背中2
食連星
第1話
どうか分からない流れに
そう,
頬杖をついて見ていたような感じだった.
登場人物も把握しないまま
眺めていただけだった.
気が付いたら見知らぬ古く置かれたままになっていた人から
マに平手が振り落とされていた.
危機一髪,間一髪,免れたことだったのか分からないまま.
「お父さんやめてくださいっ」
て声は遥か後ろの方から聞こえた気がした.
なおも掴みかかろうとする人に!
守るべき人は誰なんだよって問うまでもなく,
間に滑り込み,覆い被さって,
「もういい戻ろうっ
俺が変なこと言ったからっ」
涙も涎も何もかも垂れ流しながら.
世界が異常だった.
久しぶりの日本公演だった.
内心うきうきしながら.
おとーふ好きだし
てりやき好きだし
アニメ好きだし.
ライオンも使う人もコンディション良くて,
マシンもライダーも具合良くて,
空中ショーも喋りも調子良くて,
とにかく,ちょっとここで滞在してみたいなって思ったんだ.
マは,千秋楽は大事よって,
終わり良ければ総て良しよって,
そういう人だったのに,
それを待たずして発った.
和装で金属フープを大量に回していく.
その演目を最後の日のみのお客さんは見られなかったんだ.
残念ながら.
後で思い返せば,逆算したらオフの間に戻って来られないかもしれないと
そういう配分だったのかもしれない.
バスに乗って電車に乗って,またバスに乗って.
「この国を知りたい.勉強したい.」
言ったばっかりに.
それがきっかけだったんだ.
それが発端だったんだ.
ザっ和っ.
そういう外観の建物に.
何で着いたのだろうって.
マは,
「お前はカンドウしたんだ!」
と真っ赤になって大声を上げる男の人に.
暴力を振るわれた.
俺が間に入っても尚,立ち上がらずに,
逃げずに.
「この子は私の子です!」
とマは言った.
今ここで紹介されたって…
俺は背を向けてるし,その鉄槌は俺にも向かってくるんじゃないかって.
思ったけども.
マに向かわないなら,それでいいのかとも.
そう思ったりもして.
背中から緊張してた.
多分後ろから見たら黒髪で,
少し立ち上がった襟で色白な首は見えてなかったと思う.
前を向き直せば,目の色が違うことは分かるんだろうなって.
出会い頭の事故で,
お互いに把握することは難しかったんじゃないかと思う.
暫し時が止まって.
誰も何も言えなかったようだった.
大人は皆.
「マ…母さん,もう戻ろう.
立ち上がって.」
膝をついて,手をついて.
最上級のソーリースタイルなんてとらなくたって.
「暴力を振るわれたところを見たのは初めてです.」
顔だけ後ろ向いて声を上げたけれど,
視界に映るのは大きな壺だった.
壺とか見ても仕方ねぇ.
立ち上がって向き直って,
マを立たせようとするんだけど,
明らかにマは反対の動きをとっているようだった.
力の加減がおかしかった.
「この子に日本を教えてあげたいんです.」
「もういいんだよ.
ここじゃなくたっていい.
こんなとこ…」
首だけを上げて鼻から息を出す.
誰を気遣えばよいのか分からなくなったけど,
もう俺のことはいいとだけ思った.
背中2 食連星 @kakumi
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