風前の地下壕

赤目のサン

1948年、ソ連オムスク臨時政府、地下壕の中。

バン!

壕内に銃声が響いた。

また誰かが命を絶ったのだろう。

馬鹿な連中だ。東に逃げれば少なくとも生きていられる可能性はあるのに。

西では多くの同志達が奴隷として働かされていると聞く。

だが私は…降伏しても奴隷になれそうにない。

姓はアーロノヴィチユダヤ系の苗字だ。今この壕で生きているのは、

臨時政府の首脳メンバーか、私の様なユダヤ人だ。初めて自分の先祖を呪った。

先程自殺した奴を"馬鹿な連中"と評したが、東に逃げるにしても無駄な事だ。

-40℃近い極寒のシベリアを一日でも生きられると言うのか?

無理な話だ。

バン!

…今もまた誰かが死んだようだ。

ロシアンルーレットで自分の頭を吹き飛ばす勇気はない。

まだ諦めきれないからだ。

「やあヴィクトル、…まだ此処に居たのか。」

今話しかけてきた此奴もユダヤ系だ。

「自分の頭を吹き飛ばす気にはなれんよ。」

「そうか…うん。」

彼の右手にはナガンM1895リボ自決の道具ルバーが握られていた。

をする気か、それとも…。

「あ…そうだ…。手遅れになる前に言っておこう。」

「ん、…何だ?」

壕が揺れ始めた。午後の砲撃が始まったか。

「おっと…砲撃だ。」

シベリアに逃げるにしても、ヤポニア大日本帝國に逃げるとしても、

外のナチス兵に捕まるよりかはここで死んだ方がマシなのかもしれない。

「それで、手遅れになる前とは?」

私は彼に聞いた。

彼は数秒間黙っていたが、静かに、だが聞こえるようにこう言った。

「……ヤポニア大日本帝國が参戦したそうだ。

…残念だが…Шахチェックメイトだと思う。」

銃声は砲撃に掻き消された。

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風前の地下壕 赤目のサン @AkamenoSan

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