第6話 公園を彷徨う悪霊(裏)

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 鈴木拓海とサークル仲間はとあるマンションに敷地内にある小さな公園にいた。その公園は美しい花や噴水があり、住人に憩いの場を提供していたが、その一角には不気味な噂が立ち込めていた。


 ある日の夜、たまたまマンションの住人が公園で起こる不可解な出来事を目撃した、というのだ。公園で世間話をする女性達の噂話に耳を傾けると、何でもその住人は深夜、散歩をしている最中に、公園の一角で幽霊らしいものを目撃したと話したのだそうだ。


 その幽霊は透明な姿でありながら、明るく輝く青白い光を放ち、静かに公園を彷徨っていたと言う。彼はその幽霊が何者か、また何故公園を徘徊しているのか理解できなかったと述べていた。


 ある者は、その幽霊がかつてその地に住んでいた人物の亡霊であると言い、彼の未亡人が彼の死後に公園にその姿を現した、という噂が流れた。また、別の者は、その公園が昔からの霊的な場所であり、幽霊が何かしらの使命を果たすためにその場所に留まっているのではないか、と考えた。


 この話が広まると、マンションの住人以外の者達も公園のその場所に興味を持ち、幽霊を目撃しようと散歩に訪れた。そして、次第にその公園にまつわる不気味な出来事が世間に広まっていったのである。


 鈴木拓海とその仲間は幽霊の真偽を確かめるべく、尤も彼らは本当にいるとは全く考えていなかったが、手分けして公園の中を徘徊することにした。


 子供達が遊具や砂場で遊び、母親らしき女性達がベンチで談笑し、広場では老人達がグラウンドゴルフを楽しんでいる。鈴木拓海はそれを尻目にくまなく公園内を周り、集合場所に戻った。


 一人足りない、と気付いたのは誰だったか。悪態をつきながら手分けして探し回るも見つからない。それどころか再び集合場所に集うと今度はまた一人いなくなっていたのだ。


 電話をかけどチャットアプリでメッセージを送れど一向に応答がない。鈴木拓海達は恐怖に襲われながらも振り払うように怒鳴り超えをあげて、今度は皆一緒になって探し回った。


 戻らなかった仲間を見つけたのは庭園の一角でだった。倒れ伏す彼らの身体はまるで氷を触ったかのようにとても冷たかった。目を見開いて息絶えていた仲間の惨状に、とうとう仲間の一人が叫びながら逃げていく。


 呼び止める鈴木拓海達だが、彼らは信じられない光景を目にした。まだ日が昇る昼間にもかかわらず空間が歪んだように見えた。そして明るく輝く青白い光が漂ったかと思うと、逃げる仲間にまとわりついたではないか。


 途端、動きをぎこちなくして倒れる仲間。そばで凍死している仲間と同じ末路を辿ったのは明らかだった。


 冗談じゃない、と鈴木拓海達は駆け出した。途中、仲間の一人が転んだようだが、気にもかけずに鈴木拓海は走る。一瞬の悲鳴が彼の耳をつんざいたのはすぐ後のことだった。


 何とか中庭の出口までたどり着いてエレベーターホールへの扉を開こうとするも、向こうから鍵がかけられているのか、全く開かない。もたつく仲間にしびれを切らした鈴木拓海がドアノブをひねるも、びくともしない。ガラスに蹴りを入れるもヒビすら入らず、苛立ちが募るばかりだった。


 直ぐ側で起こる悲鳴。鈴木拓海が振り向くと、そこには断末魔の叫びを上げて倒れる仲間も死に顔が映る。そして、明るく輝く青白い光がその光度を変えて形作るのは、明らかに人の姿だった。


 彼女は鈴木拓海に笑いかけた。

 鈴木拓海は絶叫を上げた。


 公園では何事もなかったかのように子供、母親、老人達が日常を送っていた。


 □□□


「え、また死後メッセージを送ってきたパターン? 自称するにしてもその辺りのオチを考えてきてほしかったかなぁ」


 幽幻ゆうなのもとには自分が犠牲になった系の話も届くようになっていた。よほどつまらない限り、そして過去の紹介事例と被らない限りは紹介するようにしていたが、少しルールを改めた方がいいかもしれない、と幽幻ゆうなは考えた。


 幽幻ゆうながこの鈴木拓海(仮名)とそのサークル仲間が犠牲になった事件についてリスナーに聞くも、類似の事件は見つけられないとの回答が帰ってきた。


「徘徊者のみなさんは霊界行きにならないようにくれぐれも用心して行動してね。それじゃあ今日はここまで。ばいび~♪」


 結局、この日も怪奇語りが騒がれることなく、配信は幕を下ろした。

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