第12話 引きずり込まれる交差点(裏)
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ある晩、杉山美桜(仮名)は人通りが少ない交差点にいた。昼は多くの人々で賑わっているだろう歩道が整備されて周囲を一桁代のビルが囲っていた。しかし、夜ではその活気は失われ、ただ街灯の明かりが道路を照らしている。
彼女は交差点の中央で不気味な光が点滅しているのを見つけた。その光は何かが現れる前触れのように謎めいていた。
杉山美桜は好奇心にかられ、道路の左右を見渡して車が来ないことを確認し、その光が点滅する場所に近づいていった。すると、交差点の真ん中で足元に見慣れない文字が浮かび上がる。それは古びた言葉で、何とか読めるものの、意味は全く分からなかった。
杉山美桜がその場を後にしようとした瞬間、何者かが突然彼女の前に現した。それは不気味な仮面を被った人物で、彼女に向かって言葉を発した。
「時間の迷子、ここで待っている」
驚いた杉山美桜はその場から逃げ出そうとしたが、仮面の人物は彼女の前に立ちはだかった。方向を変えて逃げようとしても目の前には仮面の人物がいた。言葉通り、彼女を交差点に留め置いたまま動くことが出来なくなってしまったのだった。
そして、交差点の中央で浮かび上がった文字が少しずつ光り輝き、その光が彼女を包み込んだのだった。
しばらくして、周りの景色が変わり、杉山美桜は現実のようで現実でない、異次元のような場所に迷い込んでしまったようだった。
彼女はそこで奇妙な存在に遭遇した。人のようだったがヒトでないナニモノか。声をかけても一切反応を示さず、ただ陽炎のように蠢くばかり。
彼女はそこで未知の風景に囲まれていた。オフィスビル郡のようで、繁華街のようで、住宅街のようで、地方の田舎道のようで、あらゆる特徴があるのに全く特徴が掴めない、ちぐはぐでぐちゃぐちゃな、違和感しかない空間だった。
そしてその場所には杉山美桜以外にもいた。同じような体験をした者たちが次第に増え、杉山美桜らはその異次元の空間で互いに遭遇したのだ。そして、誰もが同じように仮面の人物に遭遇し、交差点に導かれたのだった。
杉山美桜らは時間と現実の迷子となり、異次元の世界に取り込まれてしまったようだ。仮面の人物は彼女らに何かを教えようとしているようでしたが、その言葉は全く理解出来なかった。
数日が経過し、杉山美桜らは交差点の異次元の中で生活するようになった。アパートの空き部屋や無人のコンビニ等、生活するだけの環境は整っていた。そこでは日が昇り、夜が訪れ、しかし季節や時間の経過が不規則で、現実の時間とは異なる時間が流れていた。
その異次元の交差点に閉じ込められた者たちは、自分たちが何者かに導かれ、異なる次元に迷い込むことで、新たな世界に生きることを強いられているようだ。そして、交差点の異次元が彼らの新たな現実となっていったのだった。
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「ってことはコレって異次元からのお便り? 異次元って現世までネット繋がってたんだ。でもそのわりにはその異次元とやらの情報はネット上に転がってないし、単に創作なのかなぁ。それとも映画とかでよく見るように、政府機関が情報をシャットアウトしてるとか」
リスナーからは様々な意見が届けられる。本当に異次元誘拐事件が起こってる説、怪奇話に例えて実際は現実で集団誘拐事件が起こっている説、単なる空想説、活発に議論されるが、結局はいつものように結論は出ない。
「やっぱ怪しい前兆があったら近寄らないのが吉なんだろうね。それじゃあ時間になったから今日はこの辺で。また明日ね、ばいび~♪」
幽幻ゆうなが別れの挨拶をするとリスナーからも挨拶が送られ、配信は終わった。
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