10.23.これからそれから


 ジルードの死が急速に伝わった事で、所々から大きな歓声が聞こえていた。

 そんな中を突き進んでベンディノの館へと向かえば、彼は外でその様子を見ていたらしい。

 立ち上る煙やら歓声やらを忌々しそうに見ながら貧乏ゆすりをしている。


 刃天とチャリーは顔を見合わせた。

 おちゃらけた雰囲気は完全に消え去っており、怒りが心中に渦巻いている様だ。

 その隣ではリタンが困ったようにしながら気まずそうにしている。


 だが二人が来たことを確認すると、その雰囲気を一旦かき消してパッと笑顔になった。


「おお! お帰りぃ!」

「ジルードは始末した」

「ああ、ありがとう! 本当はこの手で決着を付けたかったけど領主として前に出ることはなかなか許してくれなくてね……」

「で。あいつらをどうするんだ?」


 刃天は親指で後ろを指さした。

 そこは先ほどまでベンディノが見ていた方角であり、歓声と黒い煙が燻っている。

 ベンディノは大きくため息を吐いてから腕を組む。


「ヴォロに膿を出せって言われちゃったしね。まず教会側についていた貴族だけど、最後まで教会側についていた奴は許す。だけどそれ以外は何かしら重い罰則を与える。今まで俺の助けになった奴は重鎮に引き上げる。一番信頼できるからね。ま、簡単に言ったら下級階級と上級階級の総入れ替えさ!」

「えげつないですね……」

「それくらいが妥当だろ」

「こんな情勢じゃなきゃできないですよ……」


 この対応にチャリーとリタンは引きつった顔を見せる。

 だが示しを付けなければならないのは確かなので、これは大きな見せつけの代わりにもなるだろう。

 あとは下級貴族たちに大きな収入源や管理を任せる……などといった決め事が必要になるが、それもベンディノは既に考案しているらしい。


 長い間構想を練り続けていた作戦だ。

 これが成功した後のこともしっかりと考えていたのだろう。

 ともなればベレッド領が再び軌道に乗るのも時間の問題だな、と刃天は思った。

 そうなればようやく交易も再開できる。

 テレッド街は今食料が少ない状態の筈なので、ベレッド領の豊富な作物を送ることができればディバノも助かるはずだ。


 このことをベンディノに共有すると二つ返事で了承してくれた。


「んで? 君たちはもう帰るのか?」

「はい。私たちはヴィンセン領で暫く活動します」

「そかぁ~! あ、戻ったら水だけこっちに流してもらえるように頼めるかな……?」

「それはもちろん。そういう契約でしたし」

「助かるわー! これで貴族共に好き勝手されずに済む! もう触れ回ってしまうから必ず水をこっちまで届けてくれな!」


 これくらいは造作もない事だ。

 アオであればすぐにでもこちらに水を届けてくれるだろう。


「さぁて……」


 刃天は後ろを振り返って空を仰ぐ。

 この短期間にテレッド街の進行は破綻し、更にベレッド領とヴィンセン領すらも陥落した。

 テレンペス王国の領地が一気に大きくなり、時間が経てば経つほど掌握した二つの領地は基盤を整えて戦力を増大させていく。

 これを黙って見ているダネイル王国ではないはずだ。

 必ず近いうちに何かしら行動を起こしてくるだろう。


 こちらとしてはアオの家が統治していたゼングラ領を次の標的にしたいところなのだが、さすがにそこまで早く準備は整わない。

 まずは今掌握した領土の基盤を整えなければ。


「よし、帰るか」

「そうですね。ここに居てもやることないですし」

「俺から仕事を受ければあるけどね?」

「馬はどこだ」

「一緒に向かいましょうか」

「無視かぁー」


 もうベンディノに構う必要もないだろう。

 と、いうことで三人はささっとその場から去ってしまった。

 ベンディノは三人の背中を見送りながら小さく笑っていたが、見えなくなると心底安堵したように息を吐く。


「助かったぜ」


 誰にも聞こえないように礼を言ったあと、彼も館へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る