ダンジョン貴族令嬢危機一髪

@tea_kaijyu

第1話 異世界で優雅な朝食を

朝の光が窓から差し込む。室内には珈琲の良い香りが立ち込めている。

フライパンで焼いてみたトーストの焼き具合も良い感じだ。それと薄切りのジャガイモとツナを炒めたものをつけ合わせる。


「今日の朝食はこんなところかな。」


窓の外が見える位置に配置したテーブルの上に皿やカップを並べて、外を眺めながらの朝食。

窓の外には裏庭が広がっていて、屋敷を囲む柵の向こうには森が広がっている。

柵の近くにある木の枝の上に動く影。


「あ、リス、かな。」


枝の上にリスらしき小動物。ちょろちょろと素早く動いて、葉の陰に隠れてしまった。耳を済ますと鳥の囀りが聞こえる。

平和な雰囲気だ。


目を覚まして屋敷に一人で取り残されてしまったと気がついてから既に三日。誰もこない。

屋敷が野盗に襲撃されて、私は倉庫部屋で気絶したまま取り残されていた。おそらく無事だった使用人達は伯父であるミソロル伯爵の所に報告に行ったんじゃないかと思っているのだけど

未だに誰も戻ってきていない。

私が目を覚ました時点でどの位時間が経っていたかはわからないけど、餓死寸前とかではなかったから、長くても3日くらいじゃないかと思っている。

倉庫部屋で見つけた芋もまだ芽が出たりしてなかったし。


「‥‥絶対誰か様子を見にくるよね。そのうち‥‥。」


使用人達が伯父の所に報告に行ったのだとしたら、私の事を探しに誰か寄越すと思っている。‥‥来るよね?

うーん‥‥。


伯父とは数える程しか会った事がない。先日、母の葬儀で会ったのが何回目だったか。

伯父が私の事を気にかけてくれているかというと、良くわからない。

前世の記憶が蘇る前の私だったら、「きっと伯父様が助けにきてくれるわ。」と素直に思ったと思うのだけど、

前世の「六華」としての記憶が蘇ってくると、妙に冷めた視点で見てしまう自分がいる。


そもそも私は、ダンジョンが消滅した日に生まれた忌み子だと勝手言われていたんだよね。だから、ダンジョン貴族である父方の親戚には疎まれていたはず。

母の実家であるミソロル伯爵家は、戦争で功績を上げて爵位を得たんだったかで、ダンジョン貴族ではないんだけど。

ダンジョンに価値を見出しているこの国で、「ダンジョンの女神に見放されている」などと言われている子供を無条件に大事にしてくれるかはわからない。


そもそも、母と二人で山の中の屋敷で暮らしてだって、私という存在が疎まれていたからじゃないか。


「森に逃げて行方不明でラッキーって思われたりして‥‥。」


ジワリ。そんなことを考えたら目が潤んできてしまった。いかん。ネガティブになったらダメだよね。


コトっとコーヒーカップを置く。


「隠せ。」


空になったカップやお皿を見ながら呟くと、カップと皿がスッと消えた。不思議システムで、次に呼び出した時には、綺麗になって出てくるのだ。とても便利。

多分、皿に少し散っていたパン屑や、カップに数滴残っていたコーヒーの雫などは、呼び出し対象じゃないからだと思う。


テーブルの上に残っていたのは、「六華」の住んでいた場所の近所のパン屋さんの食パンの空き袋。食パンは呼び出す度に残りの枚数だけが入った袋が出てきて、ついに今朝の食事分で空となってしまった。


「自分でパン焼くかぁ‥‥。」


小麦粉の備蓄は結構あったはず。パンを焼く為にドライイーストも買溜めしてあった。


「強力粉〜!」


ポン!


見覚えがあるパッケージの粉が入った袋が出てきた。


「イースト!」


ポン!


小さい赤いパッケージの袋が出てくる。


「ステンレスボール!」


ポン!


大きいステンレスボールが出てきた。これでパン生地を捏ねられる。

屋敷の厨房にも、調理道具が残されていたのだけど、石やら木でできていて重いのだ。だから、出せる道具は遠慮なくどんどん使ってしまう。

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