第九十六話 愚王
「連合軍が壊滅した時はどうなるかと思ったが、やはり私は天才なのだ!」
私の代で、ゾーリン王国は最大版図となった。
新ラーベ王国は、新たに占領した国々の当地でしばらく動けないはずだ。
それは我が国も同じだが、今のうちに兵力を増強しておけば、新ラーベ王国に負けはせぬ!
「新ラーベ王国に対抗できる兵力を新たに整えるのだ!」
「陛下……それはあまりにも無謀すぎます」
「占領した国々とて、連合軍に参加した将兵の大半が戦死して戻って来なかったのです。むやみに兵力を増やしてしまうと、生産力と国力が落ちてしまいます」
「今は、新ラーベ王国と同盟なり、不可侵条約を結ばれるのが先だと思います」
「……話にならん!」
こいつら……。
最悪ゾーリン王国が滅び、私が死んでも、自分たちは新ラーベ王国に降伏すればいいと思っていやがる。
だが私は、お前らの策など採用しない。
今はゾーリン王国が生き残るため、非情の策を用いなければいけないのだ!
「数年間の不可侵条約であれば、きっと新ラーベ王国も受けるはずです」
「向こうも、多くの働き手を失った国々を統治しなければいけないのですから」
「駄目だ!」
数年も待っていたら、ゾーリン王国と新ラーベ王国との国力差はどう足掻いても覆せないものになってしまう。
一日でも早く大兵力を再編し、先制して新ラーベ王国に攻め込む!
それしか、ゾーリン王国が生き残る術はないのだから。
「(お前らも一蓮托生だ!)なによりも兵力の再編が最優先だ! 他の予算はできる限り削れ! 税金は上げられるだけ上げろ! 占領した国よりも同様だ」
「いまだ占領した国々は落ち着いておらず、下手に増税などしたら……」
「反乱を起こされてしまいます!」
「そんな連中、皆殺しにしてやればいい! 新しい王に逆らったらどうなるか。最初は見せしめに惨たらしく殺してやればいいのだ。その方があとの犠牲が少なくなるからな」
とにかく今は兵力を増やさなければ、新ラーベ王国に滅ぼされてしまう。
「(あの地獄の戦場から、私は唯一逃げ延びた王だ! 私には運があるのだ! きっと生き残れる……」
ゾーリン王国とその王である私が一番重要なのだ。
その二つが生き残っているからこそ、民たちは暮らしていける。
ならば、その二つを守るために少しくらい民が死んでも、それは必要な犠牲というやつだ。
「本当に増税をするのですか?」
「そうだ! どのような手を用いてでもいい。民たちの稼ぎの九割を徴収するのだ。一割も残っていれば、民たちも生きていけるだろう」
それにもし死んだとて、またすぐに生まれてくるさ。
「いいか! これまでにない大兵団を再編し、必ずや新ラーベ王国を滅ぼしてやるぞ!」
それが実現できれば、私がこの大陸の覇者となるのだから。
そうしたら、減税をしてやればいい。
とにかく今は、一秒でも早く新ラーベ王国に攻め入らねば。
「……税率九割? それは生活できるのか?」
「できません。だから家族を連れて逃げてきました」
「そうか……。それでどうする? 難民キャンプで故郷に戻れるようになるまで過ごすか、農地や仕事はあるから、新天地で新しい生活を始めるかだ」
「私たちは、新しい開拓地で農業やりたいです。さっきお役人の方に説明を聞いたのですが、とても広い田畑が貰えるし、最初の一年は無税だって聞くじゃないですか。肥料も無料で配給してくれて、効率的な栽培方法も教えていただけるそうで。それなら、新天地で頑張ろうと思うのです」
「そうか。みんなの意思を尊重しよう。自分でよく考えて選択してくれ」
「ありがとうございます、陛下」
「新ラーベ王国の王様はお優しいべ」
「ゾーリン王は、税を払えない農民を『国営農場』に送り込んでいると聞きます。もう怖くて故郷には戻れません」
「ダストン様、酷い話ですね」
「生き延びようとしているとはいえ、人間はここまで酷くなれるんだな」
新ラーベ王国に攻め込み壊滅した敵れ連合軍に参加し、王や大貴族たちを撃たれてしまった国々は、我が国とゾーリン王国により分割占領された。
こちらは犠牲も少なかったので占領した国はとても多く、占領した以上は面倒をみないといけない。
一家の働き手を失ってしまった女性や子供たちへの食料や生活物資の支援。
将来困窮しないように教育や職業訓練も施さないといけないし、次々と大規模開発している農地や町への移住者を募ったり、空いた場所を再開発したりと。
すべて新ラーベ王国の持ち出しなので、財政面で考えたら大赤字であろう。
俺たちとアトランティスベースがあればこそだが、きっとゾーリン王は不気味に思っているんだろうな。
せめて降伏してくれれば……無理なのはわかるが、俺たちの仕事を増やさないでほしい。
ゾーリン王国は新ラーベ王国に対抗すべく、現在とんでもない重税をかけて軍事予算を増やしていた。
その方針に逆らって処刑された者もおり、彼がここまで酷くなったのは、ゾーリン王を操っていた女帝アルミナスの四天王の一人メリーという精神安定剤がいなくなったからであろう。
ゾーリン王は、メリーがいたからこそ若き野心のある王として演技ができたのであって、いなくなれば一気に精神状態が不安定になってしまうようだ。
メリーが人間同士の分断策を仕掛けるのに、ちょうどいいターゲットだったわけだ。
当然素直に重税を収めたり、それに逆らって処罰される者たちばかりでなく、今俺とプラムが事情を聞いた農民たちのように、新ラーベ王国領に逃げ出す難民たちが国境地帯に殺到していた。
彼らも保護しなければいけないので、俺とプラムも大忙しで働いていたのだ。
なにしろ急速に領土が広がってしまったため、必要規模の軍の育成と編成がまったく間に合っていなかったのだ。
「ドスルメル伯爵が、書類の海で溺れている光景が脳裏に浮かびます」
「戦争よりも、その準備と後始末の方が何倍も大変なんだと、普段から言ってるからな」
一見脳筋、武闘派タイプに見えるドルスメル伯爵であったが、本当にそうなら商都アーベンの防衛など任されるはずがない。
逆に言えば、ちゃんと書類仕事ができるからこそ、彼は今大いに苦労しているのだから。
「それにしてもまあ。わかりやすい愚王だな」
今からそんなペースで重税を取っていたら、国が保たないと思うんだが……。
「新ラーベ王国を倒せば、すべてが解決すると思っているのでしょう」
「倒せたらだけどなぁ……」
先日の戦いでも、自分はろくに戦わず逃げ帰ったくせに。
兵数は無理やりにでも集めるのだろうが、精鋭を多く失ってしまった以上、装備や補給にも大きな差があるだろうし、いったいどうやって勝つつもりなのであろうか?
「でも変ですね、ダストン様」
「変?」
「はい。逃げ延びてきた難民の数が大過ぎると思いませんか? 彼らを逃してしまいは徴税できないのですから、軍を出してでも逃亡を阻止するはずなのに」
「こんなバカみたいな重税。何年も続けて取れるわけがないから、そのまま放置したのかな? いやもしや!」
それだけではなく、わざと大量の難民を押し付けて、新ラーベ王国の足を引っ張ろうという策なのか。
「難民支援に使う予算分、軍事費を減らせるという計算なのかな?」
「その可能性は高いと思いますが、そんなことしたら兵数が集まらないのでは?」
「……あの愚王め!」
ゾーリン王の考えていることがわかってきた。
彼の考えている軍備増強とは、国内に心の闇を抱えている者たちを増やし、彼らを機械大人、機械魔獣化することなのであろう。
機械大人と機械魔獣がゾーリン王国を律儀に防衛すると思わないが、新ラーベ王国を破壊してくれたら、最後に生き残ったゾーリン王がこの大陸の覇権を握る。
そういう計画なのであろう。
「ダストン様、待つのは悪手ですね」
「そうなんだよ。一番犠牲が少なく最良の手が、ゾーリン王国に攻め込むことなのさ」
新ラーベ王国軍はまだ動員を解いていないし、俺とプラムはいつでもすぐに出撃できてしまう。
食料の備蓄も多く、住民保護をしながらゾーリン王国を攻めようと思えば、それはできてしまう環境にあった。
「きっと、ドルスメル伯爵は怒りますね」
「やるしかないから反対はしないだろうけど……」
再び軍を出し、戦争と悪政で疲弊したゾーリン王国を併合、統治する。
多くの物資と予算が必要となるが、新ラーベ王国においてその心配をする必要ない。
だが……その結果生じる膨大な事務手続きと書類の決裁。
仕事を増やしてくれたゾーリン王に対し、 ドルスメル伯爵はきっと怒っているだろう。
「新ラーベ王国に機械大人と機械魔獣の群れが攻め込んできたら大変なことになってしまう。先手を打ってゾーリン王を討つしかないんだ。プラム、出撃だ!」
「わかりました」
事情が事情なので仕方がない。
俺とプラムは急ぎ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボに搭乗してゾーリン王を討つことにしたのであった。
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