第2話 バイト生活!

 ―――お昼が終わり、午後の授業を受けて、帰りのホームルームへと時間が進んだ。

 教壇には担任であるどこにでも居そうなハゲたおじさんが立っており、俺は窓際の後ろの席だったので話を聞いてる風で窓から外を見る。


「――――楽しそうだなぁ……」


 俺の席からはグラウンドが見えており、そこにはもう既にホームルームを終えて部活の準備に入る生徒もいれば、楽しそうに友達とお喋りをしながら歩いている生徒もいる。

 対して俺は、この時間が終わったら猛ダッシュで教室を出て、バイト先に直行しなければならない。今日のバイトはコンビニで、なんと店長が休みということで俺が代理として時間帯責任者をするらしい。時給もそれに合わせて百円上がるとのことで、一秒足りとも時間を無駄にすることができない。

 だが、今日に限って無駄に担任の話が長い。いつもは自分が早く帰りたいからって適当に挨拶だけして終わるくせに、今日は部活動説明会がどうのこうので話が全然終わらない。


「早く終わんねぇかなぁ……」


 もう時計は十六時を回っている。

 俺のバイトは十六時半からなので、全然余裕ではあるのだが、早めにきてタイムカードを切ってもいいとのことなので、出来れば早くこの場から出たい。

 俺は足を貧乏ゆすりさせて、担任にプレッシャーをかけるが、まるでこちらを相手にしていないような感じだ。

 

 こうして、机を小刻みにガタガタの揺らして落ち着かない体をなんとか収めていると――、


「――以上でホームルームを終わる。明日は朝から部活動の説明会を体育館でするので、遅れないように」


 やっと終わった。

 俺は担任が最後まで言い終わる前に忍者の如く自分の席から立ち去った。

 今なら陸上で世界が取れそうだな。



 ★五分後★


 ――――ぴーぽーぴーぽーぱぽっぽぽぽぴぱぴー。


「いらっしゃいませ~」


 俺は全力ダッシュで教室を出た後に、五分でコンビニに着いた。そして、感情がこもったようでこもっていない「いらっしゃいませ~」をドアの開閉音が鳴るたびにロボットのように繰り返している。もう諦めるなんてレベルを超えている。なのでたまに言い方を変えたりして、単純作業に味をつけている。


「――――いらっしゃいませぇぇぇ〜ぇ〜」


 こんな感じで毎日遊んでいる。

 この夕方に入るくらいの時間はまだ客も少ないので、いくらふざけようが、商品を壊したりしない限り何をしてもいい。ここだけ、この時間だけが俺の唯一の心の拠り所だ。


 しかし、この俺の天国に足を踏み入れる輩が現れる。

 

「あ、赤月くんじゃん」

「え?」


 彼女とは本日三度目の出会いだ。このトゥルトゥルとした金髪も見飽きてしまった。  


「やっほー! 赤月くんここでバイトしてたんだ」

「うん。放課後はほとんどここにいるよ」

「へぇ〜、コンビニ好きなんだね」

「……」


 マジでホントに察しろよこいつ。誰が好き好んでこんなつまらんバイトをすると思ってんだよ。


「……別に好きじゃねぇよ」

「え――?」


 俺は小声でそっと呟く。その呟きは店内のループしている広告音で、掻き消された。だが、その時の俺の顔はちょっと暗かったらしい。その証拠に彼女が「大丈夫?」という顔でまたもや下から覗き込んでくる。


「――いや、何でもない」


 なんだか虚しくなった。

 確かに俺は今こいつにナチュラルに地雷を踏まれたが、それ以上に俺の今の情けなさに頭を抱えてしまった。

 俺は普通の高校生なのになんでこんなにバイトに追われているんだ。本来の男子高校生は今頃友達と買い食いをしたり、部活したり、デートしたりして青春を謳歌しているはず。しかし、俺はひとり虚しく日金稼ぎ。


「なんかごめんね。もしかして私変なこと言った?」


 涼森は口に人差し指をあてて、子犬のようなキュルキュルした顔でこちらを覗き込む。


「――いや、いいよ。それよりここに何しに来たんだ?」

「え? それは勿論ただの買い物だよ。部活始まる前に買い出しをしときたいんだ〜」

「いいな。そういうの憧れるよ」

「じゃあ君もすればいいじゃん」

「そうだな。まずする相手を見つけないとな」


 俺はそう涼森に告げると、同時にレジを呼ばれたので、彼女を置いてレジに向かう。


「じゃあ、また明日な。セルフレジもあるからそっちも使えよな」

「――――うん。またね」


 


 

 

 


 








 

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