5.6.戦う前に
いい加減この世の情勢について理解しなければならない。
そうでなければ今後の活動に大きな支障が生じるからだ。
知らなければ、戦えない。
これはどんな時でも、どんな場所でも同じこと。
知らずに戦い、それが善であったとなれば笑い話にもならないのだから。
村民たちは改めて親睦を深めているようなので、しばらく放置していても問題はないだろう。
さて、少し学ばなければ。
「まず聞きたいのだが、ダネイルとテレンペスが敵対していることは分かった。ではあの関所は何だ?」
「検問の事ですか? あれはテレンペス王国側が勝手に設置しているだけのものですね。無論ダネイルからの同意など得ているわけがありません。とはいえ商人や冒険者などの往来はありますから、間者を見つけたり違法な物品を取り締まったりしているくらいですかね」
これに関してはあまり気にしなくてもよさそうだと刃天は思った。
なのですぐに次の話題を振る。
「この村、作られてからどれ程経つ?」
「え? ううん、私が知っている限りだと二年前くらいですかねぇ……。私が知っている地図はダネイルの諜報員が探し回って作った物なので、テレンペス王国にはないはずです」
「ではその間、水売りは取引をしていたということか」
「その可能性は高いです。検問付近の地形などを把握して攻撃する際の動きを調整していたと思いますよ。あとは兵糧ですかね。村を探して物資を奪うことも考えているでしょう」
「ずいぶん長い間準備を整えているな……。では戦が近いか?」
「それはまだないと思うよ」
これには意外にもアオが声を上げた。
どうしてだ、と問うてみればすぐに返答が返ってくる。
「ゼングラ領の領主が居なくなって変わったから、しばらくは内政を整えるためにダネイルからは出兵しないと思う」
「一つの領地が崩れただけでそうなるか?」
「刃天さん。アオ様のお父様は本来王家に仕えられるだけの力があったんです。ですが王からすれば彼が裏切ったということになっています」
「ああ、そうか。今は疑心暗鬼になっているわけだ」
「そういうこと。それに……どっちも自分から戦争を仕掛けたくはないだろうからね」
「……ん?」
アオの言葉を聞いた後、刃天はドリーと戦った村のことを思い出した。
あそこは完全に潰れてなくなってしまっているが……これはダネイルの宣戦布告とはならないのだろうか?
「どうなんだ?」
「あ~……。バレるとマズいかもね!」
「いや近いうちに露見するぞあれは」
あれだけ派手にやったのだ。
遠目からあの戦いを見ていた者ももしかすればいるかもしれない。
これがテレンペス王国の国王に知られれば、ダネイルに攻め込む手はずを整え始めるかもしれないのだ。
だがそれは刃天たちとしては待って欲しいところである。
未だに問題を多く抱えているこの村は防衛設備も何も作ってはいないのだ。
これを整えるまで知らされてほしくはない。
ここは運が味方してくれることを願うばかりだ。
さて、そろそろこの村を脅かす可能性がある水売りについて知りたい。
「水売りはどこから来ているか分からないのだったな」
「ダネイル王国の領内で最もテレンペス王国に近い領地の名前は“カルセン領”です。そこから南下すれば“ベレッド領”という領地もあります。私の予想だとベレッドから来ているのではないかと思うんですが……」
「ほう? なにか根拠はあるか?」
チャリーは頷く。
「水売りは水魔法の使い手です。土地を潤すことはできずとも、喉を潤す程度の水は操れますからね。カルセン領はダネイル王国から流れる水の恩恵を多く得ていますが、ベレット領は恩恵が少ない代わりに水魔法の使い手が多いんです」
水の恩恵を多く受け取れない土地の対策として、水魔法の使い手を多く派遣するといった冒険者の依頼や政策は存在する。
誰しもアオのような力を持っているわけではないので、水が少ない場所は魔法を頼りにして維持している面があるのだ。
「だから水の恩恵を受け取りにくい領地の街や村は距離が近い傾向にありますねぇ」
これに刃天はピクリと反応した。
確か……ダネイル王国から南側にはヴィンセン領があったのではなかったか。
「ん? 待て、チャリー。ヴィンセン領とベレッド領はどれ程の距離がある?」
「えーと、領主が住む街は比較的近かったはずですよ。馬車で片道四日だったかな……」
「決まりだな。水売りはベレッドの者だろう」
「え、言い切りますね……。どうしてですか?」
「ちーと鬼との話を思い出してな」
商い人の荷馬車。
これはヴィンセン領から来ており、未だに解決していない刃天に提示された一つの道である。
ヴィンセン領の街と距離が近いベレッドの街のであれば、何かしらのかかわりを持っている可能性が高い。
断言するのは時期早々だったかもしれないが水売りを取っ捕まえれば何か聞くことができるかもしれないのだ。
神が提示した未だ解決していない商い人の荷馬車。
出発地点であるヴィンセン領にも何かある可能性があるし、その隣街であるベレッド領にも何かあるかもしれない。
不確定要素は多いが、可能性はカルセン領よりも高いだろう。
「ああ、そうだ。この地の領主は動かぬか?」
「もしかしたら村の存在すら知らないかもしれません。なんせ、難民が集まってなんとか作り上げた小さな村なのですから」
「税を納める余裕もないしね。まぁ、水の恩恵を頂戴してないし妥当だと思うけど」
「左様か」
村の存在を知らないのであれば、動くもなにもないだろう。
だが村が大きくなれば変わってくるはずだ。
この辺りのことはまだ考えなくても良さそうだが。
「他に何かあるか」
「聞きたいことによりますが……今はテレンペスとダネイルの関係性だけ知っていればいいかと。最も長くやりあう相手でもありますから」
「まぁ詰め込んでも覚えられぬか。よし」
大方知りたいことは知れた。
あとはこの村の問題にどう立ち向かうか、である。
「では、水売りをどうする?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます