第10話 名ばかりの奇跡
「我々としても驚きです。あの負傷からよく生還しました」
「皆の腕が良かったからだ」
「しかし、その傷跡は…………」
「名誉の負傷としておく」
意識を取り戻し回復したという
回復の魔法は万能ではない、対象の体力を多少使うし傷も残る場合がある。
今回、俺は深く切りつけられたということで傷跡が残るのは仕方ない、とされていた。
新しい体にも生還出来たら残るはずだった跡が身体に刻まれている。
死んだと思われた状態からの生還、これはもう奇跡といって過言ではないだろう。
まあ、その実態はとても邪悪なものかつ痴態から始まった意図的な事故なのだが…………
これだけの騒ぎを起こしたのだ、俺はしばらく休養しなければならない身となるのだが簡単な話ではない。
「兄さま!よかった、本当に良かった…………」
「簡単に死ぬものか、この後に何かあるか聞いているか?」
「あ、いえ、兄さまでいっぱいで何も聞いてなくて…………」
「父上が来るかどうかは?」
「知らせは出しました。ただ、どれくらいでこちらに来るのかまでは分からないんです」
「いや、よくやった。父上を呼べただけで時間は稼げる」
俺は次期当主とはいえ勉強中の身、王宮内の交渉となると荷が重すぎる。悪意が分かっていたとしても裏を完全に読み取ることは不可能だ。
何度も言うように俺の力、『負の力』は万能ではない。過去に起こったマイナスの感情及び出来事から発生した事象から力や情報を得られても未来まで読むことは出来ない。
光り輝く未来は直視できないってか。そんなことを思いつつ再びベッドに横になる。
「兄さま、まだ体調が悪いようなら私が」
「無理をするな。あの後大方第三…………馬鹿に言い寄られたんだろう?現実も分かってない馬鹿に」
「そこは張り倒しておきました!」
「張り倒すな?」
褒められた行動ではないが、ちょっと嬉しいと思った自分がいる。
ニーニェは元々積極的に動く正確ではない。何をするにしても考えてから行動するタイプだ。
そんな妹が直情的に暴力を振るうとは、馬鹿のやらかしたことが大きいとはいえ相当なことだぞ。
「王宮内はどうなってる?仮にも王族が私情で決闘を仕掛けた挙句、外部からの干渉で勝ちを拾いつつ殺しにかかってきたことはどうあがこうと話題になるだろう。面会を希望した人はいたか?」
「アララ様が一度お見えになったのですが、そのすぐに兄さまが危篤になったとお聞きしたので、それっきりです」
アララ様が来たのか?彼女からしたらニーニェが婚約者を奪った複雑な立場になるのだが…………
正しい教育を受けられたアララ様ならわかってくれる筈だ、そう思いたい。
「悪いがしばらく休ませてくれ。色々考えたいこともある」
「分かりました、兄さまも…………」
「お前もしっかり休んでおけ。それと、周りの聞き耳も立てておけ」
「…………分かりました、兄さまもお大事になさってください」
ニーニェはそれだけを言い残して部屋から出て行った。
この部屋には俺しかいない。そうするように仕向けたのだから。
これからのことを簡単に考えよう、とりあえず王家との衝突は避けられない。
だめだ、もう胃が痛くなってきた。
このままだと多少の誹りは免れないし、別に王家の威光が弱くなることは…………少しあるが致命的ではない筈だ。
今回は第三王子だけ切り捨てたら終わりになる話でもあるから大した痛手にならない、と思う。
なんたって、王位継承が決まっている第一王子と既に将来の大臣候補として地位を確立している第二王子にとって第三王子は王位継承権が低くともライバルであることには変わらない。
それが浅はかな行動をとったらしれッと蹴落とすのが王族だ。
どうにかしてこちら側のダメージを少なくするか?簡単だ、この傷を負ったことと決闘の不敬を相殺しする。
半分大人だからこそ今の案が一番いいはずだ。
賠償と言われても領地を与えられる場所も無ければ金銭のやり取りでは周囲から賄賂ではないかと揶揄される。
政治って本当に厄介過ぎないか?行動1つ1つに責任が乗って、どのように降りるか、それとも権力に酔って溺れるか。
もう既に一度溺れ死んだ身だが、実際の死とは違う苦しみだ。
向こうの出方次第だが、また第三王子が変なのを引っ張ってこないといいけど…………
おっと、ドアがノックされる音だ。
「お休みの所、失礼します」
「ノックだけで入って来るとはな」
「申し訳ありません。ですが、公爵がお見えになっていますので」
「公爵が?」
誰か偉い人が来るのは分かっていたけど公爵が?となると、第三王子派の者か、それとも蹴落としたい方の者か。
できたらアララ様の関係者が良いな~、なんて。
「はい、リンダージ公爵がお見えです」
よし、まだ何とかなる!よし!少しはかばってくれるはずだ!
父上が来るのも時間の問題だし一人でも味方を多くしておかなければ!
「では入ってもらってくれ」
割と早めにリンダージ公爵と話が出来るとは。一度死んだ甲斐があったものだ。
だが、それもすぐに疑問と不安に変わることを知らない。
何故なら、リンダージ公爵は見たこともないくらいやつれていたのだった。
「ゴホッゴホッ、ボロトーのせがれ、今回はゴホッ!」
「何があったんですか!?」
リンダージ公爵は、どう見ても死相が見えていたとは思わなかった。
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