れたんです。


 15人くらいかな。自分の力で他人の名前を考えることに疲れてしまって、それでもまだまだ顔写真が必要だったから行き詰まりました。それで、私、良いことを思いついたんです。かつての同級生の名前を使ってしまおう、って。


 部屋をひっくり返して卒業アルバムを探しました。何度も何度も処分しようと考えた分厚い冊子がここにきて役に立つなんて思いもしませんでした。アルバムを開くと、案の定覚えてもいない沢山の他人の写真に幼い自分が一緒に写っていることに不思議な感覚になりました。それでも眺めていればかつての思い出はよみがえるもので、あまり良い気分にはなれませんでした。私にとって中学生時代は、良い思い出がなかったので。


 目的の3-6のページを開くと、かつての私と担任の先生とクラスメイトの名前と顔写真がありました。早速、クラスメイトの名前を使い画像を生成しました。自分で考えた名前で作っていたものと同じような画像ができたので満足していたんですけど、ひとつだけ、違和感を感じるものが生成されたんです。先程言ったように、AIで生成された画像には必ずどこかが崩れていて違和感があるものなんです。それは想定されているものでむしろそれを狙っているところもあるというのもお話ししましたが、私が違和感を感じた画像はそれらとは明らかに違っていました。やけに綺麗なんです。本物の人間みたいに滑らかな質感の肌やその写真を撮っているであろう人物の姿を反射してしまいそうな瞳、まるで証明写真みたいに映る少年が真顔でこちらを見ている画像でした。少年のおでこ付近に伸びるリボンのような黒い曲線で私はあることに気がつきました、


 あっ、これ遺影か、と。


 まだ幼さの残った少年の遺影を直撮りしたような画像。


 誰の名前でこの画像を生成したのかアルバムに目を移すと、その子は、『小関拓海』くんといいました。聞き覚えのない名前でした。そして、アルバムの中の『小関拓海』くんはAIで作られた画像の男の子と同じ顔をしていました。


 自分と一緒に写っている写真もあって確かに3-6のクラスメイトだったはずなのに、私はその子のことを覚えていないどころか、その子のことを知りません。『小関拓海』くんの名前も、顔も知らないのです。


 AIが現実の人間と瓜二つなものを作るなんて、学習をさせない限り有り得ない、仮に学習をさせたとしてもあまりにもその画像は生身の人間を写したように綺麗で、信じ難いものでした。


 気味が悪くなり顔写真を作ることはそこでやめることにしました。


 数日後、たまたま会う予定があり、一連の出来事を中学生の頃からの唯一の友人、Bに話しました。


 私が一通り話し終わるとBも『小関拓海』くんのことを知らなかったようで(クラスが違ったためかもしれませんが)、ただ最近亡くなってしまった同級生がいることを教えてくれました。その人の名前は分からなかったけど、私たちはその人を『小関拓海』くんと結論付けることにしました。私が覚えていなかっただけで、『小関拓海』くんは存在していたんだ、よかった。そう思いました。


 季節が夏から秋に変わる頃、Bから着信がありました。Bとはあの日から会っていませんでした。Bと普段連絡をとるときはチャットばかりで滅多に通話なんてしないので、よっぽどのことだと思い通話に出てみると、酷く取り乱した様子のBの声が聞こえました。このままでは話ができないとBに落ち着くよう最初から話してほしい旨を伝え、程なくして少し安定したBが不思議なことを言いました。


「あの子がいる」


「『小関拓海』くんが私の前にいる」


 私はBに一度も『小関拓海』くんの画像を見せていません。そもそもあの画像は消してしまい手元にはなく、私ですら数か月前に見た画像の記憶なんて曖昧なのに、Bが『小関拓海』くんの姿を知っているはずがないのです。私もBも所謂霊感的なものは持っていません。むしろ幽霊というものを2人とも信じていませんでした。現に私の前には『小関拓海』くんはいません。では、Bに見えているものは一体なんなのでしょうか。


 Bには気のせいではないかと半ば無理矢理宥め、怖いのなら誰か傍に居てもらった方がいいということを伝えたと思います。私がBの家に行くことも提案しましたが、結局、Bは実家に一度帰ることにし、今でもまだ戻ってきていません。


 あの日、はじめにBに話をした後すぐに、Bは中学の頃の別の友人に、亡くなった同級生の名前を聞いていたそうです。亡くなった子は『小関拓海』くんではありませんでした。Bはその友人や友人の友人、連絡の取れる人には手当たり次第に『小関拓海』くんを知っているか聞きまわったそうです。しかし、『小関拓海』くんを知っている人は誰一人、いなかったと言っていました。○○さん、『小関拓海』くんっていったい誰だと思いますか?


 最近、気のせいかもしれないけれど、私にも不思議なことが起こるんです。知らない子供が私を見ているんです。Bが実家に帰ってしばらくした日の夜、トイレに行きたくて起きたときに、玄関の前に男の子がいました。うちはマンションだから全ての部屋が玄関から続く廊下で繋がっているんです。だからもし玄関のドアが開いたとかだったら絶対音が聞こえるはずなのにそういうのも無かったし、変だなとは思ったんですけど、こっちをジッと見ているだけで上がってくる様子も何かしてこようとする様子も無くて、まあいいかなって思って普通にトイレして、トイレから出た後もそのまま立ったままだったから普通に寝て、朝になって起きてもまだそこにいたから、この子はずっといるのかななんて思ったりして。その日からかな。どこにいてもあの子と目が合うことが増えました。家にいても、外出しても、あの子がいるんです。でも別に私に何か危害を加えようみたいな悪いことはしてこなくて、ただそこにいるだけみたいな。だからまあ本当にそれぐらいならいいかって思ってます。


 だけど、私、その子のことも知らないんですよ。はじめはそれこそ、この子が『小関拓海』くんなんだとは考えたんですけど、卒アルを見てみたら全然顔が違って、それに、仮にこの子が『小関拓海』くんだとしても整合性がとれないんですよ。有り得ないんです。だって『小関拓海』くんは私が作り出した嘘なんですから。怖い話の卒業制作をしていた私の作った素材なんです。『小関拓海』くんなんて存在しないはずなのに、だったら、私やBに見えているものは誰なんでしょうか。


 でも、もし、あのこがそうだとしたら、『小関拓海』くんは今もすぐ傍にいますよ。


 どうですか。


 怪談になれましたか。

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