第13話 朝露が濡らしたのは……

 昨夜の騒ぎが欠片も見付からぬ程の穏やかな朝が四人を包んでいる。こと宗一に至っては両隣をセーニャとヴィルナに、更にはリーナが宗一の身体を上から覆い被さるようにしてその身を包まれている。昨夜からリーナが宗一の身体の上から頑として動かず、結局この体勢のまま四人は一夜を明かしたのだ。


「すぴー……すぴー……」

「ん……あさ、か……?」


 宗一はリーナの寝息に反応するように眠気眼で身を捩るが思うように身体が動かせない。左右に加えて上からもぎゅっと三人に押し込まれてるからである。


(あぁ……そういえば、皆で寝ることになったんだっけ。全く……寝苦しくて仕方がない。寝返りもろくに打てやしないし、さっきからベタベタと何かが顔に掛かって鬱陶しい……ん? ベタベタ?)

「うおおおぉぉおおぉぉーーーーーっっ!!?」


 突如としてあげられた宗一の雄叫びにセーニャ達は飛び起き、「どうした!?」と近くに備えてあった武器を手に周囲を警戒する。すっと身を屈め、息を潜めて辺りを見渡しても周囲に異変は感じられない。セーニャは緊張感を保ったまま視線を宗一に移してもう一度「辺りには何も気配を感じないが……一体何があったんだ?」と聞いた。ヴィルナも同様に宗一の言葉を静かに待っている。


「……これを見てくれよ!」

「む……むぅ、なんというか……べったべたになっているな。はっきり言って汚いぞ」

「知ってるよ! あとリーナはさっさと起きろ! さっさとそこからどいてくれ!」

「すぴー……じゅるる、ずぴっ……うわっ! ななな、何だぁっ!?」

「うわっまた……涎を垂らして……もう! いくらなんでも涎を垂らしすぎだろ! 俺の顔がベッタベタじゃないか! んもう、早く退いてくれっ!」


 宗一の雄叫びに即座に反応したのはセーニャとヴィルナだけで、リーナは我関せずと惰眠を貪っていたのだが、宗一が憤慨して身体を跳ねさせるとリーナは弾き飛ばされる様に転がっていったが、やがて眠たげによろよろと起き上がると大きく伸びをして「んっ! 今日も良い天気だな……皆、おはよう!」と満面の笑みで皆に声を掛けた。


「あぁ、おはよう! って言えるか! 見ろ、俺のこのベタベタにされた顔を! 全部リーナの涎だぞ!」


 宗一は言いながら顔に手を当てるとべちゃっとした感触に顔をしかめる。その光景を見ているセーニャとヴィルナもまた宗一と同じ様に「うわっ……」と顔を歪ませた。


「私が……? ははは……そんなバカにゃ……じゅる、おっとっと……私がそんなバカな事をする訳が無いだろ? これでも花も恥じらう年頃はちょっと過ぎたかもしれない乙女、なんだぞ?」

「はい、した! 今した! 今俺の目の前で思い切りじゅるってただろ! 何が乙女だ、人の顔を涎まみれにする乙女が居てたまるかっ!」

「今のは喋ってたからちょっとじゅるっただけだ! 私がそんな人の顔をベタベタにするわけがない……うわぁ、それにしても宗一、お前ちょっと顔を洗ってきた方がいいんじゃないのか? ベタベタだぞ?」

「知ってるわ! 俺の顔をこうした犯人まで知ってるわ! 今目の前で惚けてる最中だわ!」

「してない! 私じゃない! 大体自分の顔が涎まみれって……お前が自分でしたんじゃないのか? 寝ながら口からぴゅー、ぴゅーってやったんだろ!?」

「そんな噴水みたいな器用な真似ができるか! 全部リーナの涎だ!」

「いーや、私じゃない。何故なら私は……乙女だからな!」

「そんなのが理由になるか!」


 リーナは薄い胸を張ってふんぞり返るが、宗一の怒りは収まらない。そのうち二人はお互いに感情が昂り「リーナが!」「宗一が!」と言い争いを始めた。そんな二人を尻目にセーニャとヴィルナはどうやらこの様子だと構えていた武器は下ろしてもよさそうだな、と安堵の表情を見せた。


「えーい宗一、お前はいい加減にしつこいぞ! はぁぁ……ふんっ乙女覇拳っ!」

「おっご、ごふぅ……っ!」


 リーナが声と共に宗一の腹部に拳を滑り込ませた。悶絶しながら崩れ落ちる宗一に向けてリーナは口を開く。


「いいか……乙女は寝ている間に涎なぞ垂らさない! その身体にしっかりと刻み込んでおけ!」

「確かに乙女は……涎を垂らさない。そして腹部を強打する技も持たねぇっ! よってリーナ……お前は乙女じゃない!」

「このっ! まだそんな事をのたまうのか!」

「はいはい、二人ともそこまでにするですぅ! 宗一も取り敢えず向こうの沢で顔を洗うですよ。案内するから着いてくるです……えーと……肩、貸すですか?」


 見かねたヴィルナが間に入ると、宗一は小さい声で「頼む……」とヴィルナの肩に体重を預けた。そしてそのままよろよろと腹部を抑えながら沢がある方へと歩いていく。


「さて、宗一にいきなり起こされて困惑したが、我々も沢で顔でも洗おう。それとついでに水を汲んでおかないとな」

「ん、そうだな。行くか」


 肩を組んだ二人の後ろをセーニャとリーナがゆっくりと着いていく。木々が擦れる音の中に微かに聞こえる沢の水音が爽やかな朝を演出していて四人が緩やかな流れの小さな沢に着く頃には宗一の苦痛も大分和らいでいた。

 宗一は沢を流れる水にそっと手を差し込むと予想外の冷たさに一瞬身体が硬直するが、意を決して水を掬って顔を洗った。一連の騒動で眠気など怒りで疾うに吹き飛んでいたが、その怒りすら沈める程の清らかな水が心地好い。


「ふぅ……少し落ち着いたな。朝から酷い目にあった……」


 宗一が恨みがましい視線をリーナに送るとリーナは「ふんっ!」とそっぽを向き「もう頼まれてもお前の上では寝てやらん!」と唇を尖らせた。いや、絶対に頼まないし、そもそも昨夜も頼んでないからなと宗一は思ったが、また乙女覇拳とやらを繰り出されると困るので「……さいですか」と言うに留めておいた。


「……それにしても、不気味なくらいに静かだな」


 セーニャが顔を拭いながら言う。宗一は動きを止めて耳を澄ませてみるが、小さいながらも力強く水を流している音と、風に押されて一斉に騒ぎ出す木々の音が良く響いている。その騒がしさから、セーニャが言うように静かとは言えないと思えた。


「……そこまで静かではないようだけど」

「では耳を澄ませてみろ、宗一の耳には何が聞こえる?」

「目の前に流れる水の音、森の葉が擦れる音」

「他には?」

「あとは……ヴィルナが水筒に水を汲む音が聞こえる」


 宗一達の近くでヴィルナが水の中に水筒を沈めているのが見える。コポコポと空気を漏らしながら中を水で満たすその水筒は宗一が慣れ親しんだステンレスや合成樹脂では無く、何かの皮を縫い合わせた袋のような物であるがオークの集落からの旅路では宗一の喉を充分に潤してくれた。


「……他には?」

「んー、あ……今リーナがくしゃみをしたな」


 ぶえっくしょい! と豪快なくしゃみが森の中に鳴り響く。セーニャはそれに対して眉間に皺を寄せて不快感を露にしながら「他には?」と続けた。


「他にって……今はリーナが隣で喚いているな」

「うおぉーーい、早く野営地に戻って食事にしようじゃないか! 昨日のンポポがまだ残っているんだぞ!? な、もう私も怒っていないから! な!?」

「リーナ以外でだ! とりあえず今はリーナの事は無視して他の音を聞いてみろ!」


 セーニャはリーナを手で追い払うと、再度宗一に聞いた。リーナは「なんだよぉ」と不貞腐れて離れていくと、宗一の耳にはやはり森林の合奏と沢の微かなせせらぎしか聞き取る事は出来なかった。それらは宗一に充分な存在感を与えたが、それ故に何処か歪さを兼ね備えているのに宗一は気付いた。


「言われてみれば、自然の音や俺達の声以外……動物や野鳥の声とか虫の音が全く聞こえてこないな。オークの集落では夜でも五月蝿いくらいだったのに……」

「……そうだろう? そうそう、それでいいんだ」


 満足な答えを聞けたからだろう、セーニャはうんうんと頷いて続けた。


「やはりこれ程周りから生命の気配を感じないのは異常だ。私達には感じられない何かを他の生命達のは感じ取って近寄らないのかもしれないな……」 

「……そうなのです。前まではここも四六時中色々な種類の鳴き声が聞こえて五月蝿かったのですけど、今はこの通り何者も近寄らなくなったのです」


 いつの間にか近くに立っていたヴィルナが神妙な顔付きで言った。何処と無く声が沈んでいるのはその懐かしい情景を思い出しているのだろうか。


「……そろそろ戻ろうか」


 宗一はそう沈黙を破るとゆっくりと歩き出した。沈んだ空気を打ち払うように出来るだけ明るく言ったつもりだが、皆の足取りの重さを見るに不安を払拭するには至らなかったようであった。

 三人の視線の先には先程セーニャに追い払われたリーナが膝を抱き抱えるように座っており、じっと流れる水を眺めていた。

 物憂げなその横顔は端正な顔立ちと相まって宗一が思わず息を飲む程の光景なのだが、自身を涎まみれにした張本人でもあるので内心は複雑であった。


(失礼な物言いだけど、リーナもこうして黙っていれば美人な女性で通るんだけどな……)

「さぁリーナ、戻って食事にしよう。皆で腹拵えをしたら神殿に出発だ。ほら、俺の手をとって……」

「……やだ」


 リーナは頬を膨らませてプイッと顔を背ける。


「……お前らはさっき私を邪険にしたからやだ!」

「いやいや、そんな事はしていないだろ。セーニャが俺に説明する為にしたのであって、リーナを邪険にするなんてそんなつもりは俺もセーニャも毛頭無いよ」

「手で追い払ったじゃないか! しっしって虫でも払うかように……私の心は傷付いた! 叩き付けたヴェルデンガンの様にヒビだらけになったんだ!」

「そんな事言うなよ……ヴェルデンガンだなんてそんな……いやちょっと、そのヴェルデンガンって何なの?」


 宗一は隣のヴィルナにこそりと聞いてみる。ヴィルナは「王国の硝子細工ですぅ」と簡単な説明をして、更に宗一の耳にそっと口を近付けてゴニョゴニョとアドバイスを伝えた。要約すると物で釣れという訳である。


「わかった……それならリーナ、ンポポの御代わり自由! これでどうだ?」


 リーナはその案にぴくりと肩を動かしたが、その腰を上げるには至らない。どうやらンポポの御代わり自由だけでは足りないようである。


「しょ、しょんな……じゅるっいかんいかん! そんな食べ物ではぺギュリのズードゥーをベントラしたかのような私の心は動かないんだ!」

「いや、一個もわかんないんだけど! その形容詞じゃ俺の心に何の感情も湧いてこないよ! あーもう、わかったわかった、それならリーナはどうすれば機嫌を治してくれるのか、それを教えてくれないか?」


 宗一の問い掛けにリーナは少しだけ此方に顔を向けると「……そ、宗一から私にまた一緒に寝てくださいとお願いしろ」と恥ずかしそうに呟いた。紅潮した頬と上擦った声から察するに相当の恥ずかしさを圧し殺しての言葉だったが、宗一は返答に詰まった。これがセーニャやヴィルナからの言葉なら特に意識もせずに答えられたのだが、先の涎まみれの惨状を考えると直ぐに了解とは言えなかった。


(……ん? いや、待て待て、何もまた俺の上で寝る訳じゃないよな。それなら別に構わない、俺の上で寝る訳じゃなければリーナの涎は地面に落ちるだけだ)


 リーナがチラチラと宗一の返答を伺っているのが見て取れる。隣のセーニャは「寝てくださいと頼むのか? ん?」と言わんばかりにジトーッとした目で宗一を睨んでいて、ヴィルナも宗一の返答に興味津々といった様子だ。宗一はそうした三者三様の視線を受けながら一呼吸置いてから口を開いた。


「うーん、そうだな……上に寝るのはちょっと──」

「うわああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ! やっぱり私と寝たくないんだあぁぁぁぁあーーーーーーっっ! 涎を垂らす無い乳ペタペタ女だと思っているんだぁぁぁーーーーっっ!」

「そこまでは言ってないって! でも涎は実際に垂らしただろ!」

「わああぁぁぁぁぁーーーーーーっっ! 私を涎ポタポタ女だと言うのかぁぁぁぁぁーーーーーっ! 少し、たった少し口の端から涎が零れたかもしれないだけだというのにぃぃぃーーーーーっっ!!」

「だっばだばに溢してただろうが! なんで頑なにそこは認めないんだ!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」

「全く……宗一、それは流石に言いすぎだぞ!」

「そうですそうですぅ!」

「これ俺が悪いの!?」

「んもう、宗一、いい加減にするですよぉ。悪くても悪くなくても男の子なら泣いてる女の子には優しくしなきゃ駄目ですぅ! ほーら、リーナにちゃんと謝るですぅ!」

(……そう言われると、確かにそうなのかもしれないけど。でもこれ、泣き真似にしか見えないんだよな……)


 宗一はその一連の流れに一抹の不満を感じながら、尚も泣いて喚き続けるリーナを見ているとそこはかとない罪悪感が湧いてくる。


「……俺が悪かった。これからもリーナが良ければまた一緒に寝てくれないか? まぁ上とは言わず、横でもいいわけだし……」

「宗一がそこまで言うのなら仕方がない、また宗一の上で一緒に寝てやろう! はぁー全く仕方がない奴だ!」

「泣き真似かよ! いや分かってたけどね!」


 リーナは先程までの号泣も何事も無しに立ち上がると逆に宗一に「ほら……行くぞ!」と手を伸ばした。それは数分前までとは全く逆の構図である。宗一が仕方無しにその手を掴むと四人は野営地へと歩き出した。


「それにしてもリーナ、態々俺の上に寝なくてもいいだろう? 横じゃ駄目なのか?」


 野営地へと戻る道すがら、宗一はリーナに聞いてみる。隣同士寝るのなら、例え涎が出ようともその雫は地に落ちるだけなのだ。もし昨夜もそうであれば宗一が乙女覇拳を打たれる悲劇も無かったのだから。


「それはだな……ほら、また一緒に寝る時にはきっと隣にセーニャとヴィルナがいるだろう? だから、私なりに考えてだな……」

「リーナのその微妙な遠慮と心遣いはなんなんだ」

「それにこれから向かう神殿で誰かが死ぬとかも全然考えて無い。その自信は一体何処からくるんだ。不安とかは感じないのか?」


 セーニャは呆れ顔で言うが、リーナはやれやれとでも言いたげに手を広げて頭を振る。


「……いいか、セーニャ。例え彼の地に艱難辛苦が待っていようとも! 此方には勇者の宗一がいて! この王国騎士団辺境調査隊隊員補佐の私が、いるのだ! あとセーニャとヴィルナもいる」

「私達をおまけみたいに言うな、あと常々思ってはいたがその肩書き……やはりお前騎士じゃないだろ!」

(俺が前に聞いた時より肩書きが伸びている……この分だとこの肩書きも本当かどうか疑わしいな)

「私はほぼ騎士だから騎士でいいのだ、というかそこは掘り下げなくてもいいの! むしろ逆に私はお前達に聞きたい、何がそんなに不安なんだ? 宗一と私がいるんだぞ?」

「先ずリーナがそのように調子付く所が不安なんだ。これから先は何が待ち受けているのか分からないんだぞ、慢心は死を招く。ヴィルナもそう思うだろう?」

「え、私に聞くですかぁ? そうですねぇ……あ! 宗一とリーナは二人でンポポを倒したじゃないですか。だからリーナが頼りになるかどうかは宗一に聞けばいいと思うのですよ!」

「えぇー……それ俺に聞くの?」


 宗一はその問い掛けに頭を抱えて悩みだす。セーニャは「どうなんだ?」と言わんばかりの視線を投げ掛け、ヴィルナは宗一に全幅の信頼を寄せているからか、向けてくる表情は明るい。その一方でリーナは胸に両手を合わせてまるでお祈りをするかのような姿で「宗一ぃ……っ!」と懇願に近い声を出している。


「ん……まぁ、頼りになるよ。ンポポと対峙して倒したのは紛れもなくリーナだしな。ンポポの攻撃を何度も防いでくれたし、魔装具の力も疑う余地はないよ」


 但し、無駄に争う原因を作ったのもリーナだけどな。と宗一は心の中で付け加えておいた。


「だっろぉ!? そうだろ、ほら、ほらぁ! いやぁ勇者にここまでベタ褒めされるとはなー! もしかするとこれは今回の旅路で騎士を飛び越えちゃうかもなー!」

「騎士を飛び越えるって何だよ……」

「いや、ちょっと待て。これはつまりまだ騎士じゃないということを自分で認めているのではないのか?」

「ほぼ騎士だからいいんだ! まぁセーニャとヴィルナも私みたいに宗一から頼られるようになるまで頑張るんだな!」

「えぇー……私達は宗一に頼られてないです?」

「いやいや、滅茶苦茶頼ってるよ! 二人には本当に頼りっぱなしだから! 全く、リーナもあんまり調子に……乗るなっ!」


 宗一はそう言いながら勢いよくリーナの額に目掛けてデコピンを放つが、リーナは余裕綽々といった表情で「どっせい!」と気合いを入れる。すると胸元の魔石が輝きを増し、宗一のデコピンを見えない壁で阻んだ!


「くっ……また阻まれた!」

「だーっはっはっはっはー! いくら勇者と言えどもこの魔石が織り成す魔力の壁は破れまい!」

「はぁ……もう二人とも止めるんだ。リーナも魔力の無駄遣いは止めろ、魔石が使えなくなったら私達も困るんだからな」


 セーニャに諌められた二人は暫く言い合っていたものの、野営地でヴィルナがいつの間にか用意していた食事の前では借りてきた猫のように大人しくなった。そして四人はすっかり遅くなった朝食を囲んで食べ始める。然り気無く食事が豪華に見えるのは、これから神殿に向かう四人への心ばかりの餞別であることは言わずとも感じられる所であった。

 昨夜とは違い、静かに進んでいく食事が確実に迫る旅立ちの時を思わせる。四人が食事を終えたとき、それぞれが胸に秘めたるものを抱えて立ち上がった。窮地の希望が、果てなき栄光が、異変への疑問が、世界への困惑がそれぞれの手を引っ張り、また足を引っ張っている。


「──それじゃ……行こうか」


 皆が示し会わせたかのように頷いた。野営地にはヴィルナが籠一杯に持ってきた荷物のほぼ全てが残されている。捨てて行く訳では無く一先ず置いてあるだけだが、これを取りに来れるのが全員でありますようにと、誰もが口に出さずとも願っていた。


 ──神殿の入り口は、直ぐ其処である。

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