ホラーミステリーの世界に転生したけど、たぶん俺の他に転生者がいる。
ひたかのみつ
第1話 夜の街から
◆
「ねぇ、痛い? 」
少女が耳元で囁いた。
「い…… ぃ…… も、やめ…… 」
制服の白いシャツに、真っ赤な血が染み込んでいく。
ゆっくり、深く、深く、刃物に刺された胸部に、鋭い痛みが走る。 力が、入らない。
「ふふぅふふふふ。 苦しい? ねぇ苦しいの? 」
少女が握った包丁をぐっと奥に
「く…… っぁ…… 」
もう、声も出せない。
「ねぇ、教えて? どうして私を―― あぁ、ねぇ、死んじゃった? 」
しばらく2人は、時が止まったように、無言でじっとしていた。
少女は大きな瞳を瞬きすることなく見開いて、たった今息絶えた人間の、苦しみに叫び、血と涙でぐちゃぐちゃになった顔を間近でじっと観察している。
少女は立ち上がると、床に転がっている死体を靴の裏でグリグリと踏みつぶした。
まだ新しい傷口からは、ゆっくり赤黒い血が流れ、その暗い血に濡れたピンク色の内臓がぐちゃりと腹から飛び出した。
「ねぇこれじゃあみんな助からないじゃん!!! ねぇ!! 何やってるの!! 」
どこまでも真っ暗な廊下に、飛び散った血が、錆びた鉄の臭いを放っている。
◆
俺はホラーゲームが大好きだ。
謎を解き、ストーリーが進行すると、登場人物が不可解な死を遂げる。
そして最期には、真相が明らかになる。
ゲームによっては、自分の行動次第でエンディングが変わるのも良い。
今日も俺は深夜にパソコンでドット絵のホラーゲームをしていた。
「くおぉ…… とても良いトゥルーエンドだった…… 」
主要登場人物の死亡数を最小の3人に抑え、隠しイベントとアイテムを取得。真相に迫る重要な写真を見てからゲームクリア……
「厳しい条件をこなしたかいがあったな」
高校2年生の夏、夜の自室で
「なんだか、気分もあがってるし、夜の散歩に行くか! 」
先ほどのゲームが夜っぽかった、という単純な理由で、岳はこっそり家を出た。
普段は交通量の多い道路も今はとても静かだ。
「夜の歩道橋の上って、雰囲気あって良いな…… 何か起こりそうだ―― 」
岳は道路と建物を見下ろしながら、階段を降り始めた。
「うぉ! 」
すると突然バサバサっと、目の前をカラスが横切った。
「びっくりした、夜なのに―― 鳥って夜は目が弱いって聞いたけど? 」
ただの鳥だったことに安心し、再び、階段を降り始めると
「ねぇ? 」と今度は耳元で誰かが囁いた。
「?! 」
さっき以上の驚きに、慌てて振り返ろうとしたが、次の瞬間
背中から、ドンと誰かに突き飛ばされた。
「え? 」
階段の下に落ちていく体、微かにみえた、歩道橋に立つ人影は、女の子に見える。
またカラスが鳴いている。 赤信号の光が目に眩しい。
次の瞬間には俺の視界は真っ暗になった。
◆
俺が目を覚ますと、そこはよく知る場所だった。
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