8.10.尋問
バケツに入った水を並べられた二人にぶっかける。
無事に意識を覚醒させることができたようだが、あまりの寒さに歯をカチカチと鳴らしていた。
冬は終わりを迎えているが、寒さは未だに健在。
むしろ雪が溶けた時の方が寒く感じるので、今現在身ぐるみをひっぺがされている彼らにとっては極寒ともいえる状況だろう。
「よし、起きたな」
「くっ……」
「んでぇ? お前らは何でここに来た?」
「フン……」
「前の奴らより口が固そうだな」
こういう相手は例え拷問をしたとしても口をなかなか割らない。
今ここで時間を稼がれては厄介だ。
麓に居るであろう兵が異変を察知して山に登って来られるのは困る。
この二人はそれがわかっているはずだ。
拷問は効率が悪い。
「おい、他に生きてる奴はいねぇか?」
「すいません……」
「ハッ。まぁ皆必死だったからな」
生き残りはこの二名のみ……。
これは話を聞く前に増援をどうするか考えた方が良さそうだ。
とはいえこの二人をこのままにしておくのは気分が悪い。
「アオ。水で肩まで浸からせておけ」
「わかった」
水をすぐに作り出したアオは、所々に残っている雪を掬い上げて水の中に溶かし、それで二名を包み込む。
極寒の冷却水を全身で味わった二人は今にも凍えてしまいそうだったが構うものか。
彼らをそのままにし、話を進めることにする。
「さーて……。口を割るまではこれでいい。戦える者はこれだけか?」
「あとクティさんとテナさんが。二人は怪我人の治療中です」
「ふむ……。俺は死なぬとしても……お前らに今死んでもらっては困るからな」
「じゃあやっぱり刃天だけで行く?」
「最も賢いやり方はそれだな」
魔法が飛んできたとしてもなんとかなる。
贅沢を言えばロクを連れていきたいところだが、大人数を相手にするとなれば邪魔になるかもしれない。
別に居なくてもなんとかなるので、どちらでもいいというのが本音だが。
だが情報が足りない。
チャリーが戻ってきてからでなければ、この話は進まないだろう。
「あのー」
ふと、一人の村民がおずおずと手を上げた。
無言でそちらを見やれば、彼は顎に手をおいて口を開く。
「気になってたんですけど……チャリーさんって何者なんですか?」
「ああ? なんだ、知らねぇのか」
「はい」
「アオ。この数ヵ月なにも説明してねぇのか?」
「自分から説明したりしないよ。それに……」
まだ説明すべき段階ではない、とアオは顔に出していた。
確かにそうかもしれない。
今アオやチャリーは、この村を利用しようとしているのだから。
とはいえ刃天の素性を知ってもあんな反応を示したくらいだ。
本当のことを言っても問題はないと思うのだが……アオはここに関して慎重な姿勢を見せた。
であればそれに従うまでだ。
「ま、剣術と魔法の指南役だ。かなり名が通っていたらしいぞ」
『へぇー』
一応ごまかせたらしい。
それならあの強さも納得だ、と全員が頷いた。
アオは少し安堵した様子を見せて息をつく。
意図を読み取ってくれた刃天に感謝しているようだ。
「ちゃ、チャリーとい、いうのは……。あ、あの、あの女か……?」
ガチガチと歯を鳴らしながらそう口にしたのは隊長だ。
全員の視線がそちらへ集まる。
「は、はは……。ダネイル、王国の……りょ、りょう、領地である……ゼングラ領……。そこに、そこ、そこの生き残り……だろ……?」
アオが苦い顔をする。
誰もそれには気づかなかったが、この話が本当なのであれば……。
「チャリーさんは、ダネイル王国の人……?」
と、いうことになる。
ポソリとそう呟いたリッドの言葉を全員が聞き取った。
隊長がその台詞を肯定する。
「そうだ……。あいつは、そ、そう言った……。あと、お、おまえ……。ダネイル王国の……ギルド、マスターを、きき、斬った……男だな……?」
「ほーう。それを知っているということは、あの言葉も知っているな?」
「やはり、お前らが……」
隊長の言葉を全員が待つ。
彼はしてやったり、と笑みを浮かべた。
そして、アオを見る。
「異国の男と……エルテナ・ケル・ウィスカーネ……!」
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