第5話 自宅で自分の行動に悶絶、そして誰かの来訪。

(side 健一郎)



「ただいま帰りました」

「あらお帰り。今日は確か昼で終わりよね?遅かったけどどうしたの?」



母が、俺に遅くなった理由を聞いてくる。



「ちょっといろいろありまして」

「そのいろいろの内容について、私は聞いてるのだけれど」

「いろいろは、いろいろです」



俺は帰ってくる予定の時間より遅れて、といっても帰ってきたのは1時半で30分ほど遅れた程度だが、帰ってきた理由を適当にはぐらかす。

母は、悲しいという表情を隠さず、俺に問いかける。



「健一郎。まだ私のことは信用できない?」

「いえ、決してそんなことはありません」

「ならどうして、いつまでも私たちに対して敬語なの?」

「それはただ、敬語で話すのがくせになってるだけです」

「そう。ならこれ以上は何も言わない。だけど、私はいつも言ってるじゃない。私たちに対して、いつまでも敬語でしゃべって畏まった態度で、よそよそしくしなくてもいいって」



母は俺にそう諭す。


母の名前は伊良湖 明美。


ダークブラウンのセミロングの髪に優しげな顔と瞳。

俺の記憶が正しければ、確か実の母と同い年だったはずだが、それを感じさせない美貌である。



「すみません」

「いいわよ。それで、どうしたのそんな顔をして」

「いえ別に」

「そう?何かあったら遠慮なく言ってね。さ、お昼早く食べなさい」

「はい」



俺は母に生返事一つして、昼食をとった後自分の部屋へと入る。

部屋に入った瞬間に、俺は制服を脱ぎ私服に着替える。

ヘルメットとグローブを定位置に置き椅子に座り、今日の出来事を振り返る。



「はぁ~。柄にもないことやっちまったな、俺」



座った瞬間襲ってきたのは、すさまじい後悔である。



「なんで俺は、突発的なこととはいえ、あんなことをしたんだろうな。

でもあそこで割り込まなかったら、恐らくあの女はあの男に犯されるか、もっとエグイことされてた。

しかしあの女からしたら、ヤバイ男に襲われかけて、誰か来て助かったと思ったら、これまた見ず知らずの男に、いきなり無理やり連れ去られたわけで」

うん、なんていうか、やっぱり俺やっちゃってるよね。

ていうかよくよく考えたら、あの時の俺は完全にあれだわ。

自分本位の身勝手な正義感で知らない女を助けた、イタい男じゃん。

激しい自己嫌悪が、俺を襲う。

やべ、明日学校行きたくない。

本気でそう思ってしまう。


俺は散々自己嫌悪した後、気分転換に教科書とノートを取り出し、勉強する。

勉強を終え、パソコンを使ってウェブで動画を見て過ごしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

ドアを開けると、一人の女性が、俺の部屋の前に立っている。

俺がドアを開けた瞬間、女性は俺に伝言らしいことを言う。



「健くん、お風呂に入りなさいって、お母さんが言ってるよ」



俺にそう言った女性の名前は、伊良湖 静。

栗色の髪でセミロング。

タレ目で少し童顔な感じの顔。キレイという感じではなく、かわいらしいという表現のほうがしっくりくる。

背は俺と変わらないくらいだから、女性としてはかなり身長が高い。

それでいて、お嬢様然とした雰囲気を漂わせる。

性格は、俺の知る限りだが、清楚でおとなしい、そんな感じだ。

そして、俺より4歳年上の姉だ。


ああ、もうそんな時間か。

俺はそう思いながら、姉からの伝言に従い、風呂に入ることとする。


「わかりました。今からお風呂入ります」

「健くん」

「何ですか?」

「わたしやお父さん、お母さんに対して、いつまでも余所余所しくしないでほしいな?」

「……風呂行きます」



俺は姉の言葉を聞かなかったことにして、風呂に向かう。

今日帰ってきたときにも、母に同じようなことを言われたな。

そんなことを思いながら。


カラスの行水で風呂に入り、出てすぐに夕食を摂り自分の部屋に戻る。


そしてもうすぐ深夜になろうかという時間まで、授業の予習復習をしながら、ふと来週もしあの人と会ったらどうしよう、ということが頭に浮かぶ。

その懸念が俺の頭の中をすごい勢いで巡り、本格的に来週あの人に会わない方法について考えていると、部屋のドアがノックされる。

こんな時間に一体誰だろうか。

父か?としたら一体何の用だろうか、と思いながらドアを開けると、意外な人物が部屋の前にいた。

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